表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第八章 生きるということ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/90

ラストバトル

 空に突然現れた邪悪竜は、急降下し、広場にいた人々のすぐ上を通過する。

 風圧で数名が吹き飛ばされていたが、回復師が作った結界により保護されていた。

 ケガ人はいないようだが、その様子をあざ笑うように、邪悪竜は不気味な咆哮ほうこうをあげる。


 邪悪竜は全身に鋭い棘を生やしており、鋭い目で私達を睨んでいた。その姿を目にしただけで、ゾッとしてしまう。

 ワイバーンに跨がる竜騎兵相手に戦うだけでも大変な状況だというのに。

 いくらぶーちゃんでも、五人も抱えた状態で素早く移動することなど不可能だろう。

 竜騎兵達の攻撃は上手く回避しているが、邪悪竜の攻撃は避けきれない。

 なんて考えていたところに、邪悪竜の口元に魔法陣が浮かび上がる。

 すかさず、賢者が叫んだ。


「あれは猛毒のブレスよ! 魔法では防ぎきれないわ!」

 

 耳にした瞬間、胃の辺りがスーッと冷えるような感覚に陥る。

 私達はもうダメなのか。

 イーゼンブルク猊下はなんてものを召喚してくれたのか。

 絶対に許さない。


 と思ったところで、ふと思い出す。

 そういえば、と鞄の中を探った。そこには、公爵が持たせてくれた召喚札があった。

 すぐさまそれを、勇者様(本物)、回復師、賢者へメルヴの蔓を使って渡してもらう。

 彼女達は手にした瞬間、すぐに召喚札を破って発動させた。


 魔法陣の中から現れたのは、純白のドラゴン。

 公爵は伝説級モンスターの召喚札を用意してくれていたのだ。


 勇者様(本物)と回復師、賢者はドラゴンに跨がり、大きく旋回して邪悪竜と距離を取る。

 ぶーちゃんも同じように、目にも止まらぬ速さで空を駆けた。


 邪悪竜は猛毒のブレスを吐きだす。

 同時に、賢者が魔法を展開させた。


「――暴風ストーム!!」


 猛毒のブレスを打ち消すように、風魔法が放たれる。

 まっすぐ放たれるはずだった猛毒のブレスは、ワイバーンに跨がる竜騎兵のほうへ飛んでいった。


 猛毒にやられたワイバーンと竜騎兵は、まっさかさまになって落ちていく。

 無事だったワイバーンと竜騎兵は、仲間を助けるために動いた。

 上空に残されたのは、邪悪竜とイーゼンブルク猊下を乗せたワイバーンだけである。


 勇者様(本物)が剣を振り上げ、邪悪竜に攻撃する。

 とっておきの才能ギフトを使うようだ。


「――隕石撃メテオライト!!」


 勇者様(本物)が斬りつけるのと同時に、炎をまとった石が降り注ぐ。

 

『ギャウウウウウウウ!!』


 隕石に打たれて蜂の巣のようになった邪悪竜は、地上へ落ちていく。

 このままだと、地上にいる人達が危ない。すぐさま賢者が炎魔法で邪悪竜の体を灼き尽くした。


 そして――空にはイーゼンブルク猊下とワイバーンのみが残される。

 勇者様はぶーちゃんに命令し、イーゼンブルク猊下のもとへ接近する。

 急に立ち上がったかと思えば、イーゼンブルク猊下が跨がるワイバーンへ跳び乗った。


「お、おい!! お前、何を――」

「クソ野郎、悔い改めろ!!」


 そう言って、勇者様は拳を掲げる。

 手加減なんて言葉は知らないのだろう。力いっぱい振り上げた拳を、イーゼンブルク猊下の頬へ叩き込んだ。


「へぶっ!!」


 イーゼンブルク猊下は鼻血を噴き、前歯を折ったようで血を吐く。

 ワイバーンから落ちそうになったものの、勇者様が胸ぐらを掴んで引き上げる。


「ひ、ひいいいいいい!!」

「私はいつでも手を離し、お前を落とすことができる」

「た、助けてくれ! 頼む! なんでもするから!」

「言っておくが、お前はこういうことを、全国民にしていたのだぞ!?」


 国民の命を握り、自分は安全な場所にいて、いいように利用していた。

 他人の人生なんて知ったことではない、と思っていたに違いない。

 

「こ、これからは、国民のために生きる! だから、だから、手を離さないでくれ!」

「知るか!」


 そう言って、勇者様はイーゼンブルク猊下を掴んでいた手を離し、胸を突き飛ばした。

 あっけなく、イーゼンブルク猊下の体は宙に投げ出される。


「うわああああああああああああ!!!!!」


 落下していくイーゼンブルク猊下の存在は、高いところから見たら実にちっぽけだ。

 取るに足らない存在のように思える。


 このような目に遭ったら、自分の罪に気付くだろう。

 そう思っていたものの、考えが変わってぶーちゃんにお願いする。


「ぶーちゃん、イーゼンブルク猊下を捕まえてください」

『ぴい』


 ぶーちゃんは素早く空を駆け、イーゼンブルク猊下の首根っこを咥えた。


「うううう、ひいいいいいい……!!」


 イーゼンブルク猊下は子どものように泣きじゃくり、ひたすら謝っていた。

 続けて、私はぶーちゃんにお願いする。

 

「イーゼンブルク猊下を広場に下ろしてください」

「なっ!?」


 別に、私はイーゼンブルク猊下を助けようとは思っていなかった。

心の奥底から、痛い目に遭ってほしいと思っていたのである。


 邪悪竜の出現に、人々は混乱状態にあった。

 けれども、下ろされたイーゼンブルク猊下を指差し、誰かが叫ぶ。


「あ、あいつが、邪悪竜を召喚したんだ!!」


 すぐにそれが、イーゼンブルク猊下だと気付いたらしい。

 イーゼンブルク猊下の周囲には人々が押しかけ――そのあと、どうなったかわからない。

 結局、私が一番残酷なことをしてしまったようだ。

 心の中で、イーゼンブルク猊下に謝罪する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