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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第六章 行方不明の子どもを探せ!

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勇者、騙される!

 足早に老婆のもとから去ろうとしていたのに、勇者様は微動だにしていなかった。


「老婆よ、どうして私が困っていると気付いたのだ!?」


 勇者様は目を見開き、驚愕した様子でいた。

 私達が下町で何かしらの調査をしているというのは、周知の事実だ。行動を見ていたら、赤子にでもわかることである。

 けれども世間知らずで箱入り息子な勇者様は、老婆が不思議な力によって見抜いたのではないのか、と思ったようだ。


「よくわかったな」


 勇者様の感嘆するような言葉を聞いた途端に、老婆は瞳を輝かせる。

 手にしていた水晶を掲げ、理由について語った。


「それはね、このあたしが〝占い師フォーチュン・テラー〟の才能スキルを持っているからさ!」


 嘘である。千里眼で調べたところ、彼女の才能スキルには〝詐欺師スキャマー〟と記してあった。


「視える! 視えるよ! あんた達は、人を捜しているね?」

「ああ、そうだ。このピアニーの街で、いなくなった子ども達の行方を捜している!」

「そうだ! 子どもだ!」


 勇者様は私を振り返り、とっておきの情報を手にした、とばかりの表情で見つめてくる。


「一生懸命探したんだけれど、まったく見つかっていないね?」

「そうなんだ! よくわかったな!」


 勇者様は気持ちがいいくらい、すがすがしく騙されていた。

 ここまで盛り上がったら、詐欺師のお婆さんも気持ちがいいだろう。


「子ども達はいったいどこにいるんだ!?」

「今からそれを占ってあげよう」


 そう言って、お婆さんは勇者様に手を差し伸べる。


「ん、なんだ?」


 勇者様に抱かれていたイッヌが、老婆の手のひらに前足をぽん! と置いた。


「犬っころ、これはお手じゃないよ!!」

『きゅううん?』


 イッヌはかわいらしく小首を傾げる。けれども老婆は「けっ! あたしに愛嬌あいきょうを振りまいても無駄だよ!」と悪態を吐くばかりであった。


「あたしの占いは有料なんだ。一回、金貨十枚いただこうか」

「なるほど!」


 勇者様は私に財布をだすように急かす。

 そういえば、あまりにも騙されるので、財布を取り上げていたんだった。


「おい、子ども達の行方が金貨十枚でわかるそうだ。早くだせ」

「だすわけないでしょうが! 勇者様、その占いはインチキです」

「なんだと!? そんなわけあるか!!」


 勇者様は憤りつつ、老婆に「そうだよな!?」と詰め寄るように聞く。

 その勢いに老婆は圧されていて、カクカクと頷くばかりであった。


「この老婆の占いがインチキである証拠を示せ!」

「そうですね。では、勇者様がこの先魔法学校に入学したさいの、成績について占っていただきましょうか」

「は、何を言って――むが!」


 勇者様はすでに魔法学校を成績最下位で卒業している。

 もしも彼女の占いが本物ならば、それを見抜くだろう。


「な、なんであたしが無償で占いをしなければならないんだよ!」

「結果次第では、子ども達の行方についての占いの報酬と含めて、金貨二十枚お支払いしますよ」


 金貨二十枚という言葉に、老婆は目の色を変える。

 すぐさま水晶を掲げ、占いを始めた。


「――ああ、視える! 視えるよ! あんたは魔法学校を成績優秀者として入学し、学年一番の秀才として卒業する未来が!」

「ですって」


 老婆の適当にもほどがある占いを前に、勇者様は絶句していた。


「どうだい?」

「老婆よ、私はすでに魔法学校を卒業している。成績は最悪だった」

「へ!?」

「紛うかたなきインチキだな」


 そう言って、勇者様は踵を返す。


「あ、ちょっと! 占ったのに、金は!?」

「偽物にだす金などない。失せろ!」


 勇者様はモンスター相手にも見せたことがないくらいの怖い顔で言い放つ。

 その迫力を前にした老婆は、それ以上食い下がろうとはしなかった。


 勇者様は下町をずんずん、ずんずんと歩き、中央街の平和な通りでピタリと止まった。


「魔法使いよ」

「はい?」

「ああいう詐欺師は、どうやって見抜くのだ?」

「そうですねえ、雰囲気、でしょうか?」


 勇者様は頭を抱え、「そんなやんわりとした情報で、見抜けるはずがない!」と叫ぶ。

 犯罪者の見本市みたいな下町で騙され続けたことは、勇者様にとって大きな衝撃だったらしい。珍しくショックを受けているようだ。


「勇者様がわからないのも無理はないです。私達は育った環境が天と地ほども違いますから」


 勇者様は裕福な家庭に生まれ、善意の塊みたいな両親に育てられ、他人から軽んじられることがない中で育った。

 一方、私は貧しい家庭に生まれ、悪意の塊みたいな両親から育てられ、他人から軽んじられる中で育ったのだ。

 勇者様は親切にしてくれる人を、純粋な心で信じている。よくしてくれるのは当たり前だ、と決めつけているのだろう。

 その一方で、私は親切にしてくる人にはまず、疑いの目を向ける。悪いことを考えているに違いないと、決めつけているのだ。


「まずは、自分以外のすべての人を疑ってください。そうしたら、無条件に騙されることもなくなるでしょう」


 私のアドバイスを聞いた勇者様は、小さな声で「難しいな」と呟いた。 

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