解決への糸口
「王家が恐れる存在とは、あれだ!」
勇者様が指差したのは、広場に集まり、手配書を眺め息巻く人々である。
「えーっと、つまり、どういうことなのですか?」
「一致団結した民衆だ。暴徒と化して王家を糾弾したら、それは大きな脅威となるだろう」
「ああ、なるほど。そういうわけだったのですね」
そういえば以前観劇した舞台の中でも、悪政を繰り返していた国王が国民の怒りを買い、蜂起した民衆の襲撃を受けているシーンがあった。
そのあとに行った神話時代の絵画展にも、民衆に処刑されそうになっている王族の姿がモチーフになった絵があったのを思い出す。
そのとき光を得て、危機から脱したような描写がなされていた。
光というのは、才能を国民に与える能力のことだろう。
しっかり見ていたのに、そのときはまったく気付いていなかったのだ。
「おそらく大勢の者達がいっきに暴動を起こしたら、いくら王族といえど、手がつけられなくなるのだろう」
「襲撃されたからといって、モンスターのように次々と殺していったら、非難が集まりますものね」
鎮圧が難しいからこそ、いつの時代も王家は民衆に討ち勝つことができず、危機に瀕してしまうのだろう。
国民あっての国と王家なので、最大の弱点とも言える。
「そういうわけだったのですね」
「ああ。イーゼンブルク猊下の醜聞と王族が魔王や才能を管理していた点について暴露したら、民衆も黙ってはいないだろう」
非難という名の暴力が王族に襲いかかるわけだ。
それは最強の剣とも言えるだろう。
それにしても、ヒントをくれた公爵には感謝の気持ちしかないが、もっとわかりやすく伝えてくれてもいいのではないか、と思ってしまった。
まあ、暴徒と化した民衆が弱点だと気付いたとしても、公爵から話を聞いた時点では民衆を焚きつける材料なんてなかったのだが。
「問題はどうやって民衆を焚きつけるか、という点ですね」
「もっとも効率的なのは、号外を配ることなのだが」
現在、私達の手元に証拠と呼べるものはない。
イーゼンブルク猊下から話を聞いた、というだけでは新聞社も取り合ってくれないだろう。
「まずはこの国の正しい歴史から調べていきたいところだが、都合が悪い情報は消されているだろうな」
「でしょうね」
王家の者達が才能を与える能力を得る前に、いったい何をしでかしたのか。それについて、どんな古い歴史書を調べても見つからないだろう。
「きっとどこかに記録は残っているのだろうが」
「なんか、古い洞窟とかに壁画として描かれてそうですよね」
ぶーちゃんに何か知っているか問いかけたところ、『ピイ! ピイ!』と何かを訴えるように鳴く。
ぶーちゃんの言っていることの詳細を読み取ることは不可能なのだが、勇者様は正しく理解したようだ。
「なるほど。そういうことか!」
「何かわかったのですか?」
「ああ。長寿のハイエルフならば、何か知っているだろうとぶーちゃんは言っている」
そうだ!
千年以上生きるとされている長命族であるハイエルフだったら、何かしらの情報を知っているはず。
勇者様のところの賢者ならば、この国の正しい歴史について知っているかもしれない。
「ハイエルフは人間嫌いなのは、理由があるはずなんです!」
もしかしたら、その原因がこの国の歴史に絡んでいる可能性もあるのだ。
「しかし、問題はどこに行けば賢者と再会できるか、だな」
それを聞いてハッとなる。
「勇者様! 何かあったときは、この転移の魔法巻物を使って落ち合おう、と話していたんです」
賢者お手製の魔法巻物を受け取っていたのを今になって思い出した。
「これの行き先はどこなんだ?」
「世界樹がある大森林です」
世界樹の周囲に回復師が新たなに結界を張り直したので、邪悪な心を持つ者が近付けなくなっているらしい。
現状、この世界でもっとも安全な場所かもしれない。
「本当にそこにいるのか?」
「疑わないでください」
勇者様は変なところで疑い深くなっているので困る。
どう説得しようか考えているところに、地上から叫び声が聞こえた。
「いたぞ!」
「屋根にいる!」
「捕まえろ!」
どうやら潜伏しているのがバレてしまったようだ。
屋根に梯子がかけられ、登ってこようとしている。
「勇者様、世界樹のもとに行きましょう」
「わかったから、早く魔法巻物を破れ」
私達を捕まえようとする男性の顔がひょっこり覗いた瞬間、転移魔法が発動する。
一瞬にして、世界樹のもとまで移動した。
もしかしたら、勇者様(本物)一行はまだ来ていないかもしれない。
そう思っていたが――。
『粗茶ダヨ~』
『ツマラナイ、オ菓子デスが~』
『座布団モ、ドウゾ~』
おもてなしをするメルヴと、勇者様(本物)一行の姿を発見する。
彼女達は私と勇者様を見るなり、「あ!」と声をあげていた。
「えーっと」
いったい何から目を付けたらいいものか。情報量が多すぎた。
鞄の中から、メルヴが飛びだす。
『ミンナ~~!』
メルヴが三頭のメルヴのもとに走っていく。
それに気付いたメルヴ達は、ハッとなる。
皆、駆け寄ってぎゅっと抱き合っていた。
『ヨカッタ~、無事、生マレタンダネエ』
『ソウダヨ』
『メルヴ、生マレタヨ』
『元気二シテタ?』
小さな大根がワサワサ交流する様子を見ていると、なんだかほっこり癒やされる。
世界樹のもとには三頭のメルヴが生まれたようだ。
そんなことはさておき――勇者様(本物)と再会を果たした。
「魔法使い殿、勇者殿、無事だったのだな」
「ええ、おかげさまで」
勇者様(本物)一行はすぐにここへ転移してきたらしい。
メルヴ達から歓迎を受けたのちに、お茶をご馳走されたようだ。
ちなみに、メルヴ達が運んできたのは、メルヴ茶とメルヴ草餅、世界樹の枯れ草で作った座布団らしい。
メルヴ達はそれらを私と勇者様、ぶーちゃんの分を運んできてくれた。




