勇者様の作戦
本日――王都にて、王族のすばらしい歴史と軌跡を描いた絵画の展示会が開かれる。
入場料は無料。さらに、先着百万人に絵画についての詳細なレポートが書かれた新聞が配布されるのだ。
無料だとあって、大勢の人々が押しかけた。
そして、彼らは初めて知る。
王族達が神より才能を付与する能力を与えられ、偽りの魔王を作りつつ、国のすべてを管理していたことを。
当然ながら人々は怒り、国王を始めとする王族に強い反感を抱く。
すぐに人々は結託し、示威運動を始めた。
王都はたちまち混乱状態になっていく。
その様子を、私と勇者様、勇者様(本物)一行は時計塔の最上階から見下ろしていた。
賢者はため息交じりの声で、暴徒と化した人々を見下ろしている。
「予想通りの事態になったわね」
「ああ、そうだな」
勇者様(本物)は浮かない表情でいる。
暴動によって、多くの人々が傷ついたのだ。想定していたとはいえ、いざ事態を目の当たりにすると、心が痛むのだろう。
街に溢れていた私達の手配書の上から、国王を始めとする王族の手配書が貼られるようになっていた。
今、私達が出歩いたとしても、捕まえようとする者達はいないだろう。
勇者様は感情の読み取れないような表情で、街を見下ろしていた。
「ただ、何もかも、王族に支配される世界というのも、許しがたい。人が人の人生をも管理するというのは、あってはならないことだろう」
王家が恐れているのが民衆であると気付いた私達は、すぐに勇者様の父君である公爵に相談した。
やはり公爵は王家が恐れる存在について察していたようだ。
勇者様が王家の悪事を暴露すると言うと、公爵は反対しないどころか、活動を支援してくれたのだ。
手を貸してくれたのは公爵だけではなかった。他の貴族の中にも王家のやり方に反感を抱いている勢力があったらしい。
表立って名乗り上げることがないものの、裏からいろいろと手助けしてくれる。
国王を始めとする王族は、いずれ全員捕まって処刑されるだろう。
そのあとについても、公爵はいろいろ考えていた。
勇者様(本物)と同じように、辺境の村に送られた王家のご落胤を保護したようだ。
その人物は才能を与えられず、能なし王子として育った挙げ句、王太子よりも賢く臣下から人気があったことから、王都から追放されてしまったらしい。
彼に次代の王として即位させようと公爵は考えているようだ。
あとは、こうして民衆の動きを見守っておくだけだ。私達にできることはない。
すでに数名の王族は捕まっており、人々の見せしめにされている。
元王女である勇者様のお母様は現在、隣国に亡命し、療養しているらしい。
同じように亡命しようとする王家の者達もいたようだが、果たした者はいない。
現在王族には多額の懸賞金がかけられており、見かけたらすぐに突きだされるのだ。
正直、人が人を裁く様子を見るのも気分が悪い。
しだいに、私達がけしかけたことは王族がやっていたことと同じではないのか、という思いも押し寄せる。
街で起こる騒動から目を背けたい気持ちがこみ上げているものの、私達は見ておかなければならない。
それが責任というものなのだろう。
うんざりする中で、勇者様(本物)が叫んだ。
「皆、下がれ!」
声が聞こえたのと同時に、目の前にワイバーンに乗った騎士達が時計塔の最上階まで飛び上がってきた。
あれは精鋭とも言われている、竜騎兵だ。
そんな竜騎兵と共に、見知った顔が私達を指差しながら声をあげる。
「反逆者共め、見つけたぞ!!」
真っ赤な法衣に身を包んだ壮年の男性――イーゼンブルク猊下だ。
「お前達の悪事もこれまでだ!! 一斉砲撃!!」
ワイバーンの口元に魔法陣が浮かぶ上がる。
勇者様はハッとなり、注意を促す。
「あれはブレス攻撃だ!!」
すぐに回復師は魔法を展開させる。
私達の周囲は光の結界に包まれた。
しかしながら、ワイバーンの目的は私達ではなかったのである。
ドン!! という大きな衝撃音と共に、足元がぐらりと傾いた。
どうやらワイバーンのブレス攻撃は私達に向けたものではなく、時計塔を狙っていたようだ。
ブレスは最上階のすぐ下を打ち抜き、私達は時計塔の外へ放りだされてしまった。
『ぴい!』
ぶーちゃんはすぐに巨大化し、私と勇者様、メルヴやイッヌを背中に乗せ、空を駆けて行く。
さすが、神様の乗り物である聖猪グリンブルスティだ。
勇者様(本物)、回復師、賢者もメルヴが蔦を伸ばし、体に巻き付けて助けたようだ。
ホッとしたのも束の間のこと。
ワイバーンに乗った竜騎兵達が私達に襲いかかる。
それだけではなく、イーゼンブルク猊下がとんでもない存在を召喚した。
「いでよ、邪悪竜!!」
巨大な魔法陣から、巨大な黒竜が現れる。
絶体絶命であった。




