第四話 おっさん、直す
「しゃ、喋った?! 」
「は、……やく……な、お……せ」
炎に包まれる中、喋る魔導人形を見た。
直す?!
直すってどういうことだ!?
気配感知。
危機感知。
魔力感知。
魔力はこの魔導人形からしか出てこない。
もちろんの如く周りから人の気配のようなものは感じられない。
しかし何で喋れるんだ?!
喋る魔導人形なんて聞いたことないぞ!
いや、人型は喋るのか?
分からない。分からない事が多すぎる。
今も喋っている人形から少し目を離して炎をみる。
この炎は、もしかしたらオレに直させるために、逃がさないためにこの人形が作った者かもしれない。
そして視線を戻して決心した。
結局この状況から逃れるためにはこの人形を直すしかない、ということか。
立ち上がり、近寄る。
しゃがんでまず膝に手をやる。
「修復」
唱えると透明な魔法陣が膝の上で光り、破損部位を直していく。
無属性中級魔法『修復』。
その名の通り破損部位を修復する魔法である。基本的に無機物の破損部位を直すもので、有機物には使えない。リリの村で過ごす間に覚えた特技の一つでこれのおかげでオレは村で大工としての役割を果たせている。
村で役割がないというのは中々に厳しいものだ。リリの村に入った当初は周りの目線が痛かったが、冒険者業の間で覚えたこれのおかげでそれは解消。今はもうすでに馴染めている。それこそリリの村に骨を埋めて良いと思えるくらいには。
軽く考え事をしている間に修復していく。この様子を見ると、考えていた通りこの女性は人形であることを実感する。
修復を終了するともう一方の膝に修復を掛けて、直す。
彼女から少し離れると同時に赤い髪を揺らしながら彼女は立った。
立つと軽く双丘が揺れるが……偽物だろう。
何だろうか。このがっかり感は。
こっちの気も知らず直ったか確認しているのだろう。
軽く足を曲げたり伸ばしたりして確認していた。
赤いスカートが短いせいか中身が見えそうだ。見えないが。
しかし……見えたとしても中身は作りもんなんだよな。がっかり感が物凄い。
飛び跳ねていると「カシャン、カシャン」と音がする。
よく見ると腰に長剣を付けていた。
あれをこちらに向けられなくてよかったぁ。
今の状態で彼女に対処できるとは思えない。
いつまでも座っているわけにはいかないと思い行動開始。
オレもパンパンとズボンをはたきながら立つと、オレンジがかった赤い瞳をこちらに向けた。
「? なんだ」
「——」
指で何か合図をしている。
首元だ。
少し近寄り顎を上にあげる彼女を訝しめに見ながらも近くによって覗き込む。
するとそこには指摘されないとわからないような、本当に小さな魔石が嵌められていた。
「ああ……。なるほど。詳しい事は分からんがこれが原因であまり声が出なかったのか」
意図が伝わったのが嬉しいのか大きく何回も頷く赤い女性。
「修復で直せばいいのか? だが修復は魔道具にはめられている魔石は直さないぞ? あれは鍛冶師達の仕事だ」
修復は確かに無機物を修復するが魔石にはめられた刻印魔法までは修復できない。
刻印魔法関連になると鍛冶師か魔技師の領分になる。
オレの出る幕ではない。
しかしオレの予想は外れていたようだ。
魔導人形は赤い髪を横に振り否定した。
「? なら……。あ、魔力の欠乏か」
すると更に大きく頷いた。
魔導人形と言えど魔道具の一種。
今回動けなくなった原因は膝部分の故障の様だったが、魔力が欠乏すれば動けなくなるし、魔石に回す魔力が不足すれば——今まで聞いたことがないが——言葉も話せなくなるだろう。
恐らく彼女が声を出していたのはこの魔石に刻印されていたものによるものと推察できる。
ならばこの魔石に魔力を流すだけで声は戻るということか。
だがなぁ。
残存魔力がもう少ないんだよなぁ。
今日、かなり使ってしまった。
これ以上使うと下山時に予想外の事が起こったら対処に困る。
年齢と共に減って行ってしまった魔力量。
全盛期ならともかく今の状態で彼女に魔力を流すと、恐らくほぼ全部なくなるだろう。
そう考えていると視線が。
おずおずとみるとそこには期待に満ちた瞳が。
うう“……。そんな瞳で見上げないでくれ。
「……わかった。が、一つ頼みたいことがある」
頭の上にはてなマークを浮かべる彼女。
「オレはこれから下山する。そこに魔力を流すのは良いが、恐らくおれは魔力が無くなるだろう。だから下山の時は護衛してくれ」
まかせろ、と言わんばかりに腰に手をやり胸を張る。
そして顎を上にあげているので、そのまま魔力を流すと、ごっそりと魔力をなくして、オレはふらつき地面に座り込んだ。
ふぅ。
「あー、あー、あー」
上を向くと声が聞こえる。
発声の確認をしているようだ。
しかし透き通った声だな。
「おおっ! 直った! 」
「そりゃぁようござんした」
歓喜に溢れた顔をしている。ご満悦なようで何より。
オレは報われないが。
「よし。まずは」
「!!! 」
にやりと笑みを浮かべて軽く指を鳴らすと周りの炎が消え去った。
あぁ……やはりこいつが炎の壁を張っていたのか。
「しかし魔法で炎を作ることはできても消すことはできたか? 」
「違うぞ」
「? 」
「単なる幻影だ」
「はぁ? 」
「よく思い出せ。周りの木に燃え移らないし何より熱を感じなかっただろ」
手を顔にやり天を仰ぐ。
確かにそうだった。
熱を感じなかった。
パニックにならずにちゃんと観察すればすぐにわかる事だ。
「だが、貴君に会えたのは僥倖だった。あのままだとこの体を捨て置いて製作者の元へ帰らなければならなかったかな! 」
「? 」
「いやぁ、器を捨てて帰ったら本気で怒られるところだったよ。助かった! 礼を言おう! 」
胸を張り、大きな声で言う。怒られるかもしれないと言っている割には笑顔に満ち溢れている。どこか大人っぽい喋り方だ。
が、逃げるという手段を彼女が先に潰したのを覚えていないのだろうか。
覚えていないのならば思い出して欲しい。
しかし……どういうことだ? 器?
もしかして……。
「……お前は魔導人形じゃないのか? 」
「いや違う! 」
そう言い一歩前に出る。
そしてキリッとした顔をこちらに向けて口を動かす。
「私は火の精霊『ホムラ』だ! そしてこの体は私達精霊が人と交流するために作らせ……ゴホン。作られた精霊人形。そこら辺の魔導人形とは一味違うぞ」
……。
「はぁぁぁぁぁぁ?! 」
驚愕するオレの声が響く中、彼女はどこか自慢げな顔をしていた。
ここまで如何だったでしょうか?
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