第三十一話 おっさん、解放する
「斬撃! 」
「はっ! たかが斬撃で——」
ザシュュュュ……。
大盾を持った騎士と思しき人物を盾ごと斬った。
カラン、と盾が落ちる中周りの賊達に動揺が走る。
「どういうことだ?! 」
「斬撃で鉄を切れるはずがねぇ! 」
「落ち着け! 乱すな。互いに組んで対処しろ。相手は一人。人数で勝ってるんだ。慎重にやれば、相手から自滅する」
リーダーらしき人物が指示を出す。
動揺も束の間、すぐに剣と盾を構える賊達。
さっきから一人一人倒し、心を乱そうとするも、すぐに戻る。
多対一の基本はいかにして一対一を作り出し、数を減らすかだ。
あと五人。
額から冷や汗が流れる。
しかし、なるほど。確かに騎士出身だ。
指揮系統がきちんとしているし、何より練度が高い。
常識の範囲で行けば確かに斬撃で鉄ごと敵を切るような真似事は出来ない。
教養もなっている。
切るのであればその上位の斬鉄、飛ばすのであれば飛斬になる。
魔闘法による、ある種のイレギュラーを組み込んでいるからこうして多対一をやり込めているのだがどうしたものか。
対処方法を考えていると彼らの後ろから何か光った。
「ギャァァァァァ!!! 」
「「「?! 」」」
オレも含め全員が声の方向を見る。
そこに立っていたのは巨大な炎の柱であった。
見ている間にその炎はどんどんと増えて、着実に近づいてきている。
「な、なんだあれは?! 」
「炎?! 」
「馬鹿な! この村にこれほど強大な冒険者はいなかったはず! 」
チャンス!
忍び足で近づき、気付かれないままに背後から——切る!
「ギャァァァァァ! 」
するとリーダーらしき人物がこちらを向いて口を開いた。
「おまっ! 卑怯だぞ! 騎士道精神はないのか?! 」
「盗賊に言われたくないね。それにオレは冒険者だ。斬撃! 」
「火の精霊よ! 火の砲撃」
ホムラの声が聞こえたかと思うとオレの隣を——話していた指揮官ごと焼いた。
じゅゅゅ……と音がする中、だらだらと汗が流れる。
「お、おまっ! ちょっとかすったぞ?! 」
「大丈夫だ。完全には当たっていない」
こちらまで来てそう言うホムラ。
軽く火の精霊魔法で周りの死体を焼いた彼女に頭を掻きながら苦情を述べる。
「そう言う問題じゃ……。あぁ、いい。今、村がどんな状況かわかるか? 」
「襲われている、とういことくらいしか。正直、私も途中参加だ」
「オーケー。分かった。オレ達二人共状況がわからないということだな」
頷く彼女を見つつも家に移動することを提案する。
「このまま行くんじゃないのか? 」
「……そうしたいのは山々だがこの剣がもう持たんだろ」
「……ボロボロだな」
「むしろよく今まで持ってくれたと思うよ」
そう言いつつも足を動かす。
それにホムラがついて来る。
「ゼクト。すまないが少し聞いてくれ」
「移動しながらならば」
「構わない」
「で、どうした? 」
「私はこの先戦えなさそうだ」
足を止めずに彼女の方を向くオレ。
「魔力がもう足りないんだ」
「かなり無茶をしたのか? 」
「無茶、というよりも魔力が溜まっていない時の襲撃だったからな。慌てて出た結果だ」
それを押してでも来てくれたのか。
「ありがとうな」
「そうでもない」
お礼を言うと少し顔を背けられてしまった。
「家に残す形になるが、良いか? 」
「それで構わない。貴君がいない間。私が家を護っておこう」
「? 魔力が足りないんじゃないのか? 」
「魔力を使わなければいい」
「??? 」
「つまり器を動かさず、精霊魔法を使えばいいというわけだ」
それがあったか!!!
