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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第五章 彼女の瞳が虚ろな理由

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魔王出現!

 それから私は生きることに対して後ろ向きになってしまった。

 あれだけ楽しみだった一日三回の食事も、おいしく感じなくなったのだ。

 眠れない夜が続き、モンスターの討伐にも失敗する。

 旦那さんから貰ったお金も尽きかけ、自暴自棄になった。


 モンスターの襲撃を受け、首筋を噛みつかれた瞬間、もういいや、と思ってしまう。

 これ以上頑張っても、意味なんてない。

 死んだほうがマシだ。

 そんなふうに考えていた。


 死んだら何も考えずに済む。

 死こそ私にとっては救いなのだ。


 ただ、私の才能ギフト因果応報アンチ・カルマが死なせてくれなかった。

 望んでいないのに反回復魔法アンチ・ヒールが発動し、私の傷はきれいさっぱり治ってしまうのだ。


 それでも、私の命が尽きれば反回復魔法アンチ・ヒールは使えないはずだ。

 確信を持って私は挑んだが、何度死んでも傷は回復してしまう。


 私の心はあっさり折れた。

 多くの痛みを知るにつれて、自ら死を選ぶことを恐ろしく感じるようになってしまったのだ。


 死すら選べないなんて、私の人生は本当に惨めである。

 どうしたものか、と考える私の耳に、ある噂が流れてきた。

 それは、魔王の出現である。

 ここ最近、モンスターが多くなっているな、と不思議に思っているところだったのだ。

 まさか、魔王が復活していたなんて。


 数百年に一度しか現れないのに、同じ時代に生まれてしまうとは、なんとも不幸であった。

 おそらく勇者がいるだろうから、魔王の討伐は任せよう。

 このときの私はのんきに考えていたのである。


 日に日に、魔王の存在は人々の中で濃くなりつつあった。

 今日も隣国から輸入した食品を運ぶ貿易船がモンスターの群れに襲われ、市場の野菜の価格が上がった、なんて話を食堂で耳にする。

 その影響で、食堂の日替わり定食の価格が上がっていたのだ。

 魔王の襲撃を受けた街から民が押しかけ、宿はどこも満室。

 あったとしても、貴族が利用するような高級宿ばかりだ。

 衣服もモンスターの討伐を行う騎士や傭兵団の者達へ優先して提供しているため、商店に並ぶ品は粗悪品が溢れているという。

 こんなふうに、生活にも魔王の影響が及んでいた。


 早く勇者がどうにかしてくれないか。

 などと他人事のように考えていたのがよくなかったのだろう。

 うっかり死んでしまった先で、私は勇者様に出会ってしまった。


 彼は道行く先で気まぐれに私を助け、教会へ連れて行ってくれたのだ。

 勇者様は眩いばかりの金ぴかの鎧に、それに負けないくらいの美しく華やかな容貌を持っていた。

 そんな彼は千里眼を使わずとも、自らを勇者様だと名乗った。

 同じく一緒に行動していた回復師ともここで出会う。

 彼女は尊大な態度を見せる勇者様をたしなめめつつ、優しく声をかけてくれたのだ。

 ふたりは魔王を倒すために旅をしていた。

 勇者様の発言があまりにも酷いので、私は千里眼を使って本物かどうか調べてみる。

 すると、とんでもない情報を目にしてしまった。


 固有名ネームド:勇者(補欠)

 才能ギフト勇敢なる者バリアント(仮)

 年齢:十九

 身長:百八十八

 瞳:緑

 髪:金

 装備:金の鎧ゴールデン・アーマー金の剣ゴールデン・ソード 


 勇者は勇者でも補欠!

 どうやら彼以外に、本物の勇者がいるらしい。

 それに目の前の勇者様は気付いていないようだ。


 この回復師もきっと把握していないのだろう。お気の毒に……。

 ついでに、彼女についても調べてみる。


 固有名ネームド:聖女

 才能:聖なる者セイント

 年齢:二十

 身長:百六十五

 瞳:青

 髪:茶

 装備:聖なる杖セイント・ロッド


 勇者様が偉そうに「回復師!」と呼んでいた彼女は、聖女だった。

 聖女は魔王との戦いに欠かせない存在だ。

 そんな聖女がなぜ、補欠の勇者様となんか行動を共にしているのか。

 理解に苦しむ。


 混乱状態の私に、回復師は優しく話を聞いてくれた。

 ひとりで旅をしていると言うと、目的地の近くまで一緒に行かないか、と提案する。

 勇者様は「何を言っているのだ!」と抗議していたが、回復師はそのほうがいいと勧める。

 初対面である私をここまで心配してくれるとは、彼女は根っからの聖人に違いない。

 ここでふと、気付く。

 もしかしたら魔王であれば、私を殺してくれるのではないか、と。

 殺せなかったとしても、魔王が私を手にかけたら、因果応報アンチ・カルマが作用し、才能ギフトを奪うだろう。

 そうすれば私は魔王となり、勇者様の討伐対象となるのだ。

 仮に本物の勇者様が魔王に倒されても、補欠の勇者様がいる。

 なんでも本物の勇者様が死んだ場合、才能ギフトは補欠の勇者様のものになるらしい。

 本物の勇者様の才能ギフトを取り込んだ補欠の勇者様ならば、魔王を倒してくれるだろう。

 魔王となった私が死んだら、この世界は本当の意味で救われる。

 私も他人の役に立てるのだ。

 そんなわけで私は補欠の勇者様と、実は聖女な回復師と共に旅を始める。


 勇者様は大貴族の息子で、旅なんかできるのか疑問でしかなかった。

 けれども、彼がどうやって冒険してきたか理解することになる。


 休憩中、回復師がいそいそと敷物を広げ、お茶やらお菓子やらをどこからともなく取り出す。

 どうやら彼女は収納魔法を習得しているようで、冒険中であるにもかかわらず、たくさんの荷物を所持しているようだ。

 まさか旅の途中で、温かいお茶とおいしいお菓子が堪能できるなんて、夢にも思っていなかった。


 お昼時になって勇者様が「空腹だ」と言えば、回復師が食事を作ってくれる。

 濃厚なシチューに、ふわふわのオムレツ、焼きたてのパンケーキに、カリカリの揚げパン。

 旅先で食べるような物ではない料理もでてきて、お腹を満たしてくれるのだ。

 さらに夜になると、寝泊まりできるテントも用意してくれる。

 中にはふかふかの布団があって、熟睡できるのだ。

 これが世間知らずとしか思えない勇者様が、旅を続けられた理由であった。

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