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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第六章 行方不明の子どもを探せ!

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62/90

勇者様の囮大作戦

 酒場の店主らしき男は勇者様の前でしゃがみ込み、金ぴかの鎧をコツコツ叩いた。


「本物の金じゃないか! こんなの、どこで見つけてきたんだよ」

「大通りに転がっていたんだ。これでこれまでの酒代が払えるうえに、つり銭も貰えるだろう?」

「まあ、そうだな」


 店主の男は勇者様をひっくり返す。


「ガワの鎧は普通に売るとして……おお、この兄ちゃん自身もいい男じゃないか」


 店主は勇者様の顔をベタベタ触りながら値踏みする。

 勇者様の表情が不快一色に染まり、頬はピクピクと痙攣けいれんしていた。また、干したエイみたいな表情を浮かべている……。

 もう少しで販売先がわかりそうなので、我慢してほしい。


「これはいつもの業者じゃなくて、貴族の奥方に高く売れそうだ」


 会話の内容から、人身売買の商人や客は複数いるようだ。

 国民の模範となるべき貴族が人を買っているなんて、呆れた話である。


「その前に、才能ギフトの有無を調べなければならないな」

「あっても、どうせろくでもない才能ギフトだろうよ」


 勇者様の全身がぶるぶる震えていた。まるで、陸に打ち上げられた魚のようだった。

 かなり活きがいい。

 才能ギフトをバカにされて、我慢ならないのだろう。あと少しだけ耐えてくれたらいいのだが……。


 店主は虫眼鏡のようなもので、勇者様を覗き込む。

 もしや、あれは才能ギフトを見抜く魔道具なのか?

 だとしたら、勇者様であるとバレたら大変なことになるだろう

 店主はきっと「勇者なんて買い取れない! 捨ててきなさい!」と言うに違いない。


 虫眼鏡を覗き込んだ店主は、怪訝な表情を浮かべる。

 勇者様であることに、気付いてしまったか。


才能ギフト……補欠?」

「は?」

「補欠、としか読み取れない」


 まさか、よりにもよって補欠のほうを読み取るとは。

 もう我慢ならなかったのだろう。勇者様は立ち上がり、抗議した。


「誰が補欠だーーーーー!!!!」

「うわっ!」

「な、なんだ!?」


 勇者様は腕を振り回し、ジタバタと暴れる。イッヌも一緒になって、ぐるぐる回りながら吠えていた。

 なんだ、その古めかしい怒り方は……と思ったものの、ケンカになってはいけない。慌てて店内に入り、勇者様に落ち着くよう諫める。


「勇者様、暴れないでください! 作戦が台無しです!」

「うるさい! こいつら、私の才能ギフトを補欠だなんてデタラメを言っていた!」


 それは間違いないのだが、今は勇者様の怒りを鎮めるのが先だ。


「落ち着いてください! ああいう魔道具の精度は低いものなんです!」

「くそが! くそが!」


 あまりにも勇者様が暴れるので、酒場の店主と男はドン引きしていた。

 ひとまず勇者様を静かにさせることに成功すると、彼らに金貨を差しだす。


「これは、迷惑料です」

「お、おお」

「いいのか?」

「はい」


 勇者様のご実家からの仕送りなので。私の懐は欠片も痛まない。

 気をよくした店主と男に、私はすかさず質問を投げつけた。


「あの、私達、人身売買に興味がありまして、詳しく話を聞かせていただけますか?」


 もしも教えてくれるのであれば、情報料を払う。

 そんな提案をすると、奥の部屋までついてくるように言われた。

 勇者様は大丈夫なのか疑っている。


「あいつら、情報提供をするフリをして、私達を売り飛ばすつもりではないのか?」

「大丈夫ですよ。お金を持っていることを示したので、取り引きに応じてくれるでしょう」


 不当な扱いをすれば暴れ回る危ない奴らというのもアピールできている。実に都合がいい状況だった。


 案内されたのは事務所のような部屋だった。長椅子に腰かけ、話に耳を傾ける。


「この街には人を売る場所が二カ所存在する。ひとつは貴族サマだ」


 なんでも犬猫を買うように、奴隷を侍らすことが流行っているらしい。

 裏社会の茶会というものが存在し、奴隷を自慢するという、趣味の悪い集まりもあるようだ。


「貴族サマのほうは見目がよく、健康的な奴隷を望んでいる。高値で売れるのはこっちだが、買い取り基準が厳しい。才能ギフトはあるよりも、ないほうが好まれるようだ」

「え!?」


 まさか才能ギフトの有無が買い取りの基準になっていたなんて。

 多くの空っぽエンプティの者達は、奴隷として扱われているようだ。


「もうひとつは、才能ギフトを持たない、空っぽエンプティの者達だけを買い取る場所だ。そこはそこまで高く買い取りされないものの、無条件で買い取ってもらえる」


 それを聞いた瞬間、胸がどくん! と嫌な感じに脈打つ。


「買い取る施設の場所は明かされておらず、週に一度、魔法使いが転移魔法を使って買い取りにやってくるんだ」


 空っぽエンプティの者達だけを集めた場所と聞いて、私が連れて行かれた養育院と称した実験施設について思い出してしまった。

 もしかしたらああいう場所は各地にあって、同じ施設ではないかもしれない。

 それでも、不当な扱いを受けるであろう空っぽエンプティの者達について考えると、胸がじくりと痛んだ。


空っぽエンプティの者達は下町のあちこちにいるが、成人した大人を捕まえるのは難しい。そのため、子どもを捕まえたほうが稼げる」

「ああ、なるほど。そういうわけだったのですね」


 子ども達が突然消えたのに、調査されない事件の実態が明らかになる。

 それは下町にいる、空っぽエンプティの子ども達を狙った犯行だったのだ。 

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