そうだ。ホムラは精霊だった。
「だから家の事は任せろ」
そう言っている間にオレ達は家に着いた。
ホムラを家の中に入れたままオレは倉庫へと足を向ける。
ギギギ、という音を鳴らしながらも暗い中を歩いて武器を探す。
今回は集団戦。
本来ならばオレのような剣士系統ではなく魔法使いの出番なのだろうが仕方ない。
そもそもな話この村には魔法使いが少ない。
攻撃魔法を覚えているとなると、それこそダリアかオレくらいになるだろう。
だがオレはすぐに魔力切れを起こす。
よって剣で戦うしかないのだが……。
「……使え、ということなのか」
ちらりと一本の剣が目に入る。
綺麗に保管されたそれはオレが持つ武器の中で最強クラスの武器で、そして最前線から遠のくと共に使わなくなった剣でもある。
オレの魔闘法に反応してか少しばかし光っているのがわかる。
だが。
「オレに使う資格があるのか……」
剣を見て、無残にもモンスターにやられて死んだリーダーの事が思い浮かぶ。
オレ達が冒険者から遠のいたあの日の事を。
だが、しかし同時にダリアやホムラの顔が思い浮かぶ。
そこに重なる盗賊騎士の姿も。
ギリッ! と噛みしめ、拳を握る。
やらせるか!
今度こそはっ! 今度こそは護ってみせる!!!
剣を握りって引き抜いた。
剣を手に持ち、そして唱える。
「風魔の剣・第一解放『纏風』」
★
「早く出て来いよ! 」
「そうだぜぇ。その方が早く楽になれるだろうからな」
「最も、男だけだがな」
「「「がははははは!! 」」」
入り口がボロボロに壊された集会場。
そこには数百の住民を集めて冒険者達とダリアが護っていた。
「これだから男はっ! 」
「ダ、ダリア。あんた大丈夫? 」
「大丈夫よ。でも、出来れば今は声を掛けないで。集中が途切れてしまうから」
「ごめん」
同僚に冷たく言い放つダリア。
彼女の顔は青ざめ、どう見ても大丈夫ではない。
同僚はそれをみて心配したのだが、集中力を要する対魔法・物理防壁の維持に余裕がなかった。
彼女の中で少しの罪悪感が生まれる中でも防壁の維持に努める。
前を向き、汚い言葉を放ち続ける賊のその先、如何にも指揮官らしき人物を見つつ、考える。
(守りながら戦うのがここまで難しいとは……。しかしどうにかしないと。せめて防壁係だけでも任せれれば良いのですが)
魔杖を掲げながら、同じように構えている隣の魔法使い達を見る。
しかし「無理だ」と判断した。
この防壁自体彼女のもので成り立っており、他の魔法使いは単なる魔力の補充を行い維持をこなしているだけ。到底任せるわけにはいかなかった。
よって遠くに構えにやける男を上級魔法で吹き飛ばすことが困難としている。
加えるのならば戦闘そのものが彼女にとって負担となっていた。
練習ではない、本当の対人戦。
精神的に集中できる状況でないことがダリアを襲い、顔を青くさせていた。
どうにかしないと、と思いつつ防壁を張っているとピシっと嫌な音がした。
(まずい!! )
後方から放たれる魔法攻撃が更に過激さを増して行く。
(このままでは! )
軽く後ろを振り向き、怯える村人を見て、前を向く。
(……やはり、私ではゼクトさんのように、護る事が出来ないのですね)
ピシピシ!!! パリン!!!
「やっとか。おい野郎共行くぞ! 」
目の前の獣人族の男がギラりと瞳をギラつかせ、獲物を捉えたような表情を向ける。
ダリアの手が、足が、震える。
(こんなところで……)
「手こずらせやがって。まずはこいつから——」
(ごめんなさい。ゼクトさん)
瞳を瞑り、護り切れなかったことを悔やむ。
しかし——
「ギャァァァァァ!!! 」
男の聞こえてきたのは絶叫だった。
「よく頑張ったな。ダリア」
瞳を開けて、前を向く。
そこには懐かしい風を纏った男が一人。
「……お帰りなさい。ゼクトさん」
「ああ。ただいま」
緑の——見える程に濃密な風を纏った一人の剣士がそこに立っていた。
ここまで如何だったでしょうか?
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