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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第八章 生きるということ

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80/90

才能(ギフト)

 勇者様は扉を蹴破る。

 悪役のようなムーブは最後までぶれないのだろう。

 ついに、魔王と対峙するわけである。

 ドクン、ドクンと胸が激しく脈打っていた。

 

 先に勇者様が入り、勇者様(本物)が続く。

 ぶーちゃん、賢者、回復師のあとに私も中へと足を踏み入れる。


「なんだ、これは――?」


 勇者様は呆気にとられたような声をあげる。

 勇者様(本物)も、困惑した様子が背中から伝わった。


「なんなのよ、これ」

「いったいどういうことなの?」


 皆、口々に疑問を口にしていた。

 彼らは何を目にしたと言うのか。

 間を分け入るようにして覗き込む。


 玉座のような椅子には――誰も座っていなかった。

 代わりに、大きな魔石が置かれている。


 魔王の姿はどこにもない。


「ここは魔王の居城ではないのか?」

「そんなはずないわ。ここから強力なモンスター達の反応と、魔王の魔力を感じたんだから。今もその玉座のほうから、とてつもない魔力反応があるのに」


 勇者様(本物)がものすごく言いにくそうな表情で、賢者に指摘した。


「その、なんだ。賢者よ、強い魔力反応というのは、あの魔石から発せられたものではないのか?」

「そんなわけ――!!」


 賢者は魔石を睨むように凝視したあと、消え入りそうな声で「あ!」と言って口元を押さえる。


「どういうことなの? こんな多くの魔力を持つ魔石なんて、存在しないはずなのに」

「それはそうだな」


 玉座には魔法陣が描かれており、魔石に魔力が集まるような術式が展開されているらしい。


「これだけの魔力を有していたら、これは魔石どころじゃないわ。ちょっとした世界樹みたいなものよ」

「世界樹だと?」


 勇者様は訝しげな声で繰り返し、私のもとへズンズン接近する。

 勝手に鞄の中を探り、メルヴの葉っぱの部分をむんずと掴む。


「勇者様、そんなに乱暴に持たないでください」


 そう訴えると、勇者様は私の胸にメルヴを押しつけ、私の腕を掴んで玉座へ近付く。


「おい、メルヴよ。この魔石の中に、世界樹の魔力を感じるか?」


 メルヴはしばし小首を傾げていたが、すぐにハッとなる。


『ウン! 世界樹ノ魔力ヲ、感ジルヨ!』


 ということは、世界樹から奪った魔力を、誰かがこの魔石の中に封じたことになる。


「いったい誰なんでしょうか?」

「それは――」


 勇者様が言いかけた瞬間、パチパチパチと手拍子が聞こえた。

 音がしたほうを振り向くと、赤い法衣に身を包むシルエットが浮かび上がってきた。

 年頃は五十代半ばくらいだろうか。

 眼鏡をかけた、威厳をびしばし感じる男性である。

 勇者様は目を見開き、その人物の名を口にした。


「――イーゼンブルク猊下!?」

「さよう。見事だ、勇者よ。ここに辿り着くとは」


 なぜ、聖都の枢機卿がこんなところにいるのか。

 理解が追いつかず、混乱状態になる。


 勇者様(本物)が一歩前にでて、こうべを垂れた。


「イーゼンブルク猊下、はじめてお目にかかる。私は勇者のひとり」

「ほう、そなたがひとり目の勇者か」


 ひとり目の勇者という言葉に、勇者様は引っかかったようだ。

 すぐさま疑問を投げかける。


「イーゼンブルク猊下、私は幼少期に、勇者の適正があるという神託を受けた者です。どうしてふたりも勇者が存在するのでしょうか?」


 もっともな疑問である。

 それは神のみぞ知ることだと思っていたが――。


「それは簡単な話だ。ここ何代か前の無能な勇者が魔王討伐の途中で命を落とし、我々を落胆させたからだよ」


 イーゼンブルク猊下はまるで、自分が神のように語る。


「どちらか片方の勇者が死んでも問題ないように、ふたりの勇者を立てていたわけだ」


 初めて耳にする真実に、勇者様は驚いているようだった。


「それも、神のご意思だったのですか?」

「いいや、神の意向ではない。我々王族が話し合い、決めたことだ」

「なっ――!?」


 才能ギフトは神より授かりし祝福である。

 それをなぜ、王家の意思で行っているように語るのか。


「どうだっただろうか? 十九年間、勇者を務めた気分は? さぞかし気持ちがよかっただろう? そなたは特別な子だから、勇者にしたのだ」

「イーゼンブルク猊下、意味がわかりません。どうして、そのように才能ギフトを与える行為を我が物のように語るのでしょうか?」

才能ギフトを捧げる行為は、我が物だからだよ」


 後頭部を金槌で殴られたような衝撃に襲われる。

 才能ギフトを与える能力を、イーゼンブルク猊下が所持していると?


「いったいなぜ?」

「私だけではない。王家に生まれた中で優秀な者達は、その能力を有しているのだ」


 その歴史について、イーゼンブルク猊下が語り始める。


「もともと、才能ギフトを捧げるのは神の仕事だった。けれどもある年、革命が起こり、王族は追い詰められてしまう。そのさいに、王族は神に祈った」


 民衆を掌握し、彼らが反乱を起こさないようにする力がほしい――!


 神は王族の願いを叶え、才能ギフトを与える力を授けた。


「それからというもの、王家は国民ひとりひとりに才能ギフトを与えながら、正しく管理していたのだ」


 衝撃の事実に、誰もが言葉を失っていた。

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