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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第五章 彼女の瞳が虚ろな理由

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旦那さんの想い

 手紙の始めのほうには、家庭の問題に巻き込んでしまったことに関する謝罪が書かれていた。

 なんでも夫人は石化させる才能ギフトについて隠していたようだが、旦那さんは知っていた。

 旦那さんは〝千里眼クレアボヤンス〟と呼ばれる、さまざまなものを見抜く才能ギフトを持っていたらしい。

 石化を受け入れていたのは、家庭を顧みなかった自分自身の罪だと考え、死を受け入れていたようだ。

 なぜ、そこまで犠牲にできるのか。

 その理由についても、書かれてあった。

 旦那さんは夫人を深く愛していたようで、これが彼女の愛なのだと信じていたようだ。

 旦那さんの石化が進み、亡くなったあと、私が殺されるだろうことも予想していた。それを言わなかったのは、理由があったようだ。

 旦那さんは私の才能ギフト因果応報アンチ・カルマにも気付いていた。

 夫人の殺意について忠告しなければ、旦那さん自身も殺人に加担したことになる。

 すなわち、旦那さんが死んだあとの才能ギフトを私が奪う形になるのではないか、と考えたようだ。

 一緒に死のうと言っていたのは、忠告のつもりだったらしい。

 私の命が危ないと告げるわけにはいかないので、命について危機感を覚えてほしいと考えていたようだ。

 赤の他人である私に、ここまでしてくれるなんて……。

 旦那さんは私に、千里眼クレアボヤンスを遺してくれた。

 手紙の最後には、きっと役に立つだろうと書かれてある。

 千里眼を意識すると、目の前に文字が浮かび上がった。


 私を焼き殺そうとした〝大噴火イラプション〟。

 それから私の生命と引き換えに、自身の傷を回復させた〝反回復魔法アンチ・ヒール〟。

 燃え上がる火の勢いを大きくしてくれた、〝暴風ストーム〟。

 止めだとばかりに、雨のように全身を打ち付けた〝雷撃ライトニング〟。


 私はこれらの才能ギフトを習得しているようだ。

 まさか、複数の才能ギフトを得ていたとは。

 施設で空っぽエンプティになった者達が複数いた理由を今になって理解した。

 私は彼らから、才能ギフトを奪ったのだ。

 

 それにしても、付与されたのは回復系の才能ギフトだと思っていたのに、間違いだったなんて。

 老夫婦のご主人に回復魔法を使ったとき、具合が悪くなったのは、自分の命と引き換えに魔法を使ったからなのだろう。

 それ以外にも、私は何度か死にかけの状態から自分自身に反回復魔法アンチ・ヒールを使っている。

 死んで生き返ることを繰り返していたら、いつか命が尽きてしまうだろう。

 使用するときは気をつけないといけない。


 旦那さんの遺書には、寝台の下に隠してある金貨を持っていっていいと書いてあった。

 そこにはしばらく遊んで暮らせるほどのお金が隠されていた。

 お言葉に甘えて、いただくことにする。

 他に服や食料などを拝借し、私はお屋敷をあとにしたのだった。


 ◇◇◇


 それからというもの、私はたったひとりで世界を当てもなく歩き回った。

 才能ギフトさえあれば、幸せに暮らせる。

 そう信じていた過去の私を叱り飛ばしたい。

 人はたとえ才能ギフトを持っていても、豊かな暮らしを送れるとは限らないのだ。

 才能ギフトを持つ者同士でも差別は存在していて、人は平等でないことは明らかだった。

 弱い者、立場がない者、お金がない者は見下され、爪弾き者にされる。

 そんな者達が唯一見下せるのが、空っぽエンプティの者達だった。

 彼らと接するときだけ活き活きとする人達が存在し、迫害することで自尊心を保っているように見えた。

 なんてくだらない世界なのか。

 人間達がもともとは悪しき神々だったというのも頷ける。

 空っぽエンプティの者達を助けたい気持ちはあったものの、私自身の立場も弱い。

 まとめて攻撃対象になるのは目に見えていた。


 この世界の異物として認識されないよう、目立たずに生きるので精一杯だった。

 モンスターを倒して報酬を貰い、なんとか三食食べ、治安が悪くない宿に身を寄せる。

 そんな暮らしに心が満たされるわけがなく、ある日の朝、私は気付いてしまう。

 今の私は、世界に生かされているだけのちっぽけな存在である、と。

 私は世界にとって、小さな歯車なのだろう。

 ヒビが入って壊れても、変わりの歯車が差し込まれる。

 いても、いなくても誰も困りやしない。

 なんて不幸な人生なのだろうか。


 そう思った瞬間、ふいに両親の言葉が甦ってくる。


「――この、役立たずめ!!」


 本当に、そうだと思った。

 私はどうしようもないくらいに、役に立たない人間だったのだ。

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