第三十二話 風の剣士
「貴様……何者だ! 」
片腕をなくし、蹲る獣人がそう言った。
騎士、ではなくこいつは集めた賊の方だな。
そう思いつつも見下ろし答える。
「単なる冒険者だ。……おっさんだが」
「嘘をつけ! こんな冒険者がいるなんて聞いてないぞ! おい! 」
後ろを振り向き怒声を飛ばす。
その間に子供達の目を隠すように、村人達に伝えた。
「やるっきゃね——」
伝えた後前に進み——切り刻む。
「なんだありゃぁぁぁ?! 」
「おい。ふざけるな! 」
「簡単な仕事だっていうから来たんだぞ! 」
「こんな奴がいるなんて聞いてねぇ! 」
一人の獣人が単なる動物のように細切れになっていく様子を見て、他の賊が怯え狂乱している。
しかし他の盗賊騎士達のように指揮官が一喝する。
「黙れぇ! よく考えろ。魔法の一種だ。一旦引いて距離を保て! おい、魔法使い部隊! 」
「「「はっ! 」」」
それを聞いた前衛の賊がすぐに引く。
同時に魔法使いが魔杖をこちらに構えて魔法を唱えようとする。
「そうはさせん。風動」
瞬動よりも速い速度で移動し距離を更に詰める。
邪魔な奴らを纏っている風を更に加速させ、切り刻み魔法使いに接近する。
「ひぃ! 」
魔法使いの悲鳴が上がるもお構いなしに剣で切り刻んだ。
★
「あれは本当にゼクトさん……なのですか? 」
「ええ。そう……。いえ、違いますね。本来のゼクトさんです」
同僚の——当然な——質問に答えつつ、再度惚れ直すダリア。
元Bランク冒険者ゼクトはその昔『風の剣士』と呼ばれていた。
風のように通り過ぎた後には切り刻まれたモンスターしかいない、と言われていた為である。
正直本人としては「もっといい二つ名があっただろう」と思っていたそうだが、四十手前になって逆に派手でなくてよかった、とも思っている。
それを知っているがために、地味な二つ名のゼクトの事を少し誤解していた同僚受付嬢に軽く苦笑いしながらその目線を追う。
「しかしあんなにお強いとは。元Bランクなのは知っていましたが、更に上では……」
「実際、Aランクへ挑んでいましたのであながち間違ってはいません」
「なら何故……」
「それは本人に聞いてください。私からは何も」
そう言われると引くしかない彼女。
「しかしあれは何なんですか? 目で追えないのですが」
「確かゼクトさんは魔力量が少なかったはず。しかしあの魔法のような現象は一体……」
と、違う方向から冒険者達がダリアに声をかけてきた。
もう彼女達の周りには敵がいない。
それがわかっているがために、ゼクトの技の事を聞いたのだろう。
言うべきか、言わないでおくべきか考えつつも答えることに。
「あれはゼクトさんにしかできないものです。あまり人の能力を詮索するものではありませんよ。特に、ね」
ダリアがそう言うと顔を二人の冒険者は顔を見合わせ引き下がる。
暗黙の了解として、基本的なことはともかく奥の手のようなものは隠してある。
自分達を護ってくれた恩人の詮索を——無理やり——するという恥知らずなことをしてしまったのではないか、と軽く顔を赤らめ住民達の護衛に回った。
(軽く資料を読めばわかる事ではあるのですが、ね。それほどに、ゼクトさんの事を気に留めていなかったと思うと少し腹ただしいです)
そう思いつつ今の現象を思い出すダリア。
(今は第一解放、と言ったところでしょうか)
無残に切り刻まれている魔法使い達を見て考察するダリア。
風魔の剣・第一解放『纏風』。
魔剣としての能力は、その名の通り風を纏い、風を操作し、動かせること。
その技自体は使用者の魔力を消費しないもので、魔力の少ないゼクトとは相性がとてもいい。
加えるのならば魔闘法を活用することにより気を剣や風に流せるという、普通の冒険者では出来ない事をやってみせている。
普通に編み出す風の刃よりも更に鋭利になっているそれに切り刻まれ、賊側があと一人になり勝利を確信した所でダリアも村人の護衛に回った。
★
「……だらしねぇな」
「襲ってきたとはいえ、元仲間に言うことか? 」
「単なる村を襲って、引く。ただそれだけなのによ」
「それが出来なかったのは指揮官が無能だからじゃないのか? 」
最後の一人となったところで仲間だったものに対して侮蔑の表情をぶつけながらそう言うリーダー格の男。
軽く挑発すると「言うねぇ」と呟き額に青筋を浮かべていた。
彼は盗賊であり、各村を荒らす害虫。
だが彼から放たれる威圧は本物である。
背に負う大剣を軽くこちらに向けつつ品定めをするかのようにこちらを見た。
緊張感が増し、オレは気を引き締め、再度体中に気と魔力を流し込む。
「……聞いたことあるぜ。その能力。確か風の剣士だったか。引退したはずだが……誤情報だったようだな」
「生憎と引退する暇を与えてくれないのでねっ! 」
風動で移動し、剣を使って切り切り裂こうとする。
相手もこちらを見切っているのか躱される。
しかし無傷とは言えない。
体中が剣に纏わせた風の余波で切り刻まれ血が滲んでいる。
「くそっ! 現役バリバリじゃねぇか! 」
「まだ荒い。Aランクの壁はこんなに低くない! 」
オレは加速し、相手も動く。
瞬動……、いや瞬動に何か重ねている?!
この速度について来るとは。
「いいね。大剣を持っているとはいえ俺の速度について来るとは」
「まだまだ! 風剣・乱れ」
「ちっ! 」
相手に回避行動を取られて、一度しか当たらなかった。
だが抉るように内側から風の刃がうねって内臓を壊す。
「くぅ……」
「風剣・乱れ! 」
複数同時に攻撃する武技『乱れ』を追撃に使い着実にダメージを負わせていく。
しかし……。強い。
血が流れているにも関わらず速度が落ちない。
何故こんなにも強い人物が賊に?
主家が没落したとしても引く手数多だったはずだ。
ならば誰かに依頼されて?
様々な疑問が頭の中を飛び交う中急に相手が足を止め、反転しこちらに剣撃を繰り出してきた。
「本当はやる気なんて無かったのに、よ! 」
「ならやらなければいいじゃないか」
キィン!!!
「冒険者に甘んじているお前にはわからんよ」
「分かりたくもないな! 」
再度剣が交差させる。
しかし——瞬間的に——間に風を挟ませ、体ごと剣をずらし、勢いのまま倒れそうな体を蹴撃で蹴り上げた。
「ぐほぉぁ! 」
「斬——撃」
渾身の一撃を腹にかまして真っ二つに。
こうして最後の一人は人知れず終わりを告げた。
ここまで如何だったでしょうか?
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