第十六話 おっさん、ホムラにリリの村を案内する 二 怠惰なるダリア 三
「昨晩も美味しかったが、朝食はジューシーだな。噛むたびに口の中に汁が出てくる」
「美味しそうでなによりだ。作った甲斐がある」
焼けた肉詰めを木でできたフォークに刺してパクパクと食べるホムラ。
よく考えればホムラには歯も実装されているのか、と思い至り、その製作者とやらのこだわりが見える。
……。
現実逃避は止めようか。
極めて、非道徳的な絵面である!
焼き卵と肉詰めを交互に食べて、口から漏れ出しきらりと光る僅かな肉汁。
おい、ダリア。これどうしてくれる!
ダリアの方を向くとそこには少し光悦した顔で「ゼクトさんが焼いた肉詰めに私が用意した卵が……」と呟く彼女がいた。
こっちもダメだったぁぁ!!!
もしかして確信犯か?!
単なるギャグに実用性を乗せただけじゃなかったのか?!
「……むっつりめ」
「なにを言いますか。ゼクトさんにはオープンです! 」
「余計に悪いわ! 」
隣から堂々とセクハラ発言をしてくるエルフにツッコむ。
正面で味をかみしめているホムラは肉詰めを口からはみ出させながら、オレ達がなにを話しているのかわからない風に小首を傾げている。
まぁ精霊にはわからないよな。
「ダリアが優秀なのは知っているが、そんな感じでよく受付嬢が成り立つな」
「皆さん良くしてくれていますし、なにより理解がございますので」
「それを諦めともいう」
肉詰めを突き刺し口に入れる。
「そのようなことはありません。これでも場はわきまえています」
ゴクリと飲み込み横を見る。
「場をわきまえている人が、早朝から愛の告白をするか? 」
「もう……限界なのです」
「頬を赤らめながら言うな。それと本筋から離れているぞ」
「あら、筋なんて」
「おい。セクハラ発言やめい! 」
注意したところから肉詰めを食べだすダリア。
憎たらしいほどに美しい顔つきをして食べやがって。
全く彼女も懲りないな。
美味しく食べているようだが、複雑な気分だ。
それを咀嚼し飲み込みこちらを向く。
「美味しく頂きました」
「それはようござんした」
オレ達は食事を終えて片づけを。
そのあと広間に行って今日やる事を確認する。
「ダリアは今日休みであってるよな」
横にいる彼女に問いかける。
流石に事務職ということもあって日程行事を忘れたことは無いが一応の確認。
「あっていますよ。流石の私も出勤日と休日は間違いません」
不服だと言わんばかりに反論するダリア。
そんな顔をされても休日の彼女——しかも外面ではなく家での彼女——を知っているがために、その反論に信憑性はない。
一先ず隣のダリアは放っておき正面のホムラに顔を向けた。
「最初はホムラを村長宅に連れて行く」
「ああ。昨日言っていたな。身分証明書だったか? 」
「そうだ」
「え、ホムラさん。身分証明書持ってないのですか? 」
隣から声が聞こえるとホムラが肩を竦めた。
「ならば冒険者ギルドでギルドカードを発行するのはどうでしょうか? 」
「あぁ~それもあったか」
「あとは教会が発行するものなども、ですね。しかし……ホムラさんはどのようにしてこの国に入ったのですか? 」
鋭い!!!
そしてまずい。どうやって誤魔化そうか。
この国で生まれたことにするか?
いやそれはほぼ不可能だ。
教会発行のカードが身分証として使えるのはこの国の国教だからだ。それを持っていない時点で不審がられる。
他国から来たことにするか?
それが一番だがどうやって国境線を跨いだかが問題になる。
どうやって……。
「実はこの国に来て紛失してしまってな。それで、この国で再発行できればと思ってるんだ」
その手があったかぁ!
紛失ならば怪しまれる可能性は低い。
実際冒険者ギルドのギルドカード紛失時も再発行できるし。
お金がかかるが。
「なるほど。ではどこから来たのですか? 」
急所ぉぉぉぉぉ!!!
まずい!
まずいぞ!
こればかりはオレも知らないし助けることができない。
どうする! どうすれば!
「大和皇国だ」
どこだよそれぇ!!!
「大和皇国ですか。なるほどかなり遠くから来たのですね。その途中で紛失したと」
「そう言うことだ」
知っていた?!!!!
え、大和皇国知らないのオレだけなのか!
