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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第八章 生きるということ

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おばば様に話を聞こう!

 村長の見送りを受けながら、おばば様の家に向かう。


「そういえば私、三十年くらいおばば様に会ってないかも」


 一ヶ月くらい会っていないと言わんばかりの声色だった。

 千年以上生きるハイエルフにとって数十年もの間会わなくとも、ここ最近会っていないくらい感覚なのかもしれない。


 案内の道のりは思いがけない方向へと進んでいく。

 村を抜け、獣しか歩かないような道を案内される。

 行き着いたのは、思いがけない場所だった。


「ここがおばば様の家よ」


 そう言って案内されたのは、熊が冬眠に選びそうな洞穴である。


「あの、中に入ったら野生動物とこんにちは状態になりませんよね?」

「平気よ。この辺りはハイエルフの縄張り内だから、野生動物は近付いてこないわ」


 狩猟民族でもあるハイエルフは、狩りの職人プロだ。それについて、野生動物達も理解しているのだろう。

 普段、この辺りではウサギの一匹すら見かけないと言う。


「とは言っても、昔ほど肉ばかりを食べて暮らしているわけではないのよ。百歳くらいの若いハイエルフの娘は、狩猟肉をまずいって言って食べないの」


 ハイエルフの常識では、百歳程度では若い娘に該当するようだ。

 ならば、二十歳に満たない私なんかは赤ちゃんくらいに思われているのかもしれない。

 なんてことはさて措いて。


 賢者は洞穴の外から声をかける。


「おばば様! 入るわよ!」


 返事はないが、ずんずんと中へ入っていく。

 賢者は光球を作り、洞穴の中を照らしてくれる。

 壁を伝いながら歩いていると思いきや、内部にある結界をひとつひとつ解いているようだ。


「侵入者避けが仕掛けてあるの。何も知らないで入ったら、串刺しか毒矢が飛んでくるのよ」


 なんとも恐ろしい、物理的結界である。

 おばば様は一年のほとんどを寝て過ごすというので、用心に越したことはないのだろう。


 しばらく進むと、行き止まりになる。


「これも仕掛けよ」


 そう言いながら賢者が石壁に触れると、魔法陣が浮かび上がった。

 呪文を唱えると、ゴゴゴゴ……と音を立てて石壁が開いていく。

 その先には祭壇のようなものがあり、その前に布団が敷かれていた。

 部屋自体は洞穴をそのまま使っている、という感じだった。内部は改装・改築リフォームなどはされていない。

 そんな無骨とも言える部屋で寝そべる人物こそ、おばば様なのだろう。


「おばば様、私よ」


 賢者が声をかけたものの、返事はない。

 代わりにスースーという気持ちよさそうな寝息が聞こえるばかりだった。


「おばば様、起きて! 話を聞きたいのだけれど」

「スー……スー……」


 おばば様は熟睡しているようである。

 

「ねえ、起きて!!」


 賢者はおばば様のすぐ傍に座り込み、遠慮なく体をバシバシ叩いている。

 けれども寝返りを打って、「ううん」とうなるばかりであった。


「こうなったら最終手段よ。勇者と勇者、おばば様の傍に座って。早く!!」


 急かされた勇者達は、素直に賢者の命令に従う。

 賢者はすーーっと息を吸い込み、これでもかという大きな声を発した。


「おばば様、大変よ!! とんでもなくかっこいい人間が二名、おばば様を訪ねてやってきたわ!!」 

「ハッ!?」


 おばば様の瞼がカッと開き、勢いよく起き上がる。


「どこぞ!? どこに美しき人間がおるのだ!?」


 おばば様と呼ばれていたが、それはそれは美しいハイエルフだった。

 なんでもハイエルフの成長は魔力の全盛期に止まるらしい。

 おばば様は娘盛りのときにもっとも強い魔力を手にしたのだろう。


「おばば様、このふたりは世にも珍しい、美しい双子の人間よ」

「おお、なんという……!!」


 おばば様は美しい人間が好きという変わり者らしい。

 ふたりの勇者を見るなり、「これは、美しい!!」と叫んだ。


 これで話が聞ける、と思ったのだが、おばば様はすぐに寝入ってしまう。

 賢者は困ったように「ご高齢だから」と言った。


「きっとたくさん眠らないと、活動できないのよ」

「体力と気力がないというわけですか」


 そう返したあと、あることに気付いた。


「あの、このメルヴ茶とメルヴ草餅を食べていただいたら、目が覚めるのではないですか!?」


 賢者はハッとなる。すぐに試そう、という話になった。

 

