第三十八話 村を見回り、一仕事 一 お宅訪問 二
「かなりものが壊れていたな」
「建物もだ」
「キリがありませんね」
昼。オレ達は村にある大衆食堂で食事をとりつつ午後の事について話していた。
本当にキリがない。
他に修復が使える人も総出で出ているみたいだが、村民の生活に追いついていない感じを受ける。
仕方がないと言えばそれまでなのだが、なんとかしないといけないと思ってしまうのはオレもこの村の一員だということだろう。
食べ終わった食器を店員が下げる中、ホムラがオレの方を向いた。
「私は今の所なにもしていないのだが……」
「いや、いろんなものを持ち上げたりしていただろ? 」
「しかし仕事という仕事ではない気もする」
少ししょげたかんじでそう言うホムラ。
何か役に立ちたいと思うその心は素直に嬉しい。
「その持ち上げることも、普通の人にとっては難しいんだ」
「そうなのか? 」
「ああ。ホムラはオレ達の何倍も働いているぞ」
そう言うと元気を取り戻し、笑顔になるホムラ。
するとオレの裾が引っ張られた。
「私はどうですか? 」
「ダリアも助かっている。ダリアがいなければここまで修復を使えなかった。ダリアがいるだけで復興作業は何倍にも早くなってるよ」
素直にそういうとオレから目を離してだらしない顔をするダリア。
オレ達の中では良いが、他の人の前でその顔はやめておいた方が良いと思う。
しかしそれを告げずに机の上のコップを手に取った。
「午後はどうしようか」
喉を潤し考える。
ここ、食堂へ来るまでの家をしらみつぶしに直していった。
こんな荒業が出来るのも膨大な魔力を誇るダリアがいるおかげなのだが、彼女の魔力にも限界がある。
「軽く見て回るだけではいけませんでしょうか? 」
「ダリアもそろそろきついか? 」
「お恥ずかしながら」
そう言い少し目を落とした。
「それを言うならオレの方が、恥ずかしい。何せ一軒目で魔力が尽きかけたからな」
するとダリアがこちらを向いて苦笑いした。
オレが元気づけようとしているのが早速バレたようだ。
同じくオレも苦笑い。
そしてオレ達を見ていたホムラが口を開いた。
「軽く見回って、明日以降のするのはどうだ? 」
「そうだな。村の人には悪いがオレにも魔力の限界があるからな」
「それが一番良さそうですね」
オレとダリアが頷きながらそう言う。
するとホムラも頷き更に言う。
「私が出来そうな力仕事だけ済ませておくのもいいと思うんだが」
「確かにその方が効率的だな」
「私も村に慣れて来た。ここは私一人で行ってみようと思うのだが」
いい案だ。
ホムラも村に馴染めるだろうし、何より作業を後に回すよりも遙かに良い。
ホムラも、更に村に馴染めるだろう。
しかし一人、というのは些か早い気もする。
力加減を覚えたと言えまだまだ心配だ。
一人にして物を壊さないと良いんだが。
「良いんじゃないでしょうか? 」
「いやしかし心配だ」
「ホムラさんも子供ではありませんし大丈夫でしょう」
「その通りだ」
ダリアはそう言うが、中身はつい先日まで加減というものを知らなかった精霊様だ。
なにをやらかすかわからない。
そして彼女の行動を管理している者としてはあまり頷ける内容ではない。
「加減も覚えた。大丈夫だ」
「……そこまでいうのなら」
「ゼクトさんは心配性ですね。心配するなら私の事も、心配してくれて良いんですよ? 」
ちらりと見上げてそう言うダリア。
口には出さないが、ダリアは色んな意味で心配だ。
生活面で。
「では行きましょう」
オレが賛成したところで店から出て次の場所へ向かった。
★
「何度見てもこの辺はかなりやられているな」
「あちらの牛舎もやられていますね」
「これだけでどれだけの損失になるのやら」
食堂を出た俺達はその足でムギ農家の人達の所へ向かっていた。
賊が踏み荒らしたのだろう。
農地は荒れていた。
「ボロボロだな」
ぽつりと呟く。
牛がいたと思われる牛舎を遠目でみると散々だった。
ボロボロにやられて立て直さないといけないほどに。
聞こえるはずの牛の声も聞こえてこない。
「耕すための牛も買わないといけないだろうな」
そう言いながら家に近付くとホムラが牛舎の方を指さして言う。
「あれは修復できるのだろうか? 」
「規模が大きすぎる。無理だな」
「そう言えば村長が領主様に支援を掛け合っているとか」
「その支援でどうにかできればいいが……」
そう言っている間に目的の家に辿り着いた。
そして今日の仕事を行った。
「ホムラちゃんは元気ね~」
「オレもびっくりです」
「本当に力持ちですね」
歩く国宝だからな、とは言えない。
廃材を動かす彼女を見ながら考える。
体は鋼鉄以上の強度を誇る彼女だが、精霊人形であるホムラには様々な刻印魔法が施され、常識から外れた力を誇る。
知らない人からすれば「力の強い女性」か「何か特殊な魔法が使える女性」くらいにしか思わないだろう。
動き回る様子を見るが、事情を知るオレからすれば、彼女のことがバレた時の混乱を考えるだけで胃が痛い。
村に馴染むために活動をしてくれるのは嬉しい反面、オレの胃の為に少し自重をして欲しいと思う。
当のホムラは人の役に立っているという実感が嬉しいのだろう。
笑顔でまた一つ廃材を運び終えた。
「ゼクトちゃんは今日は様子見よね? 」
「すみませんが、ここに来るまでに魔力を殆ど使ってしまったので」
「いいのよ、気にしなくて。じゃぁ一先ず見てもらってもいいかしら? 」
オレは頷き、廃材を運ぶホムラを置いて、オレはこの家の老婆に家の中へと連れられた。
中も相当やられている。
踏み荒らしたのだろう床や壁は汚れたままであった。
しかし今まで見てきた家と同じく整理整頓は出来ていた。
皆逞しいと思いつつも老婆について行く。
「この部屋なんだけど」
そう言われて連れられたのは一つの部屋。
そこには大きな箪笥やクローゼットがあった。
しかしその豪華な道具はボロボロだ。
多分賊が金になると思って運ぼうとしたら重くて持てず、苛立ってボコボコにしたのだろう。
ここに来るまでに様々なボロボロな家具を見てきたが、今までとは違う点が一つ。
「流石にこれは直せませんね……」
「やっぱり、そうよね」
予想していたのか、そう言う老婆。
落ち込んでいるが、こればかりは無理だ。
破損具合が修復で治せる範囲を超えている。
修復も万能ではない。
魔力を多く込めれば全て直せるという魔法でもない。
なのでここはひとつと思い、老婆の方を向いた。
「新しく作りましょうか? 」
そう言うと彼女は見上げて目を開いた。
「いいのかしら? かなり高いものだったのだけれど」
「材料を揃えることが出来れば、作れるでしょう」
「流石ゼクトちゃんね。他の村の人が「冒険者じゃなくて家具屋をやればいいのに」と言っていた意味をよくわかるわ」
「引退したいんですが、山に入れる人が限られているので」
意味を察したのか苦笑いで頷く老婆。
そして老婆の依頼を受けて、ホムラを回収し、各家を周るのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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