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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第六章 行方不明の子どもを探せ!

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58/90

生き返った魔法使い

「うう……!」


 うっすら瞼を開くと、私を心配そうに覗き込むぶーちゃんと目が合った。


『ぴいいいいい!』

「ぶーちゃん!」


 胸に飛び込んできたので、ぎゅっと抱きしめてあげる。


「気分はいかがですか?」

「あ――」


 声がした方向には、聖司祭の姿があった。

 ここで、先ほどトレントの攻撃によって死んだことを思い出す。


 いつもは悪夢をみながら復活するのに、今日は何もなかった。

 どうしてかわからないが、いつもこうだと助かる。

 それよりも、ここはどこの教会なのか。

 周囲を見渡してみたが、どこの教会も内装は同じなのでピンとこない。


「あの、こちらは聖都の教会ですか?」

「いいえ、ここは聖都ではなく、ピアニーですよ」


 どうやら聖都に戻らずに、次の街までやってきたようだ。

 私が持っている転移の魔法巻物を使ったら一瞬で戻れるのに、まさか先に進むことを選んだとは。

 勇者様はよほど、聖司祭達に騒動の説明をするのが嫌だったのか。

 聖司祭の話によると、巨大化したぶーちゃんが教会まで私を連れてきてくれたらしい。

 

「寄付まで用意していたようで、とても賢い使い魔ですね」


 なんでもぶーちゃんは街にやってくるまでの休憩時間に、珍しい薬草を発見していたようだ。それを咥えた状態で教会までやってきたらしい。

 なんてできる子なのか。いいこ、いいこと頭を撫でてあげる。


 ピアニーにやってきたということで、例の噂について聖司祭に聞いてみた。


「あの、ここの街で子ども達が突然行方不明になっているという話を耳にしたのですが、何かご存じですか?」

「いいえ、聞いた覚えはありません」


 聖司祭は本当に知らないのか、首を横に振る。

 しらばっくれているようには見えないものの、聖職者になるような者達は口が堅い。

 さらに腹芸も得意なので、信用ならないのだ。

 まあ、いい。ここで情報収集できるとは思っていなかったから。


「お連れ様は待合室でお待ちです」

「わかりました。ありがとうございます」


 待合室にはふんぞり返って座る勇者様の姿を発見した。イッヌは勇者様の膝の上で丸くなっている。


「勇者様、イッヌ、お待たせしました」

「ああ。思っていたよりも早かったな」

「ぶーちゃんが迅速に運んでくれたので、復活も早かったようです」


 本当に優秀だと褒めると、ぶーちゃんは少し照れた様子で『ぴい』と鳴いていた。


「おい、ぶーちゃんはいつから巨大化できるようになったのだ?」

「大森林で私がロックに攫われたことがきっかけだったようです」

「お前、知らない間にとんでもない目に遭っていたのだな」

「おかげさまで」


 勇者様は遠い目をしながら、「あれだけの大きさであれば、三十人前はありそうだ」などと耳を疑うような言葉を呟いていた。

 どうやらいまだにぶーちゃんを非常食として見ているらしい。


「あのトレントも、ぶーちゃんが倒した。お前が死んだ瞬間に巨大化したものだから、驚いたぞ」

「ぶーちゃんが倒してくれたのですね」

『ぴいい』


 勇者様ひとりで倒したとは思っていなかったが、まさかぶーちゃんの活躍があったとは。

 そのあとも、私の死体を背中に乗せたぶーちゃんが、馬車を先導していたらしい。

 途中、モンスターが出現することもあったが、ぶーちゃんが踏み潰していたようだ。


「勇者様、聖司祭に例の誘拐事件について聞いてみたのですが、知らないと言われてしまいました」

「そうか。私もここに出入りする冒険者に声をかけたのだが、皆、首を傾げていたぞ」


 よほど暇だったからか、珍しく調査をしてくれたらしい。

 聖司祭だけでなく、他の冒険者も事件についてよく知らないようだ。


「本当に誘拐事件は起きているのでしょうか?」

「どうだろうな。しかしながら、煙のないところに火は立たないと言うしな」

「火のないところに煙は立たない、ですね」


 子ども達が誘拐されているという噂に根拠がなければ、噂話は出回らないわけで……。


「一応、騎士隊やギルドにも話を聞きに行くか」

「そうですね」


 騎士隊やギルトでは取り扱っていないという噂話を確かめるためにも、足を運んでみる。

 案の定、どちらもそんな事件なんて知らない、という一言を返されるばかりだった。

 それ以外に、酒場や食堂など、人が集まる場所にも調査に行ったものの、反応は同じ。

 何を言っているのか、という目で見られてしまう。


「勇者様、どうします? 諦めて次の街へ目指しますか?」

「いや、それはできない」


 余計に怪しく感じたようで、徹底的に調査すると決意を口にしていた。


「推測でしかないが、街の奴らが興味を示さないような者達が誘拐されている可能性がある」

「ああ、なるほど。ならば、下町を調査してみますか?」

「そうだな」


 ピアニーの下町は少々治安が悪いことで有名だ。

 スリや盗難が横行しているが、日常茶飯事なので騎士隊に通報しても取り合ってもらえないことが多いらしい。

 

「勇者様、金目の物があれば盗まれてしまうので、気をつけてくださいね」

「わかっている。私もそこまで間抜けではない」


 なんて言っていた勇者様だったが――下町に足を運んだ途端に、私の目の前で誘拐されてしまう。


「おい、金ぴかがいるぞ! 金になる!」

「な、何をする! 離せ!」


 びっくりした。まさか勇者様自身が金目の物だと判断され、盗まれていくなんて。

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