第二十七話 おっさん、隣村に行く 一 出立
「? 少し休みたい? 」
「ああ。貴君や村の人には申し訳ないが、少し休みを貰えないだろうか? 」
初心者講習に副業に明け暮れた後のある日の朝、ホムラが朝食後にそう言った。
まだ朝食の良い匂いが漂う部屋でオレはホムラに聞いてみる。
「人形……なんだよな? 疲れるのか? 」
「いや。この体に疲れはない。加えるのならば本体である私自身にも疲れはない」
「ならなんで」
そう尋ねると少しバツが悪そうな顔をしてこっちを見た。
「魔力が少なくなってきているんだ。その補充になる」
「それならオレが充填しようか? 」
「貴君には仕事があるだろ? 故にそれには及ばない」
キリッとした顔でそう言うホムラ。
「まぁホムラがいいのならオレは良いが……というかどうやって魔力を貯めるんだ? 」
「この体には魔力充填装置が込められている! 」
「そんな便利なものがあるんだな」
「出回っている魔導人形にも込められているぞ? 基本的にそこに使用者が魔力を込めて動かすんだ。」
「基本的には? 」
「そう。この魔力充填装置は外部魔力を集める力もある。だから最悪放っておいても後で動くようになったりもする。だが私達の場合は少し違う」
少し自分の製作者とやらが誇らしいのか自慢げに説明を始めるホムラ。
しかし、それに軽く首を傾げる。
何が違うっていうんだ?
「魔導人形の場合は外部から魔力充填装置に集めた魔力の殆どを動くことに回しているが、私達精霊人形の場合は動かすのは精霊本体になる。だから余計な魔力は必要ないんだ」
動くために魔力を回さなくても良いという訳か。
なるほど。それでこれだけ刻印魔法を使っていても今まで魔力切れを起こさなかったのか。
「まてよ。ならなんで最初であった時魔力切れを起こしていたんだ? 」
「……恥ずかしい話ではあるが魔力切れを起こすのはあの時が初めてではない」
「??? 」
「いつもは友人と交代で魔力の外部魔力から補充をしつつ移動していたのだが、友人から離れてしまったからな。貴君に出会わなければ本当に大変だった」
軽く思い出すかのようにそう言うホムラ。
そういうことか。
つまり今までも補充をしながらここまで来ていたから他人からの魔力の補充が必要なかったと。
「それで魔力の補充の為に休みが欲しいと、いうことか」
「その通りだ。ダメではないだろうか? 」
「いいよ。初心者講習も体調不良とかにでもして休むと伝えておく」
「迷惑を掛ける」
大丈夫だ、と言いつつオレはホムラを家に置き冒険者ギルドに向かった。
★
「ホムラさんが体調不良ですか? 」
少し遅めの朝、閑散とした冒険者ギルドでオレはすぐにホムラの事をダリアに伝えた。
もちろん精霊関係は除いて、だ。
「ああ、昨日くらいから体調が悪そうだったからな。少し長めに休養を取らせるよ」
「分かりました。その分講習期間は長くなりますが……」
「仕方ないだろう。下手して怪我をするよりかはマシだ」
そう言い合いつつ、ダリアが何やら机の下をゴソゴソとしている。
それを訝しめに見ていると一枚の依頼書を出してきた。
依頼書をこちらに出して、説明を始めた。
「こちらなのですが、隣村——ミスラ村へ配達して欲しいものがあるらしいのですが」
「あぁ……市場からの依頼か」
時折こうして配達の依頼が出ることがある。
と、言ってもミスラ村までの距離は歩いて一日歩かないかなので厳しい依頼ではないのだが。
軽い配達ではあるが市場の人はそれぞれ店があるためこうしてアイテムバックを持っている人達に依頼が来ることが時たまある。
今回はオレと言うわけだ。
「どうしましょうか? ホムラさんを一人家に置いておくのが心配なら他の人に当たりますが」
「いや、受けよう。ホムラは一人でも大丈夫だろうし、家を荒らすようなことはしないだろうよ」
「……とても信頼しているのですね」
「拳で地面に穴をあけるやつが誰かに後れを取る様子が思い浮かばないのと、性格的に家を荒らさないだろうと思っただけだ」
「それを信頼と言うのです」
「……もしかしてオレがいない間にホムラの看病と言う理由を付けて家に探りを入れようとしてないだろうな? 」
「……」
「止めろよ? 本当にやめろよ」
「ま、まぁ……流石に私もそこまでしませんよ」
「信頼しているからな」
「……ずるいです。ホムラさんだけ」
少し寂しそうな顔をしながらも依頼の処理をするダリア。
そこまで落ち込むようなことはないとは思うのだが、と思いつつも処理された依頼書を持ち冒険者ギルドを離れた。
★
「おお。助かったよ」
「これはまた多いですね」
大量の荷物を見つつオレは苦笑いした。
そこにあるのは奥様方が作った手芸作品に肉類などこの村で作られ、採れたものだ。
山に面していないミスラ村はもちろんの如くイノシシのような動物がいない。
リリの村と同様にムギを作っている村なのだが肉というのが貴重なようで。
王都まで行くか、逆にリリの村までくれば買えるのだがそこまでする必要性も感じられないとか。
王都産のものは高いということでリリの村から採れた肉を時折こうして売りに行っている。
確かに王都産は高い。
少しばかしの加工がされているのと、『王都産』というが重要らしく。
あまり産地を気にしないオレ達からすれば安い方がいいのでこうして採れたものを売りに行ってるということだ。
「ん? 見かけない手芸品がありますね」
「これはホムラちゃんが作ったのよ。上手でしょう」
……。いつの間にこんなに上達したんだ?
初めの頃見せてもらったのは見るに耐えない、精神を侵食されるかのような造形だったのに。
そう思い、ふと彼女が大量に糸を買い込んでいたのを思い出す。
もしかして寝ずに練習したのか?
それならば上達の理由に説明がつく。
しかし、いやまぁ人間と交流し馴染むという意味では良いのかもしれないな。
実際、こうして品物として出せるようになったのだから。
「ま、ミスラ村はお得意さんだ。頼んだぜ」
「よろしくね~」
「いつも通り卸してきますよ」
そう言いながらアイテムバックに荷物を入れる。
入りきると市場の人に見送られながらオレは村の門を出て見張り台に手を振りながらミスラ村へ旅立った。
ここまで如何だったでしょうか?
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