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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第六章 行方不明の子どもを探せ!

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施設へ

 男女の魔法使いが背中を向けた途端、私達は檻から抜けだす。

 事前に打ち合わせしていたとおり、布に染み込ませていた眠り薬を嗅がせて、昏倒させることに成功した。

 男女の魔法使いは、私達が入っていた檻に押し詰めておく。

 連れてこられた子ども達には、携帯食として持ち歩いていた干し肉と干し野菜をわけ与えた。

 すでに施設にいた者達の分はないものの、彼らは食欲なんてものはないだろう。


「勇者様、行きましょう」

「ああ」


 人が通らない通路を私は知っている。勇者様を誘導し、まずは外にでた。


 そびえ立つ塀に囲まれ、鬱蒼うっそうとした森の中にある施設――。

 ここは何年経っても変わらないようだ。

 今日も残忍な実験が繰り返されているようで、断末魔のような叫びが響き渡る。

 勇者様は眉間に皺を寄せ、不思議そうな表情でいた。


「ここは何をする施設なんだ?」

空っぽエンプティの者達を集め、人工的に才能ギフトを付与させる研究所ですよ」

「なんだと!?」


 勇者様は瞳を極限まで見開き、信じがたいという表情でいた。

 窓を覗き込むと、そこには目を背けたくなるような残酷な実験が繰り返されている。

 

「これは――魔王の仕業ではないではないか!」

「だから言ったでしょう。魔王が犯人ではないと」

「なぜ、お前はそのように詳しい?」


 しらばっくれるのも面倒なので、珍しく正直に打ち明けてみた。


「私はここから抜けだした、元住人だからですよ」

「なっ――!?」


 さすがの勇者様も、私がいた境遇について驚いたようだ。

 

「ここが元いた施設だと、気付いていたのか?」

「いえ、その可能性がある、くらいです。私は馬車で連れてこられたので」


 まさか、国中から子ども達を集めているなんて、私も把握していなかった。

 空っぽエンプティの者達同士で、言葉を交わすことなんてなかったから。


「勇者様、どうします? 転移の魔法巻物を使って、ピアニーの街に戻ることもできますが」


 こんなこともあろうかと、魔法巻物を数枚買っておいたのだ。

 敵が魔王でないので、ここにいる者達は勇者様が救う必要はないだろう。


「魔法使いよ、ここの責任者は誰なんだ?」

「わかりません。けれどもドクター・セルジュという名を職員達の口からよく聞いていました」


 きっとその人物こそが、この施設の責任者なのだろう、と心の片隅で考えていたのである。


「わかった。では、そのドクター・セルジュという男を捕まえて、騎士隊に連行させる」

「待ってください。そんな危険なことをするなんて、勇者様らしくありませんよ」

「お前は、私をなんだと思っているんだ!」

「魔王を倒すことしか眼中にない勇者様です」

「おい!!」


 なんでも勇者様にも一応、悪を憎み、弱き者を救いたいという気持ちはあるらしい。これまでしなかったのは、困っている者達の存在に気付いていなかったからだそうだ。


「施設の者達を見て見ぬふりはできない。どうにかしてみせよう」

「えーっと、死なないでくださいね」


 これまで挑んだリーフ村や大森林は、死んでも戻ってこられるような場所だった。けれどもここは現在地がどこかもわからない場所で、戻ってくるのは困難だろう。


「この私が簡単に死ぬわけないだろうが!」


 胸に手を当てて、これまでどういった死因で死んだかを思い出してほしい。

 勇者様の慢心と油断が、死に導いていたのだ。


「それで、何か作戦などあるのですか?」

「真っ正面からドクター・セルジュとやらを訪問する。話を聞いて、悪人だと判断したら、転移魔法でピアニーに飛ばして、騎士隊へ突きだす」


 果たして上手くいくだろうか。

 人身売買をする上に、人体実験を行う施設の責任者と、まともに会話できるとは思えないのだが……。


 まあ、いい。こそこそ忍び込んで、途中で捕まるよりはマシだろう。

 一応、私がここの施設から逃げた女だと顔バレしたくないので、外套の頭巾を深く被った。

 そんなわけで、作戦を開始する。


 正面玄関に回り込み、扉を叩くよう私に指示をだす。

 トントン、と二回叩いたら、背後にいた勇者様が物申す。


「おい、扉を二回叩くのは、かわやだけだぞ」

「貴族様の礼儀は存じ上げないのですが、どちらにせよここは厠のようなクソ施設ですので」

「汚い言葉を使うな」


 勇者様だって頻繁ひんぱんにクソクソ言っているのだが、どうやら自覚がないらしい。

 しばらく待っていると、扉がギイと不気味な音を鳴らして開く。

 中から顔を覗かせたのは、干し柿みたいな老人だった。


「……どちら様でしょうか?」

「森で迷った者だ! 一晩泊めてほしいから、ここの主に会わせてくれ!」


 勇者様は尊大な様子で言ってくれる。

 とても人様に頼み事をするような態度ではなかった。


「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 勇者様は身分を偽ることなく、そのまま伝えていた。

 自らについて明かさず、潜入調査するものだと思っていたので少し驚いた。

 さすがに私は名前を明かすわけにはいかない。適当に偽名を名乗っておいた。


「勇者様と魔法使い様でしたか」


 老人は何かを考えるような仕草を取り、しばし待つように言われる。

 数分後、再び老人は顔を覗かせ、施設の内部に招き入れてくれた。

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