第二十九話 おっさん、リリの村に戻る
「おいおい……。くそがっ! 」
リリの村に近付く頃には日が暮れかけていた。
しかし明るい。
灯りをともす魔道具が設置されているからではなく、燃えていた。
すぐに集中し、体中に魔力と気を巡らせ強化する。
強化した体で門まで行くとそこではまだ戦闘が繰り広げられていた。
「これ以上は通さんぞ! 」
「見くびるな、平民! 」
薄汚れた服に身を纏った敵の顔面に拳を放つ。
「ぐはぁ! 」
「て、敵襲!? 」
「蹴撃」
「だ、誰が?! 」
「剛拳」
蹴りに拳にどんどんと敵を薙ぎ払い、均衡を保っていた門前の戦いは終わりを告げた。
死体が散乱する中、自警団員十五名とギルムさんがそこにいた。
しかしギルムさんの姿が痛々しい。
「早かったな。ゼクト」
「ミスラ村で盗賊騎士が各村を襲撃していると聞いたのですぐに戻ってきたんですよ」
「そのおかげで、助かった」
ふぅ……、と息を吐きながら座り込む自警団員。
無理もない。
本格的な対人戦闘をした人なんてギルムさんくらいだろう。
しかしギルムさんの様子が気になる。
「ギルムさん。貴方ほどの人がやられているなんて」
「迂闊だった。盗賊騎士とやらの中に相当な手練れがいた。そいつに村に入られた」
「な!!! 」
腕の布を真っ赤にし、顔を青くするギルムさんがそう言う。
ギルムさんがやられるほどの相手?!
元とはいえAランク冒険者だぞ?!
「加えるのならば中に騎士だけでなく魔法使いや盾使いも……。すぐに悟った。これは普通の賊ではないとな」
「魔法使いまで! 」
驚きを隠せない。
こうなると没落した家というのは相当な財産家であることがわかる。
高位貴族、か。
また厄介な人を没落させて。
沸々と怒りがこみあげてくる。
「ゼクトは……。その武器で大丈夫か? 」
「さっき程度の賊なら拳で。しかしそれ以上となると」
「ならこれを使え」
と、相手からふんだくったであろう剣を渡してくる。
それを受け取り使い勝手を確認。
見た目はいいが……これは。
「装飾剣、ですね」
「無いよりかはマシだろう。実際使えたしな。お前さんの事だ。一旦家に戻って装備を揃えるんじゃないか? 」
「……借りていきます」
「ゼクトに戦神様の加護があらんことを」
出血が多すぎたのかギルムさんが眠りながらそう言った。
★
『騒がしいな』
器から離れて精霊となったホムラは異常を察知し村を見ていた。
『何だこれは? 賊?! 』
薄汚れた装備に身を纏い各所で暴れる賊のような人達をみた。
彼らは——一般的に盗賊騎士と呼ばれる者達。
主君の家の没落、もしくは自らの騎士爵位の剥奪により賊に成り下がり、各地を荒らす害虫のような存在だ。
今までホムラは盗賊や山賊を討伐してきた。
しかし今襲っている輩の類と出会ったことはない。
それゆえか、少し驚いていた。
『見たことのないパターンだが、賊に違いない』
そう思いつつ家に向かい、器に入る。
「まだ本調子ではないのだがこのまま放っておくわけにはいかないだろう」
体の中にある魔力量を確認し、一人呟く。
彼女の今の魔力充填度は多くない。
数時間持てばいいくらいの魔力量である。
しかし彼女にとって数時間あれば殲滅が完了する程度の相手。
あとはどれくらい被害を出さずに倒すかであった。
「手加減の成果を見せてやろう」
独り言ちて、精霊人形『ホムラ』は起動した。
★
「お、お前達なんて!!! 」
剣を持ち震える手でガリザックがそう言った。
目の前にいるのは本物。
いつも軽くあしらってくるゼクトとは違う、本気で殺しに来ている相手だった。
「ガ、ガリザック。私を置いて逃げなさいよ! 」
「うるせぇ! 黙ってろ、リナ! 」
「はは。そっちの嬢ちゃんの方が利口だな。嬢ちゃんを渡しな」
「ま、渡しても俺達を見た奴らは処刑確定だがな」
震えるリナに護るように立ち向かうガリザック。
ジグルはすでにやられ盗賊騎士に踏みつけられている。
「ジグル! 」
「おおっと、早く渡さねぇとこっちは大変なことになるぜ」
「大人の体重で踏みつぶしたらどうなるだろうな」
「「「はははははは」」」
少し体重が乗ったのだろう、「うぐ……」とジグルから息が漏れている。
しかし誰も気付いていない。ジグルの指が動いていることに。
「くそぉぉぉ! 」
「だいちよ……その、ぼう、へきをもって……まもりたまえ。大地の防壁」
ゴン!!! と鈍い音が、した。
ジグルを踏みつけていた男の顎に地面から突如生えた壁が当たり、笑ったままの間抜け面を晒しながら軽く後ろに追いやられた。
相当痛いのであろう。
その男は顎を抑えて怒りを露にしている。
「こ、このぉぉぉ、クソガキがぁ!!! 」
ドン! という音と共にメキリという音がジグルから聞こえる。
ドン! ドン! ドン! と何度も踏みつける音がする。
ジグルからはもう声が聞こえないのだがそれでも止めない騎士達。
そして邪魔だと言わんばかりに、更に蹴り飛ばし遠くへやる。
「やめろぉぉ! 」
「どいてろ! クソガキ! 」
「げぶふぁ!! 」
我慢を切らして手に持つ剣で切りかかるも回し蹴りを食らい、ガリザックが吹き飛んだ。
その光景に絶望し、リナは涙をこぼす。
すぐさま吹き飛んだガリザックの方へ行き、様子を見た。
「ね、ねぇガリザック。ジグル。どうしたのよ」
そう問いかけるも二人とも反応がない。
近寄り、声をかけている間に男が正気に戻ったようだ。
「くそ、収まんねぇ」
顎をさすりながらリナの方に目を向ける盗賊騎士。
「ま、後はこっちにどうにかしてもらおうか」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
男達が近寄る中——
「ギャァァァァァ!!! 」
彼らの後ろで悲鳴が上がった。
「ふむ。やはりまだまだだな。まだ加減が難しい」
響き、その数を増させる男の悲鳴に、驚き振り向くとそこには一人の赤き美女がいた。
「む? そこにいるのはこの前のいたずらっ子か。ん? この状況は……」
赤き美女は剣を振るい迫りくる男に気を止めず、剣を腕で受け、そこから発火させ、燃やしていた。
その異様な光景に襲っていた側が目を見開いている間にどんどんと、考える様子をしながら前に進む。
「全員構えろ! そこら辺の雑魚じゃねぇぞ」
「くそっ! こんな奴がいるなんて聞いてねぇ」
「ぼやいてても仕方ねぇ。やるっきゃねぇだろ」
盗賊達が完全にリナから目をそらし構え、集中する。
しかしホムラはそれを遥かに上回った。
「一旦三人を治療院へ連れて行こう」
風が通り過ぎたと思うとリナの前にホムラが立ち、そう言った。
気が付けば彼女が持つ長剣で首を撥ねられ、鮮血が飛び散る——前に精霊魔法で体中を焼かれていたのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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