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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第七章 敵は誰なのか?

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何をすべきか

「君は冷静なようだから、話しておくけれど、イーゼンブルク猊下をはじめとする王族には、絶対に逆らってはいけないよ。彼らが悪逆を尽くすような行為を働いていたとしても、それは罪とならない。この国は昔からそういうふうに成り立っているんだ」


 公爵は真剣な表情で訴えてくる。


「もしも国王陛下が息子が帰ってきていることを知り、差しだすように命じたら、従わなければならない」


 それが勇者であり、侯爵家にとって大事な跡取りであっても、逆らうことは許されないのだという。


「王様の言うことは~~!?」

「絶対~~!!」

「そう。いいね、君。ノリがいい」

「ありがとうございます」


 ノリだけで生きてきたようなものなので、こういうのは意外と得意なのだ。

 なんて、胸を張っている場合ではない。

 頼りにしていた勇者様のご実家が、味方ではないと明らかになったのだ。

 勇者様にとって、絶体絶命だろう。


 どうしようもならないような状況に、内心頭を抱える。 

 ただでさえ、この世界は魔王が出現し、各地で損害を被っているというのに。


「君は魔王と王家の問題、どちらを先に解決すべきだと思う?」


 勇者様の身に降り注ぐ災難か、世界に降り注ぐ災難か。

 

「まあ、そうですね。勇者様が死んでしまったら元も子もないので、暗殺問題を先にどうにかしたいです」

「そうか」


 公爵は腕組みし、何か考えているような仕草を取る。

 話を聞く限り、王家を敵に回してはどうにもならないと思うのだが。


「たしかに、君の言うとおり、息子が死んでしまってはどうにもならない」


 その一方で、王族が絡んだ問題もどうにかするのは難しい。

 解決は不可能だとしか思えなかった。


 公爵は人差し指を唇に当てて、静かに、という仕草を取った。

 他人に会話を聞かせないように、対策を打ったのだろう。

 懐から手帳を取りだし、サラサラと何かを書き始めた。

 そこに書かれていたのは、信じがたいものである。


 ――王家の者達が昔から、恐れている存在ものがある。それを、王都で探してみるといいよ。それさえ手に入れたら、勝てるはずだから。


 王家の者達が恐れている存在とは何なのか。まったく想像がつかないのだが……。


「少し話しすぎてしまったかな。君も疲れただろうから、休むといい」

「はい、ありがとうございます」


 公爵は私達を国王に突きだすつもりはないようで、豪華な部屋と食事を用意してくれた。

 温かいお風呂に浸かり、ふかふかの布団に身を沈める。

 ぶーちゃんと一緒にぐっすり眠ったのだった。


 翌日。メイドが銀盆に載せたアイテムを持ってくる。


「こちらは公爵様からの贈り物でございます」


 銀盆には金色のカードと鞄が置かれていた。


「こちらは借款札クレジットカードでございます。商店で提示すれば、好きなだけお買い物ができるようです」

「おお!」


 公爵家の家紋入りで、金ぴかに輝いていた。

 おそらく公爵は直接支援はできないものの、見えない部分から助けてくれるつもりなのだろう。

 これまで請求書を書いたり、ツケを申請したりと面倒だったのが、この一枚の札で解決するわけだ。


「こちらの鞄は、収納魔法が付与されたものになります」


 アイテムをたっぷり収納できる鞄らしい。これがほしかったのだ、と声を大にして言いたい。


「鞄の中にはさまさまな魔法薬や、転移の魔法巻物などが入っております。お手すきのさいに、中身をご確認ください」


 公爵にお礼を言いたかったが、すでに仕事にでかけていないようだ。

 昨日みたいに、屋敷にいるというのが珍しいらしい。

 

 メイドの用事はそれだけかと思いきや、続けて寝台にテーブルが置かれた。

 顔を洗う湯や、歯を磨く水などが用意された。

 石鹸は泡立てた状態で用意され、額にかかっていた髪をピンで留めてくれる。

 顔を洗い、歯を磨いたあとは目覚めの一杯と呼ばれる紅茶が置かれた。

 少し渋めに入れられた紅茶は、一口飲んだだけですっきり目が覚める。

 ホッとひと息吐くと、今度は朝食が並べられていった。

 ぶーちゃんにも同じ料理が用意されており、尻尾を振りながらおいしそうに食べていた。

 あつあつのスープに、焼きたてのパン、カリカリに焼かれたベーコンに、半熟ゆで卵――どれも絶品だった。

 

 こんなお姫様みたいな扱いを受けるのが、貴族の毎日だという。

 最高だと思った。


 ボロボロだった魔法使いのローブや外套は洗濯してくれているらしい。

 メイドが濃紺のワンピースを用意してくれた。

 ありがたく袖を通し、髪はいつもの三つ編みにする。

 勇者様が目覚めたと言うので、部屋に向かう。

 扉をトントンと叩くと、すぐに声が聞こえた。


「扉を二回叩くのは厠――魔法使いか!?」

「ええ、そうです」


 扉が勢いよく開かれる。

 金ぴかの鎧ではなく、貴族然とした詰め襟の上着にズボンを合わせた姿の勇者様が顔を覗かせた。


「勇者様、そのような恰好をしていたら、貴族みたいですね」

「みたいではなく、私は貴族なんだ」

「なるほど」

「そんなことはどうでもいいから、早く入れ」


 部屋への入室が許可されたので、お邪魔する。

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