第十話 その頃のダリアはというと......。
(予想外でした)
ゼクト達が冒険者ギルドを出た後、お昼休憩中ダリアは一人頭を抱えていた。
なにについて考えているのかは言うまでもない。ゼクトの事である。
その表情は硬い。
何せ朝ダリアが告白し、断ったにもかかわらずゼクトはホムラという未知の美人を連れてきたのだ。動揺するなという方が難しい。
彼女の周りには彼女と同じく同僚がお昼休憩を取っている。
彼女が一人で悩んでいるのは彼女がハブられているわけではない。
この『ゼクト思考』に入ったダリアに何を言っても彼女は聞く耳を持たず、無駄であることがわかりきっているからである。
いつものお昼休憩は彼女の持てるばかりの社交性を発揮して内輪に入っている。
決してハブられているわけではない。
(助けられた、というのは本当でしょうね。ゼクトさんの性格を考えても、ホムラさんの感じを受けても嘘を言っている雰囲気はありませんでした。しかし……なにか隠しているような気も)
少し唇をへの字にさせるダリア。
ホムラ同様——ダリアの場合はモンスターにやられ瀕死の所を助けられたのだが——ダリアもその昔に助けられた口である。
加えるのならばその時ゼクトがダリアを直すためにつかったポーションは当時の彼の全財産に匹敵するほどの値段。それを惜しみなく使い、働き口である冒険者ギルドの受付嬢を探してくれたほどだ。
村から出てすぐに襲われたダリアは文字の読み書き、数字の足し引きが出来なかった。
受付嬢になるために必須の能力であったが小さな村から出た彼女はそう言った教育がされていなかった。
右も左もわからないままでは不便だろうということでそれらを教え、そして受付嬢への道を作ってくれたのが何を隠そう、当時Bランク冒険者だったゼクトであった。
よってホムラがゼクトに好意を見せるのは彼女も痛いほどに分かる。
が、理解するのと感情は別である。
これも不思議なもので冒険者ギルドにゼクト達が来る前に、何故か「ゼクトの隣に女性がいる」と脳裏を過った。
それを考えるとどんどんと不機嫌になっていき、あの凍るような寒さを放っていたのである。
(しかし話してみると案外良い方でしたね、ホムラさん。一先ずは安心してもいいでしょう)
そう言い机に肘をつき手を組んで顔を隠し、にやりと笑う。
ゼクトに近付く虫、もしくは泥棒猫と思い最初は口論で始まった二人の関係だが話していく内に仲良くなった。
と、言うのも簡単な話。
ホムラがゼクトに恋心を持たないと確信した為であった。
そもそもの話精霊で人形な彼女は生物的にゼクトに恋をし。その後関係を発展させるのは難しい。
それを知る由もないダリアなのだが、女の勘というものは恐ろしい。直感だけで「恩人以上には発展しない」と判断した。
事実その通りで、もし発展することがあってもダリアの考えている通り結婚のようなことにはならない。
(こちらのお願いも素直に飲んでくれました。本当に感謝です)
お願いと言っても難しいものではない。
ダリアがゼクトに会う機会を増やして欲しいと頼んだだけだ。
何でもいい。兎にも角にも会わなければ進展しない。
手紙だけで恋が成就する時代はとうの昔に終わっている。
時代は「積極性」。
まさにその先端を行こうとするダリアであった。
が、周りの人がそれを聞くと「これ以上増やしてどするのか」と言うだろう。
周りから見れば単に「籍を入れていないだけの夫婦」と捉えられている。もしくは、もっと関係の薄い者であれば「夫婦」だろうか。
それを聞くとダリアは狂喜乱舞するが、ゼクトからすれば全力で否定する。
二人の仲というのは「純粋」であるが「歪」でもあった。
お互いに家の隅々まで知っている関係にあるにもかかわらず籍を入れていない。
ダリアが何回も告白するも、ゼクトがすぐに拒否をする。
かといってゼクトに恋心がないわけではなく、単に彼女の事を思って引いているだけ。
これがどれだけダリアにとってつらいものかゼクトは頭にもないが、いざ寿命差という者を考えると人族男性の大半はゼクト側に着くかもしれない。
一瞬の情愛で後数百年悲しまなければならないとなるとどうしても引いてしまうゼクトの気持ちが、わずかだが、わかるのだ。
最長でも八十年生きれば良いと言われている人族に対してエルフ族は五百年ほど生きる。
平均年齢は六十と言ったところか。ならばゼクトの寿命もこの範囲に収まるわけだが今彼は三十九。あと二十年ちょっとしかいきない彼からすれば、ダリアが自分と結婚するのはさぞ心苦しく、また勿体ないとも思う。
エルフ族からすればまだまだ若いダリアはもっと色々な経験をして、更なる恋を見つけるかもしれない。
「ダリアには先がある」
そう考えるのにはこういった理由があった。
しかしながら「あの時こうしていれば」と考える長命種代表、魔族の『ギルム』の意見は異なるだろう。
むしろダリアに「もっと積極的に行け」と活を入れるかもしれない。
今の所その様子はないが。
そう言う訳で進展しないゼクトとの関係をどうにかして動かそうとしていた矢先に現れたのがホムラであった。
敵に回せば強敵だが味方にすると心強い。難攻不落の男『ゼクト』を落とすための友人は多いに越したことは無いのだ。
(ゼクトさんの話方からしても今の所ホムラさんに好意を向けている様子ではなかったと思います。確かに……妙に仲がいい感じ、は、受けましたが……が。あれは恋愛対象というよりも保護対象に対するものでした。……私のように)
そう。結局の所ダリアはホムラと同じ地点にいるだけ。
いや、昔馴染みで知り尽くしている分少し不利な感じでもある。しかしながら彼女は策謀を巡らせる。
難攻不落を落とし、手中に収めるために。
にやけが止まらないダリアだが少し思い出す。
(そう言えば……何故ゼクトさんから精霊の匂いがしていたのでしょうか? いやゼクトさんではなく、ホムラさんからでしょうか? )
妖精族——例えばエルフ族やドワーフ族は、精霊に対する感受性が高い。そこにいると気配を感じ取り、更に鋭敏なものになると匂いがわかるほどに。
ゼクトは上手く誤魔化したと思っているが実際の所、妖精族の近くに行けば簡単に判別されるのを失念していた。
精霊の加護を受けた精霊術師でなくても妖精族ならば気配などでわかるのだ。
ゼクトやホムラから精霊の匂いがするのを不思議に思いながらも、考え答えが出ず、一旦諦め今後の事について考えるダリア。
不気味に笑いながらダリアが行う脳内作戦会議を他の職員がみて「またやってる」と思ったとか。
何にしてもゼクトはまた一歩、災難に足を踏み入れたのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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