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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第六章 行方不明の子どもを探せ!

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57/90

聖都をあとにする一行

 聖司祭達は大森林の異変に気付いていたようで、勇者様に説明を求めた。

 けれども勇者様はもうひとりの勇者様(本物)に腹を立てていたようで、取り合わなかったようだ。

 説明や責任のすべてを勇者様(本物)に押しつけ、聖都をあとにしたわけである。

 集まってくる聖司祭達を押しのけて教会からでていく様子は、さながら汚職事件を起こして新聞記者の追及から逃れる役人のようだった。勇者に相応しくないムーブだったと言えよう。

 聖司祭達は外まで追いかけてきたが、勇者様は御者に金貨を握らせ、逃げるように聖都から旅だった。


 そんな感じで、次なる街を目指す。

 なんでも勇者様が、教会で私を待つ間に、気になる噂話を耳にしたらしい。

 聖都から馬車で三時間ほどの距離にある、街〝ピアニー〟で子どもが行方不明になる事件が起きているのだとか。

 次々と子どもが姿を消しているのに、騎士隊はおろか、ギルドすらも調査に乗り出していないらしい。

 なぜ、そのような事態になっているのか。

 魔王が関わったことにしか興味を示さない勇者様が人助けなんて……と思ったが、彼はこの事件を、魔王と関連あるのではないか、と推測しているようだ。 

 勇者様は大森林での捜索で疲れていたようで、歩いて移動することを拒否したのだ。

 乗車賃は勇者様のご実家が払うので、ぜんぜん問題ない。

 なんていうかこう、物語に登場する勇者は地道に歩いて魔王城を目指し、道中に遭遇したモンスターを倒して回っていた。

 対価なくモンスターを退治し、国民の心に安寧を与える様子が、尊敬と希望を集めていたのだ。

 この勇者様ときたら、そういう勇者的模範行動はいっさいしない。

 まあ、だからこそ私は旅を続けていて楽ができているのだが。


 馬車は乗り合いのものでなく、貸し切りだ。

イッヌは勇者様の膝に頭を預けて眠り、ぶーちゃんは私の足元に転がっている。

 勇者様は腕を組み、長い足を存分に伸ばしていた。

 珍しく眉間に皺を寄せ、何か考え事をしているようだ。

 こういうときの勇者様に絡まれたくない。

 眠っているフリをしておこうと目を閉じようとした瞬間、勇者様は私に話しかけてきた。


「おい、魔法使い」

「すみません、今眠っています」

「眠っている者が言葉を返すわけがないだろうが!」

「寝言なんです」


 私の言い訳なんぞ勇者様はさらーっと聞き流し、自分が言いたいことを勝手に話し始める。


「世界樹の問題とやらは、偽物勇者が解決したのか?」

「ええ、そうですよ」


 眠っているフリを続けながらも、答えてあげる。


「どのようにして解決させていた?」

「さあ、よくわかりません」

「お前は、まったく役に立たない」

「恐縮です」


 ぼんやりしているうちに殺され、目覚めたら解決していたので、面白くなかったのだろう。


「人はいたか?」

「え?」

「私や回復師がやってきたとき、世界樹の根元に人影があったのだ」


 人がいただって? そんな話は聞いていない。


「まさか、世界樹のもとへ駆け寄ったのは、その人を確認するためだったのですか?」

「ああ、そうだ」


 けれども近付いた瞬間、忽然こつぜんと消えてしまったらしい。


「もしかして、それって魔王だったんじゃないですか?」

「魔王? そんなはずはない。魔王は竜みたいな姿をしているのだろう?」

「たしかによく見かける魔王の絵画は、そのように描かれていますが」


 時代によって魔王の姿は大きく異なっている。

 竜の姿だったり、八つに頭がわかれたヘビの姿だったり、巨大な鳥の姿だったり。

 いすれにしても、モンスターを凶悪化させたような姿だった。


「人の形をした魔王だなんて、聞いたことがないぞ」

「うーーーーん」


 魔王でなかったら、いったい誰が世界樹のもとへやってきていたのか。

 謎でしかない。

 

「勇者様、目撃した人の特徴など、覚えていますか?」

「いや、世界樹の周囲は霧がかっていて、人の姿もおぼろげだった。男か女かですらわからないくらいだ」

「なるほど」


 世界樹を守護するメルヴの可能性もある。

 けれどもメルヴは植物系の大精霊で、大根ラディッシュに似た姿だと賢者から教えてもらった。人型なわけがない。


「わからないことを考えるのは無駄だ。忘れろ」


 勇者様のほうから言いだしたのに、これである。

 まあ、たしかに考えても仕方がないことなので、心の隅に押しやっておいた。


 馬車は順調に進んでいるようだったが、ガコン! と音を立てて大きく揺れる。

 御者の悲鳴が聞こえ、馬車が急停車した。

 これまで眠っていたイッヌは飛び起き、寝転がっていたぶーちゃんは警戒態勢を取る。


「なんだ!?」


 勇者様が御者に繋がる窓を広げ、問いかける。


「モ、モンスターの襲撃です!」

「なんだと!?」


 この馬車はモンスター避けの魔法がかけられていて、聖都いち安全な馬車だと謳っていた。まさか、乗車して一時間と経たずに襲撃を受けるなんて。


「お、お助けを……!」

「仕方がない奴め」


 勇者様はやれやれといった感じで馬車から下りる。

 馬車に襲いかかっていたのは、トレントという木の形をしたモンスターであった。

 パッと見た限り普通の木にしか思えない。けれどもよくよく観察すると、赤く光る目や魔女のような鷲鼻、大きく裂けた口などが確認できる。トレントは森の木々に混ざって、油断しているところを襲う狡猾こうかつなモンスターなのだ。

 トレントは木の枝を鞭のように伸ばし、車輪に絡みついていた。

 すぐに、勇者様が反応する。


「こしゃくな奴め!」


 勇者様は金ぴか剣を抜くと、枝を切り離す。


「おい、魔法使い! 相手は植物系のモンスターだ。お前の魔法が通用するはずだ」


 やれ! と悪の親玉のように命令してくれる。

 いやいやしぶしぶ外にでた私だったが、その瞬間にトレントの枝が伸びてきた。


「あ!」


 どんくさい私はすぐに足元を掬われ、トレントの枝が巻きつく。


「うあああ!」


 そのままズルズル引きずられ、トレントに抱かれるような体勢となる。

 そして――。


「ああああああああ!!!!」


 全身がびりびり痺れ、だんだんと力が奪われていく。

 これは植物系のモンスターが使う強制吸引インバイブだろう。


 魔力を根こそぎ奪われ、私はあっけなく息絶えてしまった。

敵:トレント

死因:魔法使い→才能ギフト強制吸引インバイブによる魔力の枯渇死

概要:才能ギフト強制吸引インバイブ・・・攻撃対象を捕らえ、動けない状態にしてから魔力を搾り取る恐ろしい技。

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