「……ちょっとダリアさんや」
「はい。何でしょう、ゼクトさん」
「誰が貴方だ。どさくさに紛れて既成事実を作ろうとするな」
「ちぇっ! 」
「で、どこなんだ? 」
横に目をやりダリアに聞く。
「独自の文化を持った……そうですね。海に面した国の一つです」
「へぇ。ならこの国に出回っている塩とかも? 」
コクリとダリアが頷いた。
「この国からは距離がありお金がかかりますが大和皇国の塩が多いですね」
「塩、か」
「あと色々とありますが……かなり遠いと聞いています。国を一つや二つ程度ではない、と」
「ホムラはそんなところから来たのか」
「うむ。流石に歩いて来るにはきつかったぞ」
「歩いて来た?! 」
その言葉にダリアが驚き声をあげた。
「ば、馬車とかではなくてですか? 」
「ああ」
「途中盗賊とかに襲われませんでしたか? 」
「全て薙倒した。そしてその国の衛兵に突き出したのも数回ではない」
「……かなりお強いのですね」
そう言い、少し落ち着いたのか席に戻るダリア。
ちらりと見るがその表情は少し暗い。
モンスターにやられたのはかなり昔の事なんだがな。
それが後を引いているのだろう。
ダリアを助けた後、受付嬢をやる傍らで魔法の勉強をしていたのをオレは知っている。
彼女もかなり強いはずなのだがまだ自信を持てないでいるようだ。
故にホムラが輝かしく見え、自分がみすぼらしく見える、と言ったところか。
「ま、ホムラがこの村に滞在するのはほぼ確定のようだから村長に顔合わせと、ついでに身分証明書を発行してもらおう。村民として受け入れる形で」
「それが一番かと。あ、それならばついでに冒険者ギルドに登録してもらったらどうでしょうか? 冒険者も人手不足ですし、この村を離れることがあっても利用できると思うのですが」
ダリアの意見を採用し、他の話題も詰めていく。
「じゃ、ダリア。オレ達はこれで」
「少々お待ちください。私は準備がまだなので」
「え? 」
「え? 」
少し沈黙が流れる。
「ダリアもついて来る気なのか? 」
「むしろ行ったらダメなのですか? 」
ウルウルした瞳でこちらを見上げてくるダリア。
うぐぐぐぐ……そんな顔で見ないでくれ。
「私は、ダリアに来てもらった方が便利だと思うが」
「そうでしょう、そうでしょう! 」
「女物とかを揃えなければならないからな」
必要なのか?
「ホムラさんの言う通りです。女物を扱うのならばここは男性であるゼクトさんだけでは心配です。ここはやはり! 私がついて行くべきでしょう! 」
ダリアが席を立ち熱弁した。
こうなったら彼女は止まらない。
結局の所ダリアも連れてことになりその場は収まった。
話が終わりダリアが再度身支度をしている中、広間でオレはホムラと対面していた。
「おい。ホムラさんや。自分で自分の首を絞めたの、分かってるか? 」
「??? どういうことだ」
やはり分かっていなかったようだ。
軽く嘆息し彼女に向き合う。
「本来ならばダリア抜きの状態で村長にホムラが精霊人形であることを話す予定だったんだ」
「そうなのか? 」
「ああ。しかしここでダリアが一緒に来るとなると、おいそれとホムラが精霊人形であることを話せなくなる」
やらかしたという表情をし、軽く慌て「どうしよう」と呟くホムラ。
そんな彼女に提案する。
「一応だが有耶無耶になりそうだった種族を決めておこう」
「オレの設定とやらか? 」
ホムラの言葉に頷くオレ。
「どの道やっておかないといけないんだ。この際だ。やっておこう。で、どの種族にしておく? 出来れば人族に近い種族がいいんだが」
「人族がダメならエルフ族とかはどうだ? 」
「耳が、な」
「少し大きめなドワーフ族というのは? 」
「身長が違い過ぎる」
「ドワーフ族でも身長の高い奴はいると思うが……」
「確かにそうかもしれないが……明らかに嘘だとわかるだろう。それに同じドワーフ族に会った時話を合わせることが出来るのか? 」
「そこは任せろ。長年、色々な種族を観察した本領を発揮してみせる」
「ならドワーフ族で行こう。表向きは。詳細はダリアがいない状態で村長に詳しい話を話そうか」
種族について話が終わった所で「準備が終わりました」と聞こえてきた。
席を立ち、振り向くとそこには—―ネグリジェを着たエルフが一人。
「着替え直せ!!! 」
色っぽいポージングをするダリアにそう言い、次こそはきちんとした服装にさせてオレ達は村長の家に向かうのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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