「ねえおばば様、お茶を飲んで。メルヴ茶っていう、いいお茶なの」


 おばば様の状態を起こし、メルヴ茶を飲ませる。

 口にした瞬間、おばば様の目が開いた。


「なんだこれは! うまいぞ!」

「草餅も食べて」

「いただこう」


 メルヴ茶を飲み、メルヴ草餅を食べたおばば様は、シャッキリ目が覚めたようだ。

 さすが、メルヴ特製のお茶とお菓子である。


「さっそくだけれどおばば様、聞きたい話があるの」

「おお、お前だったか。久しいな、百年ぶりか?」

「そんなに経っていないわ。それよりも、質問してもいいかしら?」

「なんだ?」


 賢者は居住まいを正し、国の歴史について問いかけた。


「おばば様、この国の創世からの歴史についてご存じかしら?」

「もちろん、知っているぞ!」


 おばば様は眼鏡をかけて立ち上がった。

 紐で腰回りを結んだ貫頭衣姿のまま、案内を始める。

 祭壇の向こう側には部屋が隠されていた。おばば様が呪文を唱えると、扉が開く。

 そこは教会のような、大理石の床と壁、天井がある部屋だった。

 いくつも本棚があり、隙間なく本が詰め込まれている。

 それだけでなく、壁側には巨大な絵画が飾られていた。


「こ、これは――!?」


 斧を振り上げる処刑人と、泣いて許しを乞う青年の姿が描かれている。


「あれが、この世でもっとも美しいとされる、〝処刑ざまあされる若き国王の命乞い〟だ」


 おばば様は恍惚の表情で絵画を見上げていた。


「不憫な美形がこの世界でもっとも美しいものなのだ!」


 その不憫な美形がどのようにして処刑されそうになったのか、教えてほしいわけである。

 どうやらおばば様は、私達が望む情報を握っているようだ。


 なんでもおばば様が美しい人間に傾倒するようになったのは、二千年も前らしい。

 ケガをし、エルフの森へ迷い込んだ聖司祭を救ったことがきっかけだったようだ。

 聖司祭はお礼として、おばば様に王族の絵画を贈った。

 それは、革命が起きて逃げまとう青年王が描かれたものだったのだ。


「その聖司祭は絵画を地方で処分するように言われていたらしい」


 王家の黒歴史が描かれたものだったので、残しておくわけにはいかなかったのだろう。


「見れば見るほど魅力的な絵画で、私はその青年王に恋をしてしまったのだ」


 それからというもの、おばば様は青年王がどうなったか知りたくてたまらなくなったらしい。

 もちろん、絵画に描かれた青年王はこの世にいないであろうことは承知の上である。


「どんな悲惨な死を遂げたのか、考えれば考えるほど、興奮してな……」


 妄想から作った小説が、五百冊ほどあるらしい。

 本棚に収められていた本は、自費出版の本だったようだ。


「私は人里に下りては、絵画を集めた」


 モンスターを狩って報酬金を得たり、貴重な薬を煎じたり、とハイエルフであることを最大限に生かし、お金を稼いでいたらしい。

 人里に伝わっている変わり者ハイエルフの噂のほとんどは、おばば様のことだという。

 その影響で見世物のようになった賢者は、遠い目をしていた。


 おばば様は当時の様子を、淡々とした様子で語る。


「青年王について我を失ったように調べる私を、村人達は恐怖した。それがいつしか、人間への恐怖に変わってしまったことについては、申し訳ないと思っている」


 どうやらハイエルフの人間嫌いの原因は、おばば様にあったようだ。

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