第十一話 おっさん、一日を終える 一
「ここが貴君の家か」
「大きくないがな」
一軒の一階建て木造建築を見上げてホムラがそう言いオレが肯定した。
前には木でできた簡易的な柵があり外と内を分けている。
「一先ず簡単に説明しておこうか」
「頼んだ」
そう言うと柵と柵の間を行き、家に入らず右に回る。
「これは何だ? 家か? 」
家と比べて小さめな建物を見てホムラがそう聞いて来る。
「作業部屋だ」
「家の中に作らなかったのか? 」
「ああ。何というか、趣味をするには外にあった方が良かったからな」
「趣味? 」
「ちょっとした小物作りだ。ホムラを直した修復もこのために修得したんだ」
「人形師にでもなるつもりか? 」
「いや。そんな大それたものになるつもりは無いよ。ただちょっとした、例えば網籠とか、木彫りとかを作ったりするだけだ。あとは……武器を研いだり、少しだが直したりとかかな? 」
「十分じゃないか」
「単なる素人の趣味だよ。ほら次行こう」
そう言い作業部屋という名の小屋を通り過ぎ裏手に回る。
「今度は少し大きいな」
「ま、倉庫だからな」
「なにを置いてるんだ? 」
「色々だよ。例えば武器やら冒険者業に使うものとか」
家の裏手にあるのは倉庫。
もちろん木製だ。
あまりホムラの興味を引かなかったのか彼女は「ふ~ん」と言いながら見上げている。
興味がなさそうだから先行くか。
ホムラを連れて更に回る。
「こっちが訓練場で、あっちが将来的に何か作ろうと思って買った土地だ」
「……訓練をしているのか? 」
「オレは人だからな。年齢と共に衰える体をどうにかして維持するために作った」
と、硬めの土がある方向を見てそう言う。
中々に体力や筋力の衰えというのは早い。特にここ数年。
だから簡易的な訓練場を作って肉体強化だ。
「あっちは何を作るんだ? 」
「まだ決めていない。この大きさだとムギは作れないから普通の野菜類かな? 」
「しかし何のために作るんだ? 」
「……老後の趣味だよ」
何の為に、と言われると趣味としか言いようがない。
何が良いかまだ決めていないが、試行錯誤しながらになりそうだ。しかし花とかにはならないだろう。食べれる物が良い。
「さ、中に入ろう。外側はこれで終わりだ」
ホムラを連れてオレは扉を開けた。
★
「おお!!! ここがゼクトの家か」
「そんなに興奮するものか? 特色なんてない、普通の家だが」
中に入るや否や右に左に顔を向け興味深そうに中を見るホムラ。
そうまじまじと見られるとこちらも恥ずかしいのだが。
いや本当に普通の家だから。
「これが人の家か! 」
「そんなに珍しいか? いや。人の家に入ったことが無いのか? 」
「殆どないな。製作者の家くらいだ」
「それで興奮しているのか」
「ああ。加えるのならば「人の家に入るイベント」。少しワクワクしないか? 」
「気持ちは分からなくもないが……。ホムラは精霊だったよな? 」
やけに人間らしい精霊を見つつ軽く嘆息。
少し進んで家の説明。
「右手が客室とオレの部屋。中央は広間で左手には食堂と調理場だ」
「なるほど」
「一応ホムラには客室を使ってもらおうと考えている。客室には、人が泊まりに来た時用の、簡易的なベットもあるからな。大丈夫か? 」
「十分だ。何せこの体は人形。疲れることはない。何なら倉庫でもいい」
「いや流石に倉庫は……」
そう言いつつ軽く間取りを説明し中を歩く。
広間の前までつくと扉を開けて中へ。
中には机や椅子が幾つかおいてあるのだがその内一つに座りホムラにも座るように指示をした。
「で、これからの事なんだが……。本当にこの村に居座るつもりか? 」
「ああ。友人の事もある。恐らくいつものように、いつの間にか私を見つけるだろう」
少し遠い目をしてホムラが言った。
どれだけすごい探索能力なんだよ。
精霊特有の何か、か?
そんなホムラに目をやりつつ続けて聞く。
「住む場所も」
「無論貴君に頼もうと思う」
だよなぁ、と思いながらも軽く嘆息しその強い意思を込めた瞳を見て、説得するのを諦めた。
「しかしタダで泊まらせてもらうにはいかない。一応家賃を払っておこうと考えている」
「? そんなもの良いぞ? 」
「いや。こういうのはきちんとしておいた方が良いと思うんだ。私が放り出されかねないからな」
……。
怪しい。確かにお金のやり取りはきちんとしておいた方が良いのは確かだ。
この妙に人間らしい人形さんは大人びている所もあれば所々子供っぽい所が見え隠れしている。
何かある。
オレの直感がそう告げている。
まさかダリア絡みか?
厄介事じゃなければいいんだが、と思いながらも仕方なしに承諾。
可能な限り問題を起こさないでくれとだけ神に祈っておこう。
ホムラに祈ったら逆に余計な問題が降りかかりそうだ。
家賃は一応の収入減として割り切ろう。
「それでこれからの事なんだが、一先ず村長の所へ行こうと思う」
「ああ。了解した」
椅子に持たれかけながらそう言うと彼女も了解する。
「どこまで話すかなんだが」
「全部話さないのか? 」
「まず信じてもらえるか怪しい。そして自分が歩く国家機密レベルを動かしていると自覚してくれ」
「お、おう。しかし一応全て報告しておいた方が良いのではないか? 後から発覚するよりもいいだろう? 話す相手は選ぶとしても」
「……確かに。ならば話を拡散させないために村長にだけ話す、か」
軽く息を吐き、ぎぃっと椅子に深く座る。
彼女の事は村長に伝えておくことが決定。後は……と考えているとふと思った。
「そういや遠くの国から来たとかいっていたが身分証明書とかあるのか? 」
「身分証明書? 」
「……まさか、ない? 」
「もちろん! オレは人形だぞ? あるはずがない! 」
長い沈黙が、流れた。
不法入国じゃないのかこれ?!
いや、人形だからセーフなのか?
ドバっと汗が流れる。
いやいや、姿が人なことを考えるとダメだろ!
……。やはり村長に伝えて身分証明書を発行してもらおう。多少お金がかかるが彼女が持っているお金でどうにかなるだろう。
種族をどう誤魔化すかは村長に丸投げだ。
オレは……そこまでは知らん!
「難しい顔をしているが何かまずかったか? 」
「まずい事しかない」
「そ、そうなのか」
「と、言うかここまでどうやって国を跨いできたんだ? 」
「ごり押し」
「犯罪じゃねぇか」
呆れてものが言えない。
そしてドヤ顔で言うことじゃない。
そんなホムラを今後の話をしながら一先ず夕食を取るため調理場で食事を作るのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




