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第四十四話 ゼクトのいない冒険者ギルド 一

「ゼクトが怪我をして(しばら)く休養を取ることになった」


 この冒険者ギルドのギルドマスター『ザック』は重苦しい雰囲気を(かも)し出しながらそう言った。

 

 今、冒険者ギルドの受付に朝早くから多くの冒険者が集められている。

 そこには冒険者のみならず受付嬢や職員、サブマスにギルマスが勢ぞろいだ。


「それがどうしたんですか? 」


 人族の冒険者がそう言った。

 それが気に入らないのかザックは(まゆ)(ひそ)めた。

 しかしこの冒険者が(たず)ねていることはなんも不思議ではない。

 何故ならば、Dランク冒険者一人が怪我をして休養を取るだけ。

 普通ならばとりわけ重要なことでもないからだ。


「お前達。ゼクトがどのくらい仕事をしているのか知っているのか? 」

「そりゃぁゼクトさんは多く仕事をしているでしょうが……何か関係が? 」

「やると言っても低ランクの依頼。そこまで気にする必要があるので? 」


 それを聞き更にザックの機嫌が悪くなる。


 確かにゼクトが行っているのは低ランクの依頼だ。

 しかし彼らは根本的に勘違いしている。

 低ランクの依頼だからと言って放置していれば冒険者ギルドの信頼に傷がつく。それにこのギルドは地域密着型で、村との関係性が重視される。

 低ランクで低報酬であっても依頼を受けなければ自然と村人達で何か対策をとるようになり、おのずと冒険者ギルドの存在意義がなくなってしまう。

 この村には元Aランク冒険者で自警団の団長をしているギルムがいる。

 この村において冒険者の存在意義は『戦力』ではないのだ。

 

 それで困るのは冒険者側だ。

 現状確かに冒険者ギルドに寄越(よこ)される依頼量は飽和(ほうわ)状態である。

 しかしながらそれは「確実にこなしてくれる」という信頼があってこそであり、もしもこの関係が崩れるようなことがあれば低ランクの依頼のみではなくこの場にいる彼らが率先して受けるような、高収入の依頼にも影響を及ぼしかねない。


 彼らは知らないがその昔ギルムが冒険者ギルドに代わる組織を立ち上げようとしたこともあった。

 村からの要望に対して明らかな人員不足。ギルム側で新しい、何でも屋のような存在を作るような流れは何ら不思議な流れではない。

 だがそれは当時のギルマスが必死に頼み込み、お(くら)入りとなった。

 冒険者ギルドとしては、小さな村ではあるが赤字になっていない、他の赤字の冒険者ギルドをカバーできる支部は貴重なのだ。


 もしここでゼクト抜きでも冒険者ギルドが回ることを示さなければ、ギルムが動くかもしれない。するとリリの村冒険者ギルドの収入は激減するだろうし、これにより小さいながらも他のギルドへ影響を及ぼす可能性がある。


 よって今回の件は決して軽いものではない。

 今の今までゼクトに頼りっきりだったギルドも悪いが、報酬が少ないというだけの理由で低ランクの依頼をなおざりにしていた冒険者も悪い。


「冒険者ギルドは慈善(じぜん)事業ではない」


 一歩、少し老いた女性が前に出て口を開く。

 服装は職員の服で、ネームプレートの所にはサブマスであることが記されていた。

 彼女は全体を見渡し、続けた。


「だがの。この村にしろ、他の村や町にしろ地域とは切っても切れない関係にある。この村で食べる食事は誰が作ったもんじゃ? 着ている服は? 装備は? そう考えたことはないかの? 」

「確かにこの村の依頼のランクは低く、報酬も少ない。しかしその一方で、要望——つまり冒険者ギルドへの依頼数は多い。数を(そろ)えれば幾らでも(かせ)げる」

「ゼクトの坊主のようにの」

「ああ。だがお前達はそれを知りつつこの村に来たんだろ? 」


 ギルマスがそう問いかけると少し(うつむ)く冒険者達。


「第一この村で余生(よせい)を過ごそうとか、無難(ぶなん)に生きようとか考えてここに来たんじゃないのか? まぁオレもその口だが」

「じゃからの。これはある意味チャンスなのじゃ」

「チャンス? 」


 と、誰かが言い、サブマスが頷く。


「依頼を通して村人と交流を深めれば楽しい老後(ろうご)が待っとるぞ? 」


 それを聞き、周りがざわつく。

 ここにいる冒険者達は、どちらかというと一発を当てに来たのではなく、安全性を取って無難な生き方を模索(もさく)した者達が集まっている。

 なので楽しい老後というのは魅力的だ。


「一応教えておくが他の村に行っても同じだと思うぞ? ま、別にお前達をこのギルドに拘束するわけじゃないがな」

「そもそも村という単位で冒険者ギルドがあること自体が少ない。殆どの村は近くの町にある冒険者ギルドに依頼を出すからの」


 そう冒険者ギルドを取り巻く現状を教える。

 心当たりがあるのか冒険者達は「確かに」と言った表情をした。

 実際町から村へ向かうような依頼は多いからだ。

 そしてギルマスが一歩前に出て口を開く。


「正直俺もゼクトに頼り過ぎたと反省している。反論はあるだろうが、俺達も手が空いた時に依頼をこなす。だから今回は各依頼を捌いてくれ」


 そう言い残し、ザックは自室へ戻っていった。


 ★


「どうするよ」

「どうするったって、やるしかないだろ? 」

「だがこの数だぞ? 」

「ゼクトさん、どれだけ一人でこなしていたんですか」


 ギルマスの話が終わった後冒険者達は依頼ボードを遠い目で見ていた。

 張り出されているのは低ランクの依頼。

 だが数が尋常(じんじょう)ではない。

 しかしこれには理由がある。

 リリの村には冒険者ギルドがあるが周辺の村にはギルドがない。

 よって町よりも近いリリの村へ依頼を出す人が多い。

 それでもリリの村の住民からの依頼が多いのは変わらないが。


「しっかしこの量……」

「本当にどうやってこなしていたんだ? 」

「前に聞いた時はまとめてやってるって言ってたが」


 短剣(ダガー)を腰にした犬獣人が仲間を見渡す。


「確かにそれならできる……のか? 」

「採取系ならいけないか? 」

「行けそうだ」


 仲間達が頷きながらそう言うと犬獣人の男が何枚かスタミナ草の採取依頼書を手に取った。

 そしてそれをそのまま受付へ。

 受理(じゅり)が終わった後、彼らはその足で山へと向かった。

ここまで如何だったでしょうか?


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