第二十三話 おっさん冒険者と人形冒険者 一 ホムラの初心者講習
翌日、朝練と食事を終えたオレとホムラは冒険者ギルドに来ていた。
「では行ってくる! 」
「あぁ。行ってこい」
赤く長い上着に包まれた腕を大きく振りながらそう言うと冒険者の初心者講習の担当に連れられ彼女はウキウキでついて行った。
しかしまぁ初心者講習だけでよくあそこまでテンションをあげれたのだ。
逆に感心する。
「さて」
と、軽く呟きホムラが初心者講習を受けている間待っていることに。
一先ず座ろうと思い開いている席へ。
少ないが冒険者もいる中彼らをすり抜け席に着く。
ドン!
席に着くと周りを見た。
いつもの風景だ。
田舎特有のにおい、少ないながらも話し合い少しでもいい依頼を見つけようとする冒険者達。
中には談笑している者もいるが、少しざわつきが。
そんな雑音を聞きながら目を下に。
そこには一人倒れている受付嬢がいた。
「……一応聞いておこう。何をやっているんだ? ダリア」
「こけてしまって」
うつぶせに倒れるダリアに軽く呆れながらも席を立ち手を差し伸べる。
「ほら。早く起きて仕事に戻れ」
手を取り「ありがとうございます」と言い立ち上がるダリア。
少し引っ張られる感じがするが、こっちが引っ張り立ち上がらせる。
すると「パンパン」と服を払い、少し顔を赤らめ、苦笑しながら「ありがとうございました」と言い、受付へと向かっていった。
「何だったんだ? 」
その奇怪な行動に少し違和感を覚えつつも、再度椅子に座った。
談笑していた冒険者達はこちらを見て少し頬を緩ませている。
少し恥ずかしくなり頬を掻くもその間に彼らは依頼ボードの方へ向かった。
そんな彼らを見つつも、思い出す。
「そういや傷薬のことに果実店のこと。何だったんだろうな」
軽く思い出し、上を向いた。
院長が言っていたように土木系の事故がどこかの村で起きて傷薬が大量に必要になった、というのが一番わかるだろう。
王都でなくても違う方向、つまり隣村から伸びる違う村の事だ。
だが商人が遠回りしているというのも気になる。
何か起きているのだろうか。
いや、起きていると仮定して準備をしていた方がいいのかも知れない。
これから依頼を受ける時は装備もう少し威力のあるものにするか?
そう考えていると声が聞こえた。
「ゼクトさん。また深読みですかい? 」
声の方をみるとそこには一人の男冒険者が。
「深読みってほどじゃないが」
「ゼクトさんにとってそれほどでもない事は、俺達にとっては深読みになるんですよ」
「ま、用心に越したことはない」
「あまり気を張り詰め過ぎないでくださいよ。それで倒れられたら俺達も困るので」
困り顔で肩を窄める冒険者。
「むしろオレがやっている依頼を少しでも捌いてもらいたいのだが」
「勘弁してくださいよ。俺達は俺達で精一杯ですから」
「オレよりも若いだろ? 」
「そうですが……。やはりこなしている依頼量が違い過ぎるので。というかどうやってそんな量をこなしているんですかい? 」
「特別なことなんてしてない。ただひたすらこなしているだけだ」
答えに困り当たり障りのない事を言うが、心底不思議そうにこちらを見る冒険者。
確かに彼らからすればオレがこなしている依頼量は途轍もないだろう。
しかもオレはソロだから余計に不思議に映る。
だが特別なことは本当に何もしていない。
採取依頼ならばまとめてやったり、近い場所で出されている依頼なら同時にこなして帰っているだけ。
安全で、確実にこなせる依頼を効率よくしているだけだ。
「ま、本当に倒れない程度にやってくださいよ」
「分かってるって。冒険者は体が資本だからな」
オレがそう言うと手を振りながら彼は仲間の所へ向かっていった。
「ふぅ……。ま、確かに考えすぎというのもあるかもしれない」
そう呟きながら席を立ち依頼ボードの方へ足を向ける。
とりあえずはホムラの、講習用の依頼を見繕っておかないとな。
講習自体必要ないような気もするが、もしかしたら苦手分野があるかもしれない。
それを補えるような依頼があればいいんだが。
……。いやそれよりも精霊って普通、薬草を採ったり狩りをしたりするのか?
しないだろうな。
なら、Fランクであることも考えてそこら辺を見繕えばいいか。
と、考えていると依頼ボードの前に着いた。
「さてどれがいいか……。ん? 薬草採取? 」
見ていると、見覚えのある依頼を見つけた。
内容はスタミナ草の採取。Fランクの依頼だ。
この前もやったはずだが、と思い少し覗き込むと依頼主はルック院長だった。
採ってくる量も少ない。
これは恐らく院内用だな。量もいつもと同じくらいだ。
この前徹夜で傷薬を作ったと言っていた。
その時に院内のものも全部外に出してしまったのだろう。
それで備蓄が欲しい、と言ったところか。
「終わったぞ」
依頼を見ていると扉の向こうから元気溢れる赤く染まった精霊人形とげんなりした担当者がいた。
……。嫌な予感しかしない!!!
「ど、どうだった? 」
「面白かったぞ」
いや、講習は面白い物ではないと思うんだが、と担当者の方を向くと「ガシ」っとオレの両肩を掴んだ。
「……ホムラさんは座学の講習はいらないと思います」
「な、なぜだ? 」
「私の……私の知識を遥かに上回るからです」
その言葉を聞いて察した。
要するに (本人は自重したと思っているかもしれないが)あふれんばかりの知識を披露したのだな。
憐れ座学担当。悠久の時を生きる精霊の知識に負けてしまったか。
心を折られたのか少し涙目な彼女を見つつも、正体はバレて無さそうだし今の所は大丈夫かと安堵する。
「ホムラ。座学の講習は必要なさそうらしいが、どうする? 」
「む。そうなのか? 」
ホムラが言うと、担当が全力で、高速で首を縦に振った。
「なら実践だけにするか」
「わかった。丁度良さそうな依頼があった。これを受けよう」
そう言い依頼ボードから薬草採取の依頼書をひっぺ剥がす。
それをもって座学担当から離れ、ホムラを連れて受付に行く。
「これをよろしく」
「かしこまりました」
今度は受付嬢らしくダリアが依頼を受け取り処理をする。
「受付が完了しました。では行ってらっしゃいませ。ホムラさん、そしてゼクトさん」
「どさくさに紛れて誤情報を混ぜるな」
呆れながらもオレとホムラは山へと向かった。
ここまで如何だったでしょうか?
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