表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第八章 生きるということ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/90

勇者と勇者、そして魔王

「ただ、そなた達双子を引き離すというのは、さすがに心が痛んだぞ」


 イーゼンブルク猊下は勇者様と勇者様(本物)を交互に見ながら打ち明ける。

 どうやらふたりは双子だったようだ。


「私達は、双子だった!?」


 勇者様(本物)はそれとなく気付いていたのか。勇者様ほど驚いていない。


「双子であれば、なぜ、私達は引き離されたのですか?」


 勇者様は信じがたい、という表情を浮かべながらも、イーゼンブルク猊下に疑問を投げかける。


「極めて単純な話だ。我が国にとって双子という存在は、もともとひとつだった魂がふたつにわかれて生まれたと言われている。かつて王族にも双子が生まれたが、王位継承権を奪い合う内戦が頻発し、以降、不吉な存在だと言われていた」


 王家では双子が生まれたら、片方を殺すことが通例だったらしい。

 けれどもそれに待ったをかけたのが、イーゼンブルク猊下だったと言う。


「この時代に双子が生まれたのは、〝運命〟だと思った。ふたりとも生かし、勇者の資格である勇敢なる者バリアントを与えようと決めたわけだ」


 ただ、双子が大きくなるまで、火事や事故などの不測の死を防がないといけない。

 そのため、片方は公爵家の嫡男として育て、もう片方は侍女に託し辺境の村で育てるように命じたと言う。


「本来ならば、公爵家の嫡男のほうを、本物の勇者にしようとした。しかしながら、公爵夫人が跡取りを失いたくないと言ったので、補欠の勇者としたのだ」


 本物の勇者は厳しい環境の中で、強く逞しく育ってほしい。そんな勝手な思いがあったようだ。


「イーゼンブルク猊下、補欠の勇者とは、なんですか? 初めて耳にしたのですが」

「ああ、そなたはそれも知らなかったのだな。補欠の勇者というのは、本物の勇者が死んだときに、成り代わるような予備スペアだ」


 ああ、ついに勇者様に真実を告げてしまったようだ。

 勇者様は驚きと失望が混ざったような表情で、イーゼンブルク猊下を見つめている。


「言っておくが、自らの手元で育てる子を補欠の勇者にと望むのも親の愛だぞ。先代や先々代の勇者は、魔王に辿り着く前に死んでいるからな」


 本物の勇者のほうを使い捨てるような感覚だったのだろう、と勇者様に慰めにもならない言葉を告げる。


 本物の勇者様は震える声で、イーゼンブルク猊下に問いかけた。


「では、私の母は、本当の母ではなかったのですか?」

「ああ、そうだ。あの女は公爵夫人の元侍女で、北の大地に体が合わなかったのだろうな。死んでしまったという話は聞いている。王都育ちには厳しい環境だったのかもしれん」


 もともと貴族のご令嬢だった侍女に、北の大地の厳しい寒さは辛いものだったのだろう。

 衝撃の事実の連続に、勇者様(本物)もさすがに落ち込んでいる様子だった。


 黙りこんでしまった勇者様達の代わりに、賢者が疑問を口にする。


「ねえ、さっきから、魔王の出現がわかっている前提で勇者を立てているように聞こえるのだけれど、気のせいかしら?」

「ふ、気付いたか。さすが、ハイエルフだ」


 イーゼンブルク猊下は玉座に置かれた魔石を手で示しながら宣言する。


「これが、人々が魔王と恐れる物だ!」


 どこをどう見ても、それはただの魔石である。

 ただ、世界樹並みの魔力を秘めている点だけが異質か。


「それが魔王ですって!? どういうことなの!?」

「どうもこうも、魔王なんぞ最初から存在しない」


 なんとなくそうではないのか、と思っているところだった。

 それでも、直接真実を聞くと信じがたい気持ちになる。


「魔王という存在は、我々王族が作りだした虚像に過ぎない」


 その目的は、国単位の大がかりな社会的基盤施設インフラストラクチャーの整備だと言う。


「たとえば、村をまるまるひとつ潰して潅漑ダムを作ったり、悪徳な商売をする商団をモンスターに襲わせたり、治安が悪い下町を火事で焼いたり――国を作る上で不必要なものを魔王の名のもとに排除しているのだ」


 そのすべてを王族が裏で操作し、魔王のせいにしているようだ。

 モンスターも地下の研究所で作られた存在だったようだ。

 野生動物に魔力を与え、改良していたらしい。

 千里眼は人の手が加わったものの情報しか見破れない。モンスターは人の手で作られた存在だったので、千里眼で情報を読み取ることができたのだ。

 どうしてそれに気付かなかったのだろうか。

 イーゼンブルク猊下は自慢げな様子で、話を続けている。


「何、庭師が草木を手入れしないと、好き勝手に伸びて荒れるのと同じだ。国も定期的に手入れしないと、荒んでしまう」


 さらに魔王という脅威があれば、国民の心はひとつになる。


「少々王家の者達が火遊びをしても、そこに目がいかなくなるというわけだ」


 人間が魔王という災いを操作するなんて、酷い話である。

 けれどもこの国は長年、そうやって管理されてきたようだ。


 勇者様や勇者様(本物)、賢者や回復師は顔を伏せているので、どんな気持ちでいるのかわからない。

 私は胃の辺りがモヤモヤして、今にも吐いてしまいそうだ。


 沈黙に支配されていたものの、勇者様が質問を投げかける。


「……空っぽエンプティの者達を集めた施設は、なぜ造った?」

「ああ、あの施設は、社会不適合者を集めるのにうってつけだったのだ」


 なんでも地位や実力はあれど、論理的思考が大きくズレている者達を閉じ込めておくための施設でもあったらしい。


「実験と称して人を傷付ける行為に喜びを感じるような者達ばかりだった。最初は真面目に研究をしている者もいたようだが、いつの間にか誰も手を付けなくなっていたらしい。まあ、私にとってはどうでもよい話だったのだが」

「酷く傷付けられていた空っぽエンプティの者達がいることについては、なんとも思わなかったのか?」


 勇者様の指摘も、イーゼンブルク猊下は顔色ひとつ変えずに答えた。


「あの才能ギフトを授けたのに習得できなかった、役立たずどもを秘密裏に処分できたのだ。それにいかれた職員を野放しにしていたら、各地で犯罪が多発していたことだろう。国民は私に感謝してほしいくらいだ」

「ああ、なるほど。そういうわけだったのか」


 腑に落ちたらしく、勇者様は顔を上げる。

 その表情は、干したエイにそっくりだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