第十四話 おっさん、ホムラにリリの村を案内する 二 怠惰なるダリア 一
「いや。おかしいだろ」
「なにがだ? 」
「鉄とかの金属でできているホムラが何でそんなに速く移動できるんだよ」
「軽量化の刻印魔法だ。他にも仕掛けはあるが……そもそも鉄の硬度や重さのままだと人に簡単に人形だとバレるだろ? 」
「確かに」
「加えるのならば足には移動速度上昇が施され、更に精霊魔法を使えば更に速くなれる」
朝日が昇る中、オレは空と立っているホムラを見上げていた。
照らされる彼女の赤く長い髪とミニスカから見える白い脚が美しいが今はそれどころではなかった。
魔闘法で強化したおかげか彼女との訓練は善戦出来た。
しかし後から「まだ本気ではない」と言われれば、がっくし来るのも当たり前。
ふぅ、と息を吐きながら上半身を起こす。
するといつの間にかホムラがしゃがんでこちらを見ていた。
「にしても強かったな。貴君は」
「そうか? もう体がついて行かないんだが」
「そんな様子は見られなかったぞ? 少なくともそこら辺の賊より強い」
「いや、賊を基準にされてもな。一応現役の冒険者。それなりに戦えるさ、っと」
体を起こして腕を回し、体を動かし異常がないか調べる。
大丈夫そうだ。
「さて、これから朝ごはんでも作ろうか」
「おお! 今日の朝ごはんは何だ! 」
「なにが良いか……いや。ちょっと待て。確か今日は……」
立ち上がり食事の内容を聞いて来るホムラを一旦止めて思い出した。
……。
確か今日はダリアがお休みの日だ。
起こしに行かないといけない、のか。
★
「おお。ここがダリアの家か」
ホムラがごく普通の木造建築を見上げてそう言った。
オレのこと以外は基本的に外面のいいダリアだが、彼女は怠惰だ。
規則正しい生活からは程遠い生活を送っている。
よって彼女が休みの日はこうして起こしにやってきている。
「しかし意外だな。そこまで酷いのか? 」
「……。そうだな。今起きていたら、軌跡だろうな」
「そんなにか。仕事がある日はどうしてるんだ? 」
「……。流石にそこまでは」
分からなくもないが、言うに躊躇われる。
時々ちらりと覗いて出発しているか確認してから冒険者ギルドに行っているなどオレからは言えない。
傍から見ると完全に犯罪者だ。いや犯罪者の行動そのものだと思う。
だがこれはダリアからのお願いでもあり、数少ない冒険者ギルド職員達からのお願いでもあった。
彼女の惰性全てが知られているわけではないが、ダリアの同僚達は朝に弱いくらいは知っている。
人員に比べて多い業務。
あれでもかなり優秀なギルド職員だ。よって惰性を理由に解雇するわけにはいかず、こうしてオレに頼んでいるというわけだ。
さて、と意気込み腰のアイテムバックに手をやる。
「鍵? 」
「ああ。起こすために必要だろうと言い、渡されたものだ」
輪っかで連なった幾つかの鍵を出した。
それをホムラが横から覗き込みぽつりと呟く。
「……周到、というべきか」
「ん? どうした? 」
「いや、なんでもない」
そうか、とだけ言い柵の間を行き木でできた扉に鍵を差し込み中に入った。
★
中に入ると、女性特有のいい香りが漂ってきた。
香水の類ではないのだが何故こうもいい香りがするのかわからない。
そんな変なことを考えながらも中を行く。
「ダリアの家は貴君とあまり変わらないな」
「同じ村だしな」
オレの家やダリアの家を建てる時、隣村から職人を呼んだ。
同じ職人グループに作ってもらったから似たような構造になっている。
しかし、リリの村の建物は殆どその職人グループに作ってもらっているらしい。
なので恐らくどこの家に行っても同じだろう。
「さてオレは起こしに行くか」
「私はどうしたらいい? 」
「広間にある所ででも座っていてくれ」
「了解した」
そう言いオレとホムラは別れた。
オレはそのままダリアの部屋へ。
着くと軽くノックをして声を掛ける。
「ダリア。ゼクトだ。起きてるか? 」
はぁ、と溜息をつく。
返事がない。
いつもの事ではあるがまだ寝ているな。
再度ノックをして起こそうとするがやはり返事が返ってこない。
しかたない、と思いながらも手に持つ鍵の一個を使い部屋の扉を開けた。
ギギギ、と音を鳴らしながらゆっくり扉を開ける。
そこには——惨状が広がっていた。
これがホムラを一緒に連れてこなかった理由である。
これを昨日会ったばかりのホムラに見せることができるだろうか。いやできない。
「……起きない時はオレが来るのがわかってるのだから、少しは片付けておいて欲しいのだが」
そう呟きながらも上着が散らばる床を見る。
男のオレでもここまでではないぞ。
そう思いつつもふと疑問に思った。
この惨状を彼女の同僚は見たことがあるのだろうか?
いやダリアの事である。
同僚が家に来る時は恐らく前もって片付けているだろう。
しかしいきなり同僚が来たら困るぞ、これ。
まぁまず入れないだろうけれども。
そうぼやいていると「ん」という声がする。
同時にごそっと音がする。どうやら寝返りを打ったようだ。
声がする方向を見ると朝日が窓の隙間からこぼれる中、彼女を照らしていた。
キラキラ光るショートグリーンの髪に掛け布団を抱き枕にする白い腕。
そして――
「せめて何か着て寝ないと風邪をひくぞ」
半裸の彼女。
見慣れたとはいえ少し顔が熱くなり充血するのを感じる。
全く少しは恥じらいというものを持ってくれたらいいんだが、と思いつつも床に散らばるギルド職員の服を避け、ベットに向かう。
「朝だぞ。起きろダリア」
横になってすやすやと眠る彼女の肩を軽く掴んで揺さぶり起こそうとするが、起きない。
「起きろ、ダリア」
再度揺さぶるも起きない。
逆に腕を掴まれて少し動揺。
「げへへへへ……。ゼクトさんの匂いがします」
……。
涎を垂らし、だらしない表情をして寝言を言うダリア。
いつものこととはいえ……ひくわぁ~。
そう思っている間に更に腕をからめとられ涎を垂らしてくる。
頬を擦り付け、寝言を言っている。
柔らかい感触が腕を襲うが今は起こすのが先決だ。
そう思い彼女を一旦剥がそうとするがはがれない。
抱き枕代わりの布団ももはやなく、彼女は上着の無い状態を晒しだしていた。
これは天誅を与えなければ。
「お・き・ろ! 」
ゴン、と音を立てて彼女は——沈黙した。
「やり過ぎたか」
ここまで如何だったでしょうか?
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