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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第七章 敵は誰なのか?

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78/90

魔王の居城にて

 鞄からぶーちゃんだけをだしておく。イッヌとメルヴは危険なので、鞄の中にいたほうが安全だろう。

 ぶーちゃんは私を振り返り、勇ましく『ぴい!』と鳴く。

 まるで、守るから心配するな、と言ってくれているように思ってしまった。


 三人以上でパーティーを組むのははじめてだ。

 勇者様から「大噴火イラプションは使うな」と禁止令を受けてしまう。

 魔法使いとしての役割を奪われてしまったので、私はアイテム係になろうと心に決めた。

 公爵は私に贈ってくれた鞄の中に、大量のアイテムを忍ばせてくれていた。

 レイズ点薬やキュア丸薬だけでなく、ドラゴンやゴーレムなどを召喚できる召喚札サモン・カードや転移の魔法巻物など、豊富なラインナップが用意されていた。

 どれも魔王との戦いの役に立つだろう。


 薄暗く不気味な廊下を歩いていく。

 大きな扉の前に行き着くと、左右に置かれた翼を生やしたモンスター像が突然動きだす。

 賢者がハッとなり、叫んだ。


「あれは、ガーゴイルだわ!!」


 二体のガーゴイルは翼をはためかせ、襲いかかってくる。 

 回復師はすぐさま勇者様の攻撃力と防御力を上げる魔法を唱えた。

 戦闘能力と防御力が大幅に上がった勇者様は、ガーゴイルの攻撃を金ぴか剣で防いだ。


 賢者も得意の無詠唱で魔法を発動させる。


「――氷の旋風アイス・トルネード!」


 氷を含んだ風が巻き上がり、ガーゴイルの翼を凍らせ、地に落とした。

 すかさず、勇者様(本物)が首をねる。ガーゴイルは動かなくなった。


 勇者様のほうも、回復師と力を合わせてガーゴイルを倒したらしい。

 私は見事だった、と心の中で拍手をするばかりだった。


「やはり、パーティーの人員が多いと、戦闘も楽だな」


 勇者様(本物)の言葉に、賢者は不服そうな顔を浮かべつつも頷いていた。


「回復師があんなふうにサポート魔法を使うのを、初めて見たわ」


 どうやら勇者様(本物)には使っていなかったらしい。勇者様に対する贔屓ひいきがとんでもないと思ってしまった。


 階段を昇り、どんどん上層部へと進んでいく。

 上に上がれば上がるほど、モンスターは強くなっていった。

 けれどもさすが勇者様(本物)と言うべきなのか。

 苦戦することなく、モンスターを倒してしまった。

 勇者様も回復師のサポートのおかげで、なかなかの活躍を見せていた。

 私はアイテム係としても活躍する場はなく、ただただ「すごい!」と絶賛するばかりであった。


 とうとう、最上階に行き着く。

 この先に魔王がいるわけだ。

 私の願いは叶うのか。まさか、本物の勇者様ご一行と一緒に魔王討伐に行くなんて、想像もしていなかったのだが……。


 一歩、一歩と近付くにつれて、緊張が高まっていく。

 私は本当に、死ねるのだろうか?

 怖い。

 そんな感情が私の心に渦巻いていた。

 少し前までは、迷いなく死にたいと思っていたのに。

 魔王を前にした今、私は死んだらどうなるんだろう、などと考えても仕方がないことをうだうだ考えていた。

 いったいどうしてしまったと言うのか?


『ぴいい?』


 ぶーちゃんが私を振り返り、どうかしたのか? と聞かんばかりの鳴き声をあげる。

 メルヴも鞄からひょっこり顔を覗かせ、話しかけてきた。


『魔法使イサン、元気ナイナラ、メルヴノ葉ッパ、食ベル?』


 イッヌも『きゅうううん』と鳴きながら、うるうるの目で見上げてきた。

 なんて優しい子達なのか。

 私がこの子達に返せる優しさなんてないのに。

 それについて考えると、涙がでそうになる。


「魔法使いさん、どうかした?」


 回復師も私が普通ではないように見えたようだ。

 勇者様(本物)や賢者も立ち止まる。


「少し休憩しようか?」

「それがいいかもしれないわ。なんだか顔色が悪いし」


 皆の意見は一致していた。

 ただひとり、勇者様を除いて。


「魔法使いは戦っていないから、休憩などせずとも問題ないだろうが! 休まず歩け!」


 力強く、活気に溢れたクズ発言――安定安心の勇者様である。

 そんな勇者様を咎めるような視線が一気に集まる。


「なんだ? 私はおかしなことを言ったか?」

「おかしなことだらけよ、この人でなし!」

「勇者よ、他人が自分と同じように動けるというのは大きな勘違いだろう」

「さすがに、今の発言は酷いよ」


 女性三名から責められ、さすがの勇者様も返す言葉がないようだ。

 何も言わずにその場にどっかり座り、「これでいいんだろうが!」と言ってのける。


 賢者は魔物避けの結界を展開させ、回復師は食事の用意をしてくれる。

 勇者様(本物)は私に「大丈夫か?」と優しく声をかけてくれた。


「ええ、平気です。魔王を前に、少し感傷的になってしまったようです」

「奇遇だな。私もだ」


 勇者様(本物)はミレイ村出身だと話していた。

 王都の北部にある、痩せた土地だと聞いたことがある。


「勇者様(本物)は、勇者になる前、何をされていたんですか?」

「私か? 私はモンスターを倒して日銭を稼いで暮らす、どこにでもいる村人だったよ」


 母親が病弱だったようで、薬代を稼ぐために日夜モンスターと戦っていたようだ。


「ただ、母が死んでからというもの、無気力状態になっていた」


 そんな彼女のもとに、聖司祭が訪れる。


「私は勇者の唯一の才能ユニーク・ギフトを持っていて、魔王を倒してほしいと頼まれたんだ」


 そこから、勇者様(本物)の旅が始まったらしい。


「魔王を倒すという目標ができて、私は生きる気力を取り戻したような気がする。きっかけが魔王だったというのは、なんとも言えないものであるが」

「魔王を倒したあとは、何をするのか考えているのですか?」

「そうだな。騎士にでもなろうかと考えていたのだが、イーゼンブルク猊下の騒動を聞いていたら、騎士も信用ならないな」


 何をしようか――そう呟いた勇者様(本物)の横顔は、少し楽しげだった。


「魔王を倒したら生きる気力をまた失ってしまう、とは考えなかったのですか?」

「思ったよ。けれども今の私は母しか大切な存在ものがいなかった頃とは違い、仲間がいるからな」

「仲間……」


 そう口にすると、ぶーちゃんやメルヴ、イッヌが私の傍に寄り、体をすり寄せてくれた。

 温もりを感じた瞬間、私は涙してしまった。

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