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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第七章 敵は誰なのか?

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69/90

怒りの勇者様

「どうして勇者である私の命を狙っているのだ!? 私が死んだら、誰が魔王を倒す!?」


 それは勇者様(本物)が倒します……という残酷な真実はまだ言わないでおく。


「街に立ち寄るごとに命を狙われては、体が休まらない!」

「ええ」


 せっかく街に立ち寄ったのに、命の危機にさらされ続けていたのだ。

 おいしそうな料理、ふかふかの布団、洗濯された清潔な服――街でもたらされるすばらしい物の数々に、暗殺が絡んでくる。

 冗談ではないと言いたい。


 この先、野宿のみで魔王討伐の旅を続けるというのも難しい話だろう。

 回復師がいたら可能だったかもしれないが。

 

「そういえば勇者様、大森林で回復師様と再会したとき、気まずかったり、ケンカにならなかったりしなかったのですか?」

「なぜ?」

「いやだって、追放したことに対して、回復師様が何も思わないわけがないと思いまして」

「別に、私が追放したことに対して、文句は言われなかったぞ。むしろ、パーティーに復帰したいと言ってきたくらいだ。すぐに断ったがな」

「なっ……!?」


 信じがたい情報を耳にしてしまった。

 回復師は勇者様から追放されたことを怒るどころか、パーティーに復活したいと言っていたらしい。

 我が耳を疑うような言葉である。


「もともと、魔王討伐の旅だって、回復師が勝手についてきたのだ。私が同行するように頼んだ覚えなど一度もない」

「しかし、どうして断ってしまったのですか?」


 回復師がパーティーにいないほうが都合がいいのだが、それは私の個人的な事情があるからだ。それを抜きにしたら、パーティーにいてほしい存在である。


「これまでうっかり死んだり、まずい料理に悶絶したり、野営で眠れなかったりしたでしょう?」

「それはそうだが、私は自分が一度決めたことは、何があっても曲げたくないのだ」


 たとえ間違っていたとしても、自らの発言に責任を持っているようだ。

 勇者様はとてつもなくまっすぐな人物ひとで、信じがたいくらいの頑固者なのだろう。


 まさか回復師が勇者様のパーティーに戻りたかったなんて。

 どうやら追放されても、勇者様を愛する気持ちに変わりはないらしい。

 勇者様のどこが好きなのか、一度聞いてみたいものである。

 ずっと一緒に旅をしていたが、好感を抱く瞬間なんてなかったような気がした

 顔がよく、実家が太いというのは魅力的な要素なのかもしれないが、私の胸にはまったく響かない。

 勇者様の自分勝手な様子や考えなしの言動を前にすると、神から授かった物の何もかもが台無しになっているのだろう。 


「おい、魔法使い。お前、今失礼なことを考えていないだろうな?」

「いいえ。街で食べ損ねたドーナツのことについて考えていました」

「あれは毒入りだったではないか!」


 粉砂糖がたっぷりまぶされた、揚げたてのドーナツだったのに、暗殺者が私達を殺すために毒を仕込んでいたのだ。

 かぶりつこうとした途端に空から鳥が飛んできて、私の手からドーナツを奪った。

 手を伸ばした瞬間、鳥は羽ばたくのを止めて、落下していったのだ。

 動かなくなった鳥を調べたところ、泡を噴いて死んでいた。

 ドーナツには毒が混入してあったのだ。

 鳥が毒味をしてくれたおかげで、私達は死なずに済んだわけである。


「でも、あのドーナツは限定品で、一時間も並んだんですよ!」

「今思い出しても、バカなことをしたと思っている」


 あまりにもおいしいという話だったので、うっかり行列に並んでしまったのだ。

 ちなみに、毒混入事件についてはすぐさま騎士隊に通報し、後処理は勇者様のご実家に任せた。

 そこまで騒ぎにならずに、翌日から営業再開されたと聞いた。

 私達はドーナツ店を出入り禁止にされてしまい、二度と食べられなくなったのである。


「ドーナツくらい、実家に行ったら山のように食べられる!」

「いいですねえ」

「だったら、私の実家に行くぞ!」

「え!?」


 勇者様が懐から転移の魔法巻物を取りだす。それはご実家に繋がっている物らしい。


「ちょっと待ってください。せっかくここまで来たのに、ドーナツを食べるためだけに王都に戻るなんて!」

「目的はドーナツだけではない! 暗殺について、王家に抗議する!」

「いやいやいや!!」


 王家が暗殺者を仕向けたという証拠はどこにもない。

 命を狙うとしたら、王家しかないだろうと勝手に推測したことだ。

 

「魔法使い、どうして止める!?」

「だって、暗殺者に襲われた記録もなければ、王家の差し金だという確かな証なんてないので。そんな状態で王族相手に糾弾したら、殺されるに決まっているでしょう!」


 勇者様のご実家だって、庇いきれないだろう。

 きっと王都に私達の味方なんていない。そんな残酷な現実を、勇者様に告げる。


「それでも、私は我慢できない!」


 そう言って、魔法巻物を破る。

 勇者様は私を担ぎ上げ、メルヴを鞄の中へ詰め込む。

 ぶーちゃんは勇者様の足にしがみつき、イッヌは勇者様の空いている腕に飛び込んだ。

 転移魔法が展開され、景色がくるりと回転する。


 鬱蒼とした森から、ふかふかの絨毯がある部屋へ着地した。

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