これまでのお話
優秀な回復師を追放した勇者パーティーは、死んで、死んで、死にまくった。
勇者様の実力の九割は回復師のサポート魔法のおかげだったようで、戦力はガクッと落ちる。呆れるくらい、弱体化してしまったのだ。
さらに、旅の快適さも著しく低下していった。
毎回温かい料理を食べていたのに、まずい干し肉や革臭い水を飲まなければならなくなり、野宿は地面を布団に眠るという最低最悪な環境に変化した。
勇者様はぶち切れ、やってられないと憤る。
これまで提供されていたもののすべてが、回復師の働きによるものだと気付いていなかったらしい。
勇者様がバカでよかった……と思った瞬間である。
私も相当なバカなので、私達はある意味お似合いのパーティーメンバーなのだろう。
そんなバカ丸出しの私達に、仲間ができた。
まず、勇者様が魔物使いから買い取ったイッヌ。
彼は長い間売れ残っていたフェンリルで、破格の値段で契約できたようだ。
勇者様は巨大なフェンリルに跨がり、魔王を討伐することを夢見ている。
けれどもイッヌは、〝ミニチュア・フェンリル〟という、大きくならない種族だったようだ。
そうとは知らずに、勇者様はイッヌを溺愛している。
次に仲間になったのは、黒い子豚のぶーちゃんである。
勇者様はモンスターを食べて死んでしまったことをそれなりに反省し、食料を持ち運ぶことに決めた。
そのさいに、市場で売られていたぶーちゃんを非常食として連れ歩き、大きくなったら食べると決めたようだ。
黒い子豚なんて珍しい。なんて思い、千里眼で調べたところ、とんでもない情報を知ってしまう。
ぶーちゃんの正体は、聖猪グリンブルスティ。
神々が騎乗していた、神聖なる猪だったのだ。
そうとは知らず、勇者様はぶーちゃんを非常食として連れている。
回復師の代わりに二匹の仲間を迎え、今日も私達は仲良く戦闘不能となっている。
以前と異なる点は、死んでもイッヌやぶーちゃんが教会に連れて行ってくれることか。
死体を略奪者に回収されたら金品を盗まれてしまうのだが、パーティーメンバーが連れて行った場合は教会から寄付を求められる。
どちらにせよ対価が必要になるわけだが、自らの意思で払うほうがいくぶんかはマシなのだ。
さらに、衝撃の出会いを果たす。
本物の勇者様に出会ってしまったのだ。
勇者様(本物)は驚くほど勇者様そっくりな女性だった。
心優しく、勇敢で、強い。
物語に登場する勇者そのものの姿だったのだ。
勇者はこうでなくては、を具現化したような人物である。
そんな彼女と行動を共にするのは賢者だった。
相手を威圧するような態度を見せるものの、勇者様(本物)には甘い顔を見せる。
なんともかわいらしい女性であった。
賢者は齢二百歳以上のハイエルフで、知識が豊富で実力も確かだった。
勇者様(本物)のパーティーメンバーとして相応しい人物だったのである。
そんな勇者様(本物)の一行に、驚きのメンバーがいた。
勇者様が追放したはずの回復師がいたのである。
なんでも彼女は勇者様が転移の魔法巻物で飛ばされた先で、勇者様(本物)一行に出会ったらしい。
強力なモンスターとの戦闘中で、勇者様(本物)と賢者をサポートしたことから、パーティーメンバーとしてスカウトされたようだ。
回復師については忘れよう、忘れようと考えていた。
けれどもふいに思い出して、心が痛んでいたのだ。
勇者様(本物)のパーティーメンバーに加入したと知り、ホッと胸をなで下ろす。
補欠の勇者様と一緒に旅をするよりも、本物の勇者様といるほうがいい。
追放することによって、正しい状態へ導けたのだ。
あとは、本物の勇者様が魔王と戦って、補欠の勇者様がその能力を引き継ぎ、魔王となった私を倒してくれたらすべてが終わる。
私は役立たずではなくなるというわけだ。
一刻も早く、それが叶いますように。
そう祈らずにはいられなかった。
◇◇◇
聖都に行き着いた私達は、モンスターの凶暴化について調査していた。
大森林にある世界樹に異変があるのでは、と推測し、さっそく調査を始める。
そこで勇者様と離れ離れになったり、回復師とはぐれた勇者様(本物)一行と合流したり、といろいろなことがあった。
結局、世界樹は魔王の闇魔法により力が奪われ、枯れかけていた。
さらに奪った力でモンスターを強化していたようだ。
勇者様や回復師も世界樹のもとにいたものの、ふたりともすでに死んでいた。
勇者様(本物)や賢者も、魔王が仕込んだ闇魔法を前に倒れてしまう。
ぶーちゃんも真なる姿を解放し、果敢に戦ってくれたものの、殺されてしまった。
人の目がなくなった私は、因果応報の才能を使って魔王の闇魔法に討ち勝つ。
黒い蔓に囚われていた世界樹も解放し、活躍のすべては勇者様(本物)に押しつけた。
これにて、一件落着というわけである。
唯一生存していたイッヌに因果応報を見られてしまったものの、彼は黙っていてくれるだろう。
無事、モンスターの凶暴化について解決したので、私と勇者様は次なる街を目指すのだった。




