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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第五章 彼女の瞳が虚ろな理由

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55/90

回復師を追放する!

 私は勇者様に頼みこみ、パーティーメンバーの一員にしてもらった。

 勇者様は難色を示したものの、回復師が仲間はひとりでも多いほうがいいと言ってくれたのだ。

 勇者様は優秀な魔法使いに会うまで、と条件を付け、旅の同行を許可してくれた。

 彼らには私が大噴火イラプションのみ使える魔法使いマジシャンだと伝えてある。

 これまでさんざん利用されてきたので、自分自身について詳しく語って聞かせるつもりはなかった。


 逆に、彼らを利用してやる。

 そういう心積もりで、魔王討伐の旅に同行することになった。


 旅をする中で、勇者様の人となりを知る。

 生まれたときから裕福で、衣食住、困ったことなど一度もないからか、態度に余裕があった。その様子は時に、傲慢ごうまんにも見える。

 おそらく「ありがとう」なんて言葉は教えてもらわなかったのだろう。

 回復師が何をしても当然、とばかりの表情で受け入れているのだ。

 物語に登場する勇者は皆心優しく、パーティーメンバーを大切にしていた。

 目の前の勇者様とは真逆の人格者だったのだ。

 彼は補欠勇者なので、お人柄とやらは期待しないほうがいいのかもしれない。

 実力はそこそこあるようだが、それも回復師のサポート魔法ありきのような気がする。

 聖女である彼女の魔法はどれも強力で、中でも回復魔法はレベルが高い。

 彼女と旅をしている限り、勇者様は安泰あんたいなのだろう。


 回復師は勇者様だけでなく、私にまでよくしてくれた。

 私の歩みが遅れているのに気付くと休憩を提案してくれたり、好物を聞いて夕食に作ってくれたり、寒い夜は体を温めてくれたり……。

 回復師は聖女に相応しい、慈愛に満ちた人物だった。

 彼女と過ごすうちに、私自身が穏やかになっていくのを感じていた。

 この世界も悪くない、と思うようになっていったのだ。


 回復師に一度だけ質問したことがある。

 なぜ、他人にそこまで優しくできるのか、と。

 回復師はやわらかな微笑みを浮かべ、答えてくれた。


「これまで人から優しくしてもらった分を、同じように返しているだけだよ。みんながそうしていたら、すてきな世界になると思わない?」


 他人に優しくしよう、だなんて思ったことなど一度もない私にとって、衝撃的な話であった。

 私も彼女みたいに誰かに手を差し伸べることなんてできるのか。

 そんな疑問を投げかけると、回復師は「できるよ、きっと」と言ってくれた。


 回復師の存在は、私に大きな影響をもたらす。

 彼女と過ごすうちに、いつの間にか死について考えなくなっていたのだ。


 もしかしたら、死を選ぶ以外の未来があるのかもしれない。

 そんな希望が、私の中に生まれていた。


 勇者様や回復師と魔王を倒したあとは、英雄のひとりとして認められるだろうか?

 価値のない存在だと、ささやかれることもなくなるだろうか?


 魔王さえ倒せば――。

 前向きな私に、後ろ向きな私が低い声で囁く。


 魔王なんて倒せるわけがない。

 封印するのがやっとだろう。

 今はよくても、数百年後にまた魔王は復活するのだ。

 それでは意味がない。

 命と引き換えに、私にしかできないことをやるべきなのだろう。


 このままではいけない。

 回復師と一緒にいたら、私の決意が揺らいでしまう。

 勇者様のパーティーから離れたらいいだけの話だが、それだと魔王に会える気がしない。

 悩みに悩んだ結果、私は回復師をパーティーから追放させる計画を立てた。


 それは赤子の手をひねるよりも簡単なことである。

 勇者様に回復師の悪口を言うだけだったのだ。


 回復師とずっと旅を続けていた勇者様だったが、私の言う話をあっさり信じてしまった。

 もちろん、回復師についての悪口は嘘である。

 チクチクと心が痛んだが、魔王を倒すためだと自分自身に何度も言い聞かせた。

 そうとは知らず、回復師は私に優しかった。

 彼女が私の様子がおかしいと気付いたときには泣きそうになる。

 もう涙なんて、枯れ果てていたと思っていたのに。

 回復師が少し休憩しようと提案した先で、勇者様が行動を起こした。


「役に立たん回復師よ! お前を私のパーティーから追放する!!」


 ついに、ついに勇者様は言ってしまった。

 回復師の追放を宣言してしまったのだ。

 ここから逃げ出したくなるが、しっかりと見届けないといけない。

 私が計画したことだから。


 すぐに頭の中を切り替える。

 私は何も知らない、勇者様のことを「バカだな」と思っている魔法使いだ。

 計画については一時的に頭の中から消しておく。

 あとは勇者様の決定に呆れながらも、彼に助けてもらった恩返しのためだと言い聞かせ、旅に付き合うばかりだ。


 そんなことを考えているうちに、勇者様は回復師を追放してしまう。

 彼女は転移の魔法巻物を使ってどこかへ飛ばされてしまった。

 回復師に対して、恩を仇で返してしまった。

 私は受け取った優しさを、返すことはできなかったのだ。

 良心はここで捨ててしまおう。これからは世界に必要な歯車のひとつとして、生きる決意を固めたのだった。


 勇者様は私を振り返る。回復師の不在がいかに大変なことなのか、気付いていない表情であった。

 本当に、人の心がない……。だからこそ、補欠勇者としての適正があったのかもしれないが。

 勇者様は私に向かって、尊大な様子で言った。


「さあ、魔法使いよ。魔王討伐の旅を再開しようか」


 勇者様は始まりの言葉を口にしたが、私は終わったな、と思う。

 これから先、回復師なしで旅が続けられるわけがないのに。


 そんなわけで、勇者様とのふたり旅が始まってしまう。

 泥船に乗った気持ちで、一歩、一歩と前に進んだのだった。

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