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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第六章 行方不明の子どもを探せ!

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お食事会(※毒入り)

 夕食の時間が近づいてきた。

 私はドクター・セルジュと会ったのは今日が初めてだったものの、相手はどうかわからない。

 もしかしたら、ここに連れてきた者達の顔は覚えている可能性もある。

 そのため、顔は絶対に見せるわけにはいかない。


「食事の席で頭巾を取れと言われたらどうするんだ?」

「対策は考えています」

「そうか」


 今回の作戦はチームをふたつにわける。

 ひとつは勇者様とイッヌの、天井裏でドクター・セルジュを捕まえる係。

 もうひとつは私とぶーちゃんによる、食堂でドクター・セルジュの悪事を暴く係だ。

 おそらくドクター・セルジュはここを空っぽエンプティの者達を集めた、研究施設だなんて言わないはずだ。

 ただ、遠回しに聞くことはできるだろう。


「そろそろ向かうか」

「ええ、よろしくお願いします」


 勇者様は部屋にある本棚の上に乗り、天井を一枚剥がす。

 布に包んだイッヌを首からぶら下げた状態で、天井裏へと登っていった。

 食堂までの道のりを一時間ほど前に案内し、目印である発光石も置いているのだ。勇者様は天井裏で迷いそうだが、賢いイッヌが食堂の上まで導いてくれるだろう。


 しばらく待っていると、先ほどの老人がやってきて、食事の時間だと教えてくれた。


「おや、おひとりですかな?」

「はい。勇者様はまだ眠っているようで」


 老人は部屋をちらりと覗き込む。寝台にある膨らみは、布団を丸めて作ったものである。我ながらいい出来だと思っていた。

 老人は「なるほど」と小さく呟き、踵を返した。


「承知しました。では、ご案内します」


 老人は勇者様が毒草ジュースを飲み、死んでいることを知っているようだ。さほど追及せずに確認は終わる。


「食堂はこちらです」


 何やら料理のいい匂いが漂ってきた。

 先ほど携帯食のパンやスープを飲んだのに、食べられそうな気がしてならない。


「どうぞ中へ」


 食堂にはドクター・セルジュが待ち構えていた。


「まだ、お兄さんは目覚めていないのかな?」

「ええ、疲れているようで」

「それはそれは。のちほどサンドイッチか何かを部屋に運ばせましょう」

「ありがとうございます」


 老人が椅子を引き、座らせてくれた。

 椅子にはイッヌの毛玉が落とされている。これは事前に打ち合わせていた目印だ。すでに、天井裏に到着しているのだろう。

 準備は整っているので、作戦開始となる。

 食事が運ばれてくる前に、ドクター・セルジュが優しく言葉をかけてきた。


「ああ、そうだ。頭巾は取っていいですよ」


 それは提案というよりも、今すぐ外せ、という意味が滲んでいるように思えた。

 ドクター・セルジュはいつでもにこやかで、柔和な印象を受ける。けれどもその中身はどろどろに腹黒いのだろう。


「あ、あの、私、顔に火傷があって……。見たら具合が悪くなると思います」

「構いませんよ。気にしないでください」

「で、では……」


 ドキドキしながら、頭巾を下ろす。

 私の顔を見たドクター・セルジュは、「ヒイ!!」と悲鳴をあげた。


「私の顔、恐ろしいですか?」

「いや、その、うげええええええ!!」


 食事の前だと言うのに、ドクター・セルジュは盛大に吐いてくれた。

 まあ、それも無理はないだろう。

 私は自身に、不死者リッチが使っていた腐死への誘いデス・インヴィテーションを使ったのだ。

 肌はドロドロに溶け、目は落ちかけ、頬の肉は削げている。

 現在、私は腐死者ゾンビ状態なわけだ。

 作戦が終わったら、レイズ点薬で治す予定だが、上手くいくものなのか。

 天井裏から様子を窺っている勇者様には、私のつむじしか見えないので、何を見たのかわからないはずだ。

 まあ、バレても腐死者化できる魔法薬を使った、と適当にはぐらかすつもりだが。


 ぶーちゃんは私を見て驚いているようだが、大人しくしてくれた。

 内心、ごめん! と謝罪する。


「ず、頭巾は被っていても、問題ないですよ」

「わあ、ありがとうございます」


 頭巾を被り直している間に、部屋がきれいに清掃されていく。

 どうやらこのまま食事を続けるつもりらしい。


 給仕によって料理が運ばれてくる。おいしそうなポタージュであった。

 千里眼クレアボヤンスで確認すると、料理名が〝毒サソリのポタージュ〟と表示される。

 毒サソリは猛毒の尾を持つモンスターである。

 やはり、即死ではなく緩やかに殺す方向へ持っていきたいらしい。

 腐死者の状態では毒は無効化なので、普通にいただく。

 毒サソリのポタージュの舌触りはなめらかで、濃厚な味わいだ。味に違和感はなく、普通においしいポタージュであった。


「とってもおいしいですう」

「そ、そうですか」


 腐死者化しているからか、舌先が上手く回らず、幼児みたいな喋り方になってしまう。

 一刻も早く元に戻りたい。


 他にも、さまざまな毒入り料理が運ばれてきた。

 猛毒魚の蒸し煮に、フォレスト・ボアの赤ワイン煮、毒草入りパンに、毒イチゴのムースなどなど。


 ドクター・セルジュに用意されたのは毒入り料理に似せた、毒なし料理である。


「たくさん食べてくださいね」

「ありがとうございますう」


 私がしっかり食べているか、ドクター・セルジュは気になるのだろう。たまにチラチラとこちらを見ていた。

 大きく切りわけたフォレスト・ボアの肉を、ドクター・セルジュのほうへ差し向ける。


「一口食べますかあ?」

「ヒッ! な、なぜ!?」

「さっきから、羨ましそうに、私を、見ているのでえ」

「あ、いいえ、おいしそうに食べているな、と思って見ていただけです。君が食べてください」

「は~い」


 先ほどの焦った表情は見物だった。内心ほくそ笑んでしまう。

 毒入り料理はどれも案外おいしくて、ペロリと完食してしまった。


「ぜんぶ、最高でしたあ」

「お口に合ったようで、何よりです」


 先ほどから、ドクター・セルジュの顔が引きつっていた。

 腐死者化した姿を見せたからだろうか。

 食後の紅茶が運ばれてくる。これも毒草茶らしい。ここまで徹底しているとは、逆に感嘆してしまう。


 料理や紅茶を味わっている場合ではなかった。そろそろ本題へと移ろう。  

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