第三十七話 村を見回り、一仕事 一 お宅訪問 一
温かい感触から離れ、オレは村へ歩いている。
少しダリアが寂しそうな表情をしたが、流石に人前でくっつかれたら羞恥で死んでしまいそうだ。
オレやダリアの家は村の中心部から離れている。
あまり建物は無いがそれでもないことはない。
「この辺の建物は大丈夫そうですね」
「ここまではやってこなかったんだろう」
モー、モーと牛の声がする中、立ち止まり軽く周りを見た。
畑を耕す用の牛だ。
牛舎から少し目を離し、遠くを見ると畑が目に映る。
この村の主産業はムギの生産。
しかしこの周辺の畑はムギではなく野菜類を育てている。
「お、ゼクトじゃないか」
畑の方から声が聞こえたと共に仕事服の農家の男が見えた。
歳は五十くらいだろうか。
作業を止めてこちらに来ている。
周りに男が多く見えた。
農家さんの息子達だ。その昔やんちゃするから吹き飛ばした覚えがある。
父の声でオレに気付いたのだろう。こちらにペコリとお辞儀をして作業に戻ったようだ。
「おはようございます」
「おはようさん。朝から美女を侍らせて、羨ましい限りだ。息子達もこのくらいの器量があればいいんだが」
と、軽く畑の方を向き「やれやれ」と首を振った。
確か何人かは結婚していたはずだが、全員ではなかったはず。
オレからすれば、オレよりも彼らの方が器量があると思うんだが、言わないでおこう。
しかし変な言いがかりをされては困る。反論をしなければ。
「侍らせていませんよ。これから仕事にいくんです」
「おっと、それは呼び留めて悪かった。採りたての野菜があるから帰りに寄りな」
「助かります」
パンパン、とオレの背中を叩いて畑の方へ向かっていった。
元悪ガキ共にも手を振ってオレはまた足を進めた。
「建物の破損が見えますね」
ダリアがポツリと呟いた。
オレ達は一先ず近場から見て回っているのだが、一先ず市場がある方向へと向かっている。
野菜農家さんからかなりの距離を歩いたら、ダリアの言う通り激しく傷が入った建物が見えてきた。
「恐らくストレスのままに攻撃したんだろうな」
そう言いながら家に寄る。
実際問題家を攻撃するなんて無駄な行動以外なんでもない。
冷静ならばやらないだろう。
しかし追われていた彼らはそのストレスを発散するかのように建物を攻撃したと考えられる。
加えるのならば、この村の住民達の避難は早かったと聞く。
ストレスをぶつける相手がいなくて逆にストレスがたまり建物を攻撃したともとれる。
なににせよ、迷惑極まりない。
「この辺はまだそこまでじゃないな」
所々に——恐らく剣と思われる傷を見ながらそう言った。
今日にいたるまで何軒もの家を見てきた。
この家はまだましな方である。
中には、恐らく魔法使いがストレスのままに放ったであろう魔法で火事となり全焼した家もあった。
比べるのは些か不謹慎だが、比較的損傷は軽い。
そう考えながらもオレは家の扉を叩いた。
「わりぃな。来てもらって」
「今回は仕方ないでしょう」
「そう言ってもらえると助かる」
荒らされた状態の部屋に入り、オレ達は五十代の人族男性と対面していた。
ある程度は片付けたのだろう。物は散乱していない。
しかし賊により傷つけられた所はそのままであちこちに傷がある。
「この村で修復が使えるもんは少ない。頼りにしてるぜ」
ニヤリと笑いながらそう言う男性。
この村にも生産系の魔法を習得している人はいる。
しかし主に農業をする為の魔法を習得しており、オレのように建築系の魔法を使える人は少ない。
よって頼りにされているわけだがプレッシャーを感じる、な。
「では早速手を付けていきます」
「おう。よろしくな」
席を立ち、まずはこの部屋の傷を直していった。
「修復」
軽く額の汗をぬぐい、部屋につけられた傷を直し終える。
すると隣から女性の香りが漂ってきた。
「そろそろ、ですか」
「……オレはダリアのその勘がものすごく怖いのだが、確かにそうだ。悪いが、頼む」
オレが顔を引き攣らせながらそういうとオレの手を取りダリアが唱えた。
「魔力譲渡」
手の温かさを感じると同時にダリアから魔力が流れてくる。
温かい、活力のような魔力が俺の方へ流れて循環していく。
それを魔力操作で体に馴染ませたら、手から感触がなくなる。
「すまねぇがあと棚とかも頼む」
「了解ですっと」
そこから立って、棚のある部屋へと向かっていった。
通された部屋はいたって普通。
あちらこちらに傷がある以外は変わりがない。
右に左に見ていると一つのボロボロで大きな棚を見つけた。
これは、と思いつつ踏み込むと「ギィ! 」と大きな音が鳴った。
するとビクン! と反応し、後ろを振り向く男性が「すまねぇ」と言い再度前を向いて棚の方へ向かっていった。
「大丈夫ですか? 」
「大丈夫、と言いたいところだが最近物音に過敏になっちまってな」
棚のところまでいき、近況を話す。
「だが俺だけじゃないみたいだな。他の奴らも、やれ音がとか、やれ火がとか……色んなもんに過敏になっているみたいだ。お前さんは大丈夫そうだが」
「オレはいつも危険にさらされていたので」
「そっか。冒険者、だもんな」
軽く、話す。
話によると賊による襲撃が後を引いているようだ。
物理的な危害だけでなく精神的な被害も与えられたようで。
あれだけの規模の賊に襲われたのだ。しかたない。
常に傷を負ったり、物音や気配に過剰に反応しなければならない冒険者とは違い彼らは普通の村人。
むしろ後を引かない方がおかしい。
「これは俺の爺さんよりも前から受け継がれたもんなんだが……直せるか? 」
少し懇願するかのような顔で俺の方を見た。
思い出のある棚、か。
棚を見上げ、観察する。
中々に頑丈そうな棚だ。幾つもの引き出しがある。
軽く触る。
傷は大きく、外から見ると今にも壊れそうな雰囲気だ。
だが、それだけで素材となっている木が丸ごと抜けていたり真っ二つになっていたりはしていない。
これならば、行けるだろうか。
「一先ずやってみます」
「わりぃな」
「いえ。修復」
手をかざし、唱える。
すると徐々に傷が塞がっていく。
だが十全ではない。
更に魔力を流すが吸い取られるかのようにオレの残存魔力が無くなっていく。
「手伝いましょう。魔力譲渡」
背中に手の感触がした。それと同時に温かい魔力が流れてくるのを感じる。
それをそのまま棚に流し、完全に直るまで続けるのであった。
★
「ありがとさん」
「いえ。できることをしただけなので」
男性にお礼を言われながら出された茶をすする。
「今はこんなもんしか出せねぇが、報酬は村から後で出るだろうよ」
「期待しておきます」
今この村には主だって報酬というものを出せないのは知っている。
それを知りつつ、軽く笑顔で返して午前中は村の家々を周り、修復して回った。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




