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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第八章 生きるということ

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黒歴史

 おばば様は遠い目で語る。

 その当時、歴史について描かれた絵画のほとんどが処分されていたようだ。おばば様は血眼になって、各地を探していたらしい。

 当時の国王は聖司祭達に、誰も人目のない場所で処分するように命じていた。

 けれどもほとんどの聖司祭は、売り払ってお金にしたり、他人に譲渡したりしていたらしい。

 やはり、都合が悪い歴史はもみ消していたようだ。


「実は私達、その青年王が何をやらかしたのか気になって、おばば様だったら何か知っているんじゃないかって思い、ここまでやってきたの」

「ふっ……まさか、これまで集めた収集品コレクションをお披露目する日がきたとはな」


 さらに奥に、部屋があるらしい。おばば様が案内してくれる。

 そこには時系列を追うように、国王がやらかした様子を描いた絵画が並べられていた。


「まずこれは、好みの娘達を集めて囲うクズな行いを描いたものだ」


 泣き叫ぶ女性達の中には、婚約者や夫がいる者も含まれていたと言う。


「青年王はとてつもなく好色な人物だったらしい」


 その報復を、次の絵画で受けていた。


「愛人達を囲っていた離宮の存在が王妃にバレ、袋だたきに遭っているところである」


 王妃が手ずから鞭を握り、侍女と結託して青年王をしばいている躍動感あふれる様子が描かれていた。


「見て欲しい。この、情けなく涙し、許しを乞う様子を。人間の愚かさを煮詰めたような一枚で、とても気に入っている」


 二枚目からすでに、胸焼けしそうだった。

 勇者様は汚物を見るような目で、絵画を眺めていた。


「続いては、王妃公認の愛人を囲った青年王が、愛人のおねだりを聞いて、別荘を建てるよう命じる様子だ。ここには村があり、邪魔だったので更地にするように命令したと言う」


 愛人はどうしても、美しい湖があるこの土地に別荘を建てたかったらしい。

 青年王はかわいくおねだりされ、叶えてしまったようだ。


「そして、次の絵画では、生き残った村人から、くわかまで襲撃を受ける青年王の様子が瑞々しく描かれている」


 湖に逃げ込んだが、泳げずに溺れている様子が繊細なタッチで表現されていた。


 その後も、最低最悪としか言えない青年王の愚行の数々が描かれている。

 なんでも重税を強いたり、一部の商人を贔屓したり、娼館を独り占めしたり、市場に並ぶ商品を貴族達に優先的に売るように命じたり、と愚かの極みを尽くしていたようだ。

 皆の不満が集った結果、青年王を殺してしまおう、という話が浮上する。

 民衆は一致団結し、王宮を襲った。

 あっという間に捕らえられた青年王は、城下町にある広場まで引きずられ、処刑されそうになる。

 

「その瞬間、青年王は神に訴えた。国民を上手く管理できなかったので、このような事態になってしまった。管理する術を、神は与えなかったのだと責めたようだ」


 国民を管理する能力が欲しい!

 青年王の首が切り落とされる瞬間に、その願いは叶えられる。

 大きな光が、青年王のもとに舞い降りた。

 神が出現し、すべての罪を許そうと宣言したのである。


「人々は王族の罪を忘れ、青年王は大いなる力を得た」


 それが、人々に祝福スキルを与える能力を得た瞬間だったのだろう。


「以降、青年王の描いた絵画は、別の表現がなされるようになった」


 好みの娘達を問答無用で連れてくる様子は、魔王が娘を攫う様子として描かれる。

 王妃の袋だたき事件も、魔王が国の脅威となる瞬間として表現されていた。

 別荘を建てるために村を更地にしたことも、魔王の襲撃によって滅びた村とされてしまう。

 村人に仕返しされた件も、モンスターの襲撃として描かれていたようだ。


「このように、青年王は自らの罪のすべてを魔王のせいにするという、責任転嫁を覚えたのだ」


 なんでもその青年王は六十七歳まで生きたという。


「最期は腹上死という、幸せな死にざまだったらしい」


 すべてを語り終えたおばば様は、満足げな様子で頷いていた。


「なんというか、気持ち悪い歴史だわ」


 その言葉に、勇者様(本物)は深々と頷く。


「愚かの一言しかでてこない」


 勇者様は顔を背け、見たくもない様子だった。


「このすばらしい絵画を、私しか見ることができずに、もったいないと思っていたのだ。皆に紹介できて、よかったと思っている」

「おばば様……」


 まさか、王家の黒歴史を丁寧に保管してくれた人がいたなんて。

 これで勝てる、と思ってしまった。


「ただ、問題はこれをどうやって知らしめるか、ですね」


 文章にしても迫力に欠ける。これを見てもらったほうが、手っ取り早いだろう。


「あの、おばば様、この絵を、少しお借りすることはできますか?」


 大切な収集品なので、ダメもとで聞いてみる。


「どうするのだ?」

「いえ、たくさんの人達に見てもらえたらいいな、と思っているのですが」

「もちろん、かまわないぞ」


 あっさり許可が下りた。

 問題はこれらの絵画の見せ方である。


「いい案があるぞ」


 勇者様はそう言って、あくどい微笑みを浮かべていた。

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