新しい仲間
腐死者化した私を助けてくれたのは、世界樹の大精霊メルヴだった。
なんでも黒い蔓に襲われたさい、殺される前に急いで種と化したらしい。
その状態のメルヴを、私が持ち帰ってしまったようだ。
その種は鞄に入れっぱなしだったのだが、知らぬ間に大根になっていた。
以前、賢者が話していたとおり、メルヴは大根によく似ている。
つぶらで愛らしい瞳に、〝3〟みたいな口、木の枝のような手を持つ、かわいらしい生き物だ。
頭から葉っぱの他に、小さな白い花を咲かせていた。
そんなメルヴは片手を挙げ、私と勇者様に挨拶をした。
『メルヴ・エフロレスンス、ダヨ!』
勇者様はしかめっ面で私を振り返り、文句を言ってきた。
「魔法使い、お前はなんてものを拾ってきたんだ!」
ミニチュア・フェンリルと聖猪グリンブルスティを仲間にした勇者様に言われたくないのだが。
「また世界樹のもとまで行かなくてはならないではないか!」
世界樹にとって、メルヴは不可欠な存在である。
かわいいから、と連れ歩いていいものではない。
『世界樹ニハ、新シイ、メルヴガ、イルヨ!』
メルヴは拾った場所に帰さなければならないと思っていたのだが、すでに世界樹のもとに新しいメルヴが派遣されているらしい。
「メルヴというのはお前一匹だけではないのか?」
『タクサン、イルヨー』
世界樹を守護するメルヴがいなくなったら、新しいメルヴが生まれる仕組みらしい。
すでに二代目のメルヴが生まれていて、世界樹を守っているようだ。
「ということは、お前は野良のメルヴになるのか?」
『ソウダヨ』
ならば、これからも一緒にいてもいいのではないか。
メルヴを抱き上げ、勇者様を見つめる。
「お前、メルヴの世話ができるのか?」
「自信はありません」
「おい、こういうときは、なくてもあると言うものだぞ」
そうかもしれない。
けれども死ぬ予定の私が、メルヴの面倒を一生見るとは言えなかった。
「勇者様がお世話をしてください」
「どうしてそうなる!」
「お願いします」
メルヴと一緒に頭を下げる。すると、勇者様は私達に背を向けた。
ダメだったか。そう思っていたが……。
「好きにしろ!」
勇者様はメルヴの同行を認めてくれるらしい。
メルヴと共に手と手を取り合って、喜んだのだった。
◇◇◇
空っぽの者達を誘拐し、実験に使っていたという事件は騎士隊の介入により解決した。
施設は閉鎖され、立ち入り禁止となったようだ。
よかったと胸をなで下ろしたものの、思っていたよりも大事になっていないのが気になる。
勇者様はドクター・セルジュが話していた、聖都の枢機卿イーゼンブルク猊下の関与も訴えた。
けれども、号外として配られた新聞に、イーゼンブルク猊下と施設の関わりについてはどこにも書かれていなかったようだ。
諸悪の根源はドクター・セルジュとなっていた。
すぐにもみ消したな、と裏事情を察する。
王族の闇をうっかり知ってしまった。
そんな私達の命を狙う者が現れる。
今日も黒衣の暗殺者の集団に追われていた。親切なことに彼らは駿馬に跨がっており、猛追してくれる。
「クソ!! こいつら何者なんだ!!」
ぶーちゃんに跨がり、必死になって逃げる。
「勇者たるこの私を狙うとは、狼藉者みぇ!!」
「勇者様、ぶーちゃんの上でお喋りなんかしたら、舌を噛みますよ」
「か、噛む前に言ってくれ!!」
ぶーちゃんの足の速さに追いつけるわけもなく、なんとか撒くことができた。
ただ、街から外れた場所にきてしまう。今日は野宿をしなければならないようだ。
「……酷い目に遭った」
「ええ、本当に」
ただ買い物をしていただけなのに、殺されそうになるなんて。
「この前から、いったい何事なんだ」
もうすでに数回、私達は謎の暗殺集団から殺されかけていた。
食堂で食べたパンに毒が混入されていたり、宿の寝台に毒ヘビがいたり、服に毒針が仕込まれていたり……。
衣食住に密着した暗殺は勘弁してほしい。
ちなみに勇者様は二回ほど死んでいる。メルヴの葉っぱのおかげで、なんとか生き返ることができていたが。
「いったい誰が、私を手にかけようとしているのか!?」
「いや、王族の誰かでしょう」
「なぜ王族が私を狙う!?」
勇者様は本気で、暗殺集団を送り込んだ犯人について気付いていなかったらしい。
「私は勇者だ。王族からも尊敬されるような存在だぞ。その私を、どうして狙うと言うのだ?」
「王甥であるイーゼンブルク猊下が、空っぽの者達を誘拐した施設の総責任者だ、という証言をしたでしょう? 理由はそれに決まっていますよ」
「そんなバカな!」
バカなことばかり起きるのがこの世の中である。
痛みと死を知って、しっかり学習してほしい。
「私の命を狙うなんて、まるでイーゼンブルク猊下が事件に関与した情報を、もみ消すようではないか!」
「だから、私達を殺してもみ消しを図っているんですよ」
勇者様は本日二回目の「そんなバカな!」を叫んだのだった。




