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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第六章 行方不明の子どもを探せ!

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新たな作戦

 下町で騙され続けたせいで、勇者様はダメな方向で疑い深くなっていた。


「おい、魔法使いよ! あの者が私を見た! もしや、私を金目の物と判断し、攫うつもりではないな!?」

「違います。あの人は勇者様が派手な金ぴかの鎧を着ているので、興味本位で見ただけですよ」


 散歩中の犬が勇者様を見上げ、ワンワン! と鳴いた。無駄に派手派手しい金ぴかの鎧に驚いたのだろう。

 けれども、勇者様はとんでもないことを口にする。


「おい、あの犬は私が持っている金貨の匂いを嗅ぎわけたのではないか!?」

「そんなわけありません。勇者様のお財布は私が持っていますから」


 そんな天才犬がいたら、私がお友達になりたいくらいである。

 勇者様に他人を疑えと言ったが、相手を見極めるという能力がないので、残念な結果となっている。

 このままの状態で下町に行き、無差別に疑って騒いだとなれば、悪目立ちをしてしまうだろう。


 この先どうやって調査をすればいいものか。

 悩んでいるところに、勇者様の小さな呟きが聞こえた。


「また、誘拐されたらどうすればいいものか」


 下町での勇者様は、歩く金目の物だ。ぼんやりしていたら、連れ去られてしまうのである。


「いったいどこに売り払っているのでしょうね――あ!」

「どうした?」

「子ども達の誘拐先がわかったかもしれません!」

「なんだと!? どこだ!!」

「それを今から調べるんです」

「どうやって!?」


 調査には勇者様が必要だった。


「私が必要だと? 何をすればいいんだ?」

「もう一回誘拐されてください」

「なんだと!?」


 勇者様を丸ごと売り払えるお店なんて、普通ではない。

 人身売買を可能としているような怪しいお店である。

 下町の男は勇者様を連れ去り、そのお店に売りに行っていたのだろう。


「なるほど……。人身売買の店ならば、騎士隊やギルドに隠れて、ひっそり営業しているかもしれない」


 奴隷の売買は国の法律で厳しく禁じられている。もしもピアニーの街で行われていたならば、大事件だろう。


「しかし、私を餌にしなくとも、お前でも十分なのでは?」

「私みたいなガリガリに痩せていて貧相な女は、危険を冒してまで売り払おうとは思わないのでは?」

「そういうものなのか?」

「ええ。家畜を買うときだって、毛並みがよくて、いい餌を食べてそうな子を買うでしょう?」

「たしかに……」


 家畜と同等に語られていることについて失言だったか、と言い終えてから思ったものの、勇者は気付いていないようだった。


「わかった。では、私が餌となり、人身売買をしている犯罪者を引き寄せようではないか」

「お願いします」

「その代わり、私を絶対に見逃すなよ」

「その辺はご安心を。民家の屋根からぶーちゃんと一緒に見張っていますから」


 そんなわけで、勇者様をおとりにした作戦が始まる。

 勇者様は金ぴかの鎧をこれでもかと見せた状態で下町へ向かい、腕組みして佇む。

 その近くに、イッヌも侍る。名犬のような表情を浮かべているように見えた。

 勇者様は眼光も鋭かったので、下町の者達は避けて歩いている。

 これではいけない。そう思ったので、勇者様に指示を飛ばす。


「勇者様、今のままでは隙がありません。もっと気を抜いた表情でいてください」

「気を抜くだと? そうしているつもりだったが」

「いえ、とんでもなく目がバキバキでしたよ」


 寝起きのような、具合が悪いときのような、そんな感じの表情だと説明しても、理解してもらえなかった。


「こうなったら、うつ伏せで倒れてみましょう」


 普通の街ならば道行く人が介抱してくれるだろうが、下町であれば誘拐されるはず。


「倒れている者を連れ去るなど、そんなバカなことがあるのか?」

「わかりません。でも、試してみる価値はあるかと」


 勇者様は疑いの表情を見せながらも、私が提案したとおりにうつ伏せの体勢になる。

 イッヌも腹ばいになって、倒れてくれた。

 すると、どこからともなく現れた屈強な男が、勇者様を担ぎ上げたではないか。


「ヒヒ! こんなものが落ちているなんて、俺はついているぜ! 売っ払おう!」


 これから人身売買をするような発言をしたのちに、行動を開始する。

 わかりやすいほどに、引っかかってくれたわけだ。

 男はイッヌも拾い上げ、「こいつは丸焼きだな!」だなんて言っていた。

 かわいいイッヌを食べるなんて……悪人に違いない。

 私達も動き始める。

 巨大化したぶーちゃんに跨がり、勇者様を担いだ男を追跡するよう頼んだ。


 男は軽い足取りで通りを進んで行く。

 入り組んだ路地裏を抜け、薄暗い怪しい通りにでてきた。

 この辺りは下町の中でも、さらに治安が悪い場所らしい。

 先ほど、意味もなくナイフをペローリと舐めている男を発見した。あんな物騒な男、物語の中でしか見たことがない。


 男が行き着いた先は、古びた酒場である。営業しているのかも怪しいくらいの佇まいであった。

 男は足で扉を蹴破り、中へと入って行った。

 すかさず、ぶーちゃんと共に地上へ降り、窓から内部を覗き込む。


「おい、店主! ツケを返す!」


 そう言って、男は勇者様を放りだした。

 落下のさい、勇者様は「ぐえっ!!」と潰れたカエルみたいな鳴き声をあげていた。

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