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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第七章 敵は誰なのか?

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79/90

魔法使いの本当の才能

 もう涙なんて涸れ果てていたと思っていたのに、恥ずかしいくらい泣いてしまう。

 勇者様(本物)は私を抱きしめ、赤子をあやすように背中を撫でてくれた。


「私、私、ずっと、嘘を吐いて生きてきたんです!」

「その嘘は、魔法使い殿を守るための嘘だったんだろう?」


 そうだ。

 私は何よりも自分自身が大事で、誰かに利用されることを嫌った。

 本当に死を望んでいるのならば、利用されてでも目的を遂行できるはずなのに。


 死を望んでいるというのは思い込みで、私はきっと誰よりも生きたかったのだ。


 もう隠し事なんて止めよう。そう思って、私の才能ギフトについて打ち明ける。


「あの、私はこれまで、大噴火イラプションしか使えないと言っていたのですが、本当は別の才能ギフトを持っていまして……」


 因果応報アンチ・カルマについて説明すると、皆驚いた顔で私の話を聞いていた。


「もともと私は才能ギフトを持たない空っぽエンプティだったんです。けれどもドクター・セルジュの施設で才能ギフトを人工的に付与され、因果応報アンチ・カルマを得ました」


 そこから私はこの才能ギフトを使い、魔王を倒す計画を立てた。


「一緒に旅を続けてきた勇者様ならば、私を殺してくれると思っていたので」

「君は、なんてバカな計画を考えていたんだ!」

「ええ……自分でもそう思います」


 そうでもしない限り、私は役立たず者なのだと信じて疑わなかったのだ。

 しばし考え事をしていたような様子を見せていた回復師が、挙手をしたのちに物申す。


「そういえば、施設について報じられていた新聞では、才能ギフトを付与する実験は行われておらず、暴行だけが目的だった、と書かれていたような気がしたんだけれど」


 回復師に指摘され、そういえばそんな話を聞いていたな、と思い出す。


「それがどうかしたのですか?」

才能ギフトを付与していないのであれば、魔法使いさんの才能ギフトはもともと持っていたものじゃないの?」

「いいえ、ありえません」


 物心ついたことから、私は空っぽエンプティだった。

 それに、私が生まれたときに両親が教会に足を運び、聖司祭から才能ギフトを聞きだしている。

 もしも因果応報アンチ・カルマ才能ギフトを持っていたら、事前に知らされているだろう。


「魔法使いさん、私、魔法学校時代に、才能ギフトについての研究をしていたんだけれど――」


 才能ギフトというのは、神様より与えられる能力である。

 回復師の研究によると、例外があったようだ。


「それ以外に、生まれたときから独自の才能を持つ人を、〝天賦の才能ギフテッド〟と呼んでいたみたいなんだ」


 天賦の才能ギフテッドは神より与えられた能力でないため、聖司祭が見抜けるわけがないものだと言う。


「たぶん、この世に存在するすべての空っぽエンプティの人達は、天賦の才能ギフテッドの持ち主なんだよ」


 この世に役立たずなんていない。皆、自分の可能性に気付いていないだけなんだ、と回復師は言ってくれる。


 そんなことがありうるのだろうか?

 因果応報アンチ・カルマはもともと私が持って生まれたものだったなんて。


「まさか、魔法使いさんが才能ギフトのことで悩んでいたなんて、まったく気づいてなかった。知っていたら、いろいろお話しできたのに」

「ええ……」


 あのときの私は死ぬ覚悟でいたし、回復師とも別れるつもりだった。

 心を開かないようにしていたのだろう。


 勇者様(本物)はまっすぐ私を見つめ、提案してくれる。


「自らの命と引き換えに、魔王を倒そうだなんて考えないでほしい。奇しくも、勇者はふたりもいる。力を合わせて、一緒に倒そう」


 力強い勇者様(本物)の言葉に、こくんと頷く。

 私はあっさりと、ずっと胸に抱いていた願望を手放した。


「今さら死を恐ろしく思うなんて、愚かとしか言いようがないのですが」

「愚かではない。私は魔法使い殿が楽しく生きることができるよう、手を貸そう」

「ありがとうございます」


 勇者様(本物)はなんていい人なのか。

 私みたいなろくでなしに優しくしてくれるなんて。

 回復師や賢者も、大丈夫だと声をかけてくれた。

 唯一、勇者様だけが静かに私へ視線を向けるばかりだった。

 無表情だったので、何を思っているかはわからない。


「あの、勇者様……これまで利用しようと考えていて、すみませんでした」

「そんなバカげたことを考えていたなんて、まったく気付かなかった」

「本当に申し訳ないです」


 頭を深々と下げて謝罪する。

 無言だったので、許してもらえたのか。

 顔を上げると、勇者様は腕組みをし、干したエイのような表情で私を見下ろしていた。

 怒っている。

 勇者様はわかりやすいくらい、私に怒っていた。


「魔法使いめ! この私を使って死のうと考えていたなど、絶対に許さんぞ!」

「どうすれば許してもらえるのですか?」

「すべてが解決したら、私がいいと言うまで、実家の庭の草むしりをしてもらおうか!」


 それは、魔王を倒したあとも居場所を提供してくれる、ということなのか。

 勇者様は他の空っぽエンプティの者達と同じように、救いの手を差し伸べてくれた。

 それは彼なりの優しさなのだろう。

 初めて勇者様の言葉が胸に響いた。


「勇者様、ありがとうございます」

「お礼を言うようなことは言っていないのだが」


 照れたのか、勇者様はぷいっと顔を背ける。

 耳がほんの少しだけ赤くなっていたので、ぜんぜん隠せていなかったが。


 ◇◇◇


 私は因果応報アンチ・カルマで使える魔法や技のすべてを皆に打ち明ける。

 

「なるほど……。もしや、世界樹の蔓を倒したのは、魔法使い殿だったのか?」

「ええ、まあ、そうですね」


 イッヌ以外皆死んでいたので、存分に能力を発揮できたのだ。

 勇者様(本物)はずっと引っかかっていたようで、すっきりしたと言っていた。


「魔王との戦いで、魔法使い殿の力はきっと役に立つだろう」


 勇者が二名に賢者、回復師、ぶーちゃんにメルヴ、イッヌ、それに天賦の才能ギフテッドを持つ私がいる。

 珍しく、負けるという気がしない。


 休憩を挟んだのちに、先へ進んでいく。

 強力なモンスターと遭遇したものの、力を合わせて倒すことができた。


 そしてついに、魔王がいる部屋の前に辿り着く。

 勇者様は先頭に立ち、金ぴか剣を引き抜いた。


「魔王め! 滅多打ちにしてくれる!」


 勇者らしくない、悪役のような台詞である。

 まあ、らしいと言えばらしいのだが。


 勇者様(本物)も銀色の剣を引き抜き、魔王がいる部屋の扉に刃先を向けて言った。


「すべてを終わらせよう」


 その言葉に、皆頷く。

 ようやく、長い旅に終わりが訪れたようだ。

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