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リーフ村へ!

 熱い湯で一日の汚れを落とし、フカフカのベッドで休んだ私達は、翌日、リーフ村へ旅立つ。

 腐死者退治は憂鬱ゆううつだが、勇者様が引き受けてしまったのだ。

 出発はギルド長が街の外まで見送りに来てくれた。


「勇者様、頼みますぞ!」

「ああ、任せてくれ!」

 

 ギルド長は私達の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 街の外に出たので、イッヌは首輪と鎖から解放される。小さな足を必死にシャカシャカ動かし、私達に付いてきていた。


「昨晩はイッヌと一緒に入浴し、同じ寝台で寝たぞ。温かくて、ぐっすり眠れた」

「さようでございましたか」


 あの勇者様が世話を焼き、隣で眠ることを許可するなんて。イッヌは愛嬌者の才能ギフトをしっかり発揮しているらしい。


 イッヌが普通のフェンリルではないと気付いたとき、勇者様はどんな反応を示すのか。

 溺愛っぷりを見るからに、きっと「それも個性だ!」なんて言い出しそうだ。

 イッヌの愛嬌があれば、捨て犬になることはないだろう。たぶん。


 ここからリーフ村まで徒歩で三時間ほど。馬車は出ているようだが、一週間に一度くらいの頻度らしい。

 人口は百人ほどの小さな村で、村人が減り続けているという閉鎖的な場所だという。


 歩いていると、だんだんと雲がかかっていく。

 先ほどまで天気がよかったのに、どんどん空が暗くなっていった。

 日中の明るい中ならば、腐死者と遭遇しても恐ろしくない。なんて考えていたが、曇天の不気味な雰囲気の中での散策になりそうだ。

 

『きゅん!』


 急にイッヌが立ち止まり、全身の毛を逆立たせた。

 次の瞬間、モンスターが飛び出してくる。

 鋭い牙を持つ狼型のモンスター、フォレスト・ウルフだ。


 意外にも勇敢なところがあるイッヌは、フォレスト・ウルフに飛びかかった。

 しかしながら、太い足で吹き飛ばされてしまう。


『きゅうううん!!』

「イッヌーーーーー!!」


 勇者様は倒れて動かなくなるイッヌの前に膝を突き、私が購入した回復丸薬をしこたま食べさせる。

 だが、そんなことをしている場合ではないだろう。

 フォレスト・ウルフの爪先が勇者様の眼前に迫る。


「勇者様、前にフォレスト・ウルフが!」

「わかっている!」


 勇者様は金ぴかの剣を引き抜き、フォレスト・ウルフに斬りかかった。


「野犬め! よくも私の大事なイッヌを傷付けたな!」


 目にも留まらぬ素早い一撃をフォレスト・ウルフに食らわせる。

 首筋を傷付けられたフォレスト・ウルフは、血を噴水のように勢いよく噴き出した。

 フォレスト・ウルフが怯んだ隙に、勇者様は首をはね飛ばした。


『ギャウン!!』


 勇者様は連続攻撃で、フォレスト・ウルフを倒してしまった。

 このように見事な戦いっぷりを見せたのは初めてかもしれない。

 イッヌを守りたいという思いが、勇者様を強くしたのか。

 これは異世界人がこの国に伝えた新語、〝姫プレイ〟というやつなのだろう。

 通常は美しい容姿を持つ者が屈強な仲間に守ってもらい、自らはほとんど戦わない状態で旅を続けることを示す言葉のようだが……。

 何はともあれ、ひとまず回復師がいない戦闘で初めて、私達は勝利を収めたのだった。


「イッヌ、お前を害した野犬を倒したぞ!」

『きゅううん! きゅうううううん!』


 イッヌは尻尾をぶんぶん振って、勇者様にすり寄っていく。

 回復丸薬をしこたま食べたおかげで、イッヌはとても元気だった。 


 イッヌの存在は勇者様にとっての癒やしでしかないと思っていたのだが、思わぬ活躍をしてくれた。

 勇者様は腐っていても、勇敢なる者バリアント唯一の才能ユニーク・ギフトを持つ者。真剣に戦ったらそれなりに強いのだろう。


 それから何度かモンスターに遭遇したものの、イッヌが戦おうとしてやられ、怒った勇者様がモンスターを倒す、という流れの繰り返しだった。

 今のところ一度も死なずに済んでいるのだが、回復丸薬はすべてイッヌに与えてしまったので、なくなってしまった。

 リーフ村で買えばいいだけの話なのだが、いちいち過剰に与えすぎなのだ。

 イッヌは多少ダメージを受けるくらい、なんてことないはずなのだが。

 過保護な飼い主と化している勇者様は、私の言葉なんて聞く耳など持たないのである。


 やっとのことで、リーフ村に到着した。

 鬱蒼うっそうとした森の中心にあるからか、先ほどよりも薄暗い。

 どんよりとした雰囲気の村で、すれ違う村人の顔には覇気はきがなかった。

 すぐ近くを通り過ぎても、一瞥いちべつすらしない。よそ者は徹底的に無視するのだろうか?

 勇者様はギルド長から村長への紹介状を受け取っていたらしい。依頼主も村長だと言う。


「村長の家はどこにあるのか……」 

「もっとも立派な建物が村長の家だろう」


 藁葺き屋根の民家が並ぶ中で、立派な煉瓦の家があった。

 そこが村長の家だろうと思い、扉をコンコンと叩いてみる。


「おい、魔法使い。扉を二回叩くのは手洗いだけだぞ」

「貴族の礼儀なんて把握しておりませんので」


 これからも私は扉はコンコン叩くだろう。

 そんなことはさておき、反応がなかったのでもう一度叩いてみる。

 

「村長はいないのか?」

「さあ?」


 なんて会話をしていたら、背後より声がかかる。


「も、もしや、ギルドから派遣された方々ですかな?」


 気配がまったくなかったので、驚いてしまう。

 振り返った先にいたのは、白髪頭に髭を生やした老人だった。


「もしや、貴殿がリーフ村の村長か?」

「ええ」


 ここは村長の家ではなく、リーフ村の風俗について研究している学者の家だと言う。


「学者先生は昼間に寝て、夜に研究されているので、今は眠っているのでしょう」

「変わっているな」


 村長の家は別にあった。他の民家と変わらない、ささやかな佇まいである。

 そこで、腐死者について話を聞くこととなった。


「腐死者が現れるようになったのは、三ヶ月ほど前でしょうか」


 夜になると活動を始め、朝になると土に潜っていくという。

 冒険者を雇い、土を掘り返して討伐するように頼んでいたようだが、昼間は見つけられないらしい。


「夜に討伐を依頼したのですが、帰らぬ人達となってしまい……」


 すでに村人も数十名犠牲になっているようで、困り果てていると言う。

 昼間に討伐したら恐ろしくない、なんて考えていたものの、夜に倒すしかないようだ。


「どうか、どうか、お助けください!!」


 平伏する村長を前に、勇者様は「任せろ」と言ったのだった。 

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