第四十一話 新たな出会い 一 冒険者ギルド
「今日はお一人なのですね」
「ホムラは今日、休みを取っている」
なるほど、と頷く受付嬢に何枚かの依頼書を出す。今日はダリアではなく違う人だ。ダリアは今日はお休みで、家でだらけているだろう。
出した依頼はいつもと同じスタミナ草の採取だ。
しかし今回は少し多め。
他の村からの依頼が多いのではなく、この町——正確には治療院からの依頼が多い。
だが仕方ない。
賊の襲撃により少なくないけが人が出たのだから。
「今日もスタミナ草、すみませんね」
「仕事だからな」
「それでもですよ。他の冒険者がしっかりとすればいいのですが」
と受付嬢はちらりと部屋を睨みつけた。
オレもその目につられて後ろを見るが、顔を逸らされた。
「人数が少ないから仕方ない。彼らにも生活があるしな」
苦笑いを浮かべつつ顔を戻す。
そこにはいつものニコリと笑みを浮かべる受付嬢が。
「それを言うのならゼクトさんにも生活があります。幾ら報酬が低いからといって村からの依頼を避けるようではまだまだですよ。それにゼクトさんが引退したらどうするつもりなんでしょうね」
そう言いつつ手続きを済ませる受付嬢。
「ま、その内なんとかなるさ」
全くもう、と呆れる声を背にしてオレは冒険者ギルドを発った。
★
依頼を受けたオレはそのまま山へと向かった。
事前に張り出されている数と内容を確認していたから今日はそのまま山に直行だ。
軽く自分に強化魔法をかけて変更した群生地へ向かう。
少し踏み荒らされた道を行き、草を分け、周囲に注意しながら先に進んだ。
するとハート型の大きな薬草——スタミナ草が広がる場所へと着いた。
「よし。採るか」
誰かいる訳でもないが、そう呟いて作業に取り掛かった。
ほどなくして背にしている網籠をいっぱいにし軽く休憩。
刈り取られた場所から少し離れて腰にしているアイテムバックから水筒を取る。
ふたを開けて青い空を見上げて一息ついた。
「ホムラは大丈夫だろうか」
心配である。
精霊というものが人知を超えた存在であることは分かるが、まさかあそこまでとは。
興奮するだけで気温を上げるとか正直彼女の存在というものを軽く見ていた。
だが話が通じる分だけマシというものか。
これで話が通じなかったら今頃村は火の海だったな。
運が良いのか、悪いのか。
「さて、戻るとするか」
喉を潤し終える。
考えていると、家が心配になってきたので立ち上がる。
そしてそのまま山を降りた。
「……」
山を降り、家に帰っているとオレはそれを発見した。
それは倒れているが、綺麗な服を身に纏い、如何にも厄介事の臭いを放っている。
顔面が地面とぶつかって顔は見えないが体つきから女性だろう。
髪は水色をし、短い。
その人は白く長いズボンに青いジャケットを羽織り、背には小さな、横長なマントがくっつけており、全体的に背は低めとみた。
騎士、か?
ならば助けた方が良いだろう。
もしかしたら先の襲撃について調査しに来た領主の部下かもしれない。
だが何故ここで倒れている?
ありえないだろう……。
男性でも不自然なのに、女性が——しかも綺麗なままで倒れているなんて不自然以外の何ものでもない。
罠、か?
賊がどこかの貴族との繋がりをにおわせていた。
ならば適当な理由をつけるためにこうして罠を張っているのかもしれない。
引っかかったところで即お縄だ。
所謂ハニートラップ。
しかしこんな見え透いた罠に引っかかる者がいるのだろうか?
貴族とて馬鹿ではない。
こんな見え透いた罠を設置するくらいならもっと違う手を使うだろう。
と、考えた所で何やらデジャブを感じた。
このシチュエーション。
ものすごい親近感がある……。
そうだ。
ホムラの時だ。
あの時は大変だった。
今も大変だが。
ならばオレが取るべき行動は一つ。
厄介事を増やさない。それに尽きるだろう。
そう決断し、彼女の隣を通り過ぎようとすると——
ガシ!
「ギザマに、は女性を助け……い心は…い“のか」
オレの足が掴まれた。
ものすごい力だ。足が痛い。
恐る恐る、下を見るとそこにはこちらを睨みつける黒い目が。
しかも声が変だ。
明らかに関わったらダメなやつだ。
普通の状態、普通の人ならば助けただろう。
だが明らかにこの後厄介事だ。
騎士にしろ、違うにしろ放置するのが一番。
一番……一番のはずだが……。
「う“う”う“……。分かった、分かった。どうすればいい」
逃れない現実と射殺さんとばかりの瞳を向ける彼女。
だが困っているのは事実なようで。
オレは両手を上げて彼女に聞いた。
「ま“りょくを、な……くれ」
魔力を流す?
圧倒的な、デジャヴ感!!!
★
「すまなかった。許せ」
「はぁ……」
無表情な顔で、えらそうに謝る彼女はパパっとズボンを叩いてその場から立った。
オレも立ち上がり彼女を見下ろす。
「で、なんで君は魔力が必要だったんだ? 」
「貴様にいう必要はない」
プイッと顔を逸らしてそう言った。
イラッとする子だな……。
恩を着せるためにやったわけではないが、こういう態度を取られると流石にイラつく。
「まぁいい。じゃぁな」
「待て」
「イデデデデ! なにすんだ! 」
オレが彼女から離れようとすると腕を掴まれた。
痛みにこらえながら彼女の方に首をやると、そこには何か探るかのような黒い瞳があった。
「おねえ……。いやワタシの知人の匂いが貴様からするんだがどういうことだ? 」
一先ず腕を話すように説得し、知人とやらについて聞いてみた。
「オレンジがかる燃え盛るような赤い瞳に胸にかかるほどの紅玉の如く輝く髪。母神に包まれるかのような豊満な胸を持ち、それに見合う赤い服——」
オレが聞くとその詳細を長々とその特徴を喋ってくれた。
うん。あれだな。
多分ホムラの事だな。
そして彼女はホムラの言っていた「友人」とやらだとおもう。
多分だがホムラと同じく魔力切れを起こしてあそこで突っ伏していたのだろう。
だがわからないのは破損ではなく魔力切れと言っていた。
実際今回オレは修復を使わなかった。
そして魔力を流し込むだけですぐに立ち、変だった声が直っている。
声の方は恐らく「変声」の刻印魔法が発動しなくなったからだと思うが、何故に突っ伏していた?
まさかとは思うが、倒れていたら誰か助けてくれるだろうという甘い考えでわざとらしく倒れていたのか?
だとすると用心が無さすぎる。
まぁ……。オレは助けてしまったのだが。
「——のような人物なのだが知らないか? 」
「ホムラの事か? ホムラならオレの家に住んで——」
そう言った瞬間オレの横を細剣が過ぎ去った。
ここまで如何だったでしょうか?
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