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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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47/90

魔法使いが補欠勇者と共にいるわけ

「あのー、喜んでいるところに水を差すようなことを言ってしまい、申し訳ないのですが、まだ他にも死んでいる人がいまして」


 それを聞いた回復師はハッとなり、周囲を見渡す。


「ああ、勇者さん! 賢者さん! それと、隣に横たわっている巨大な黒猪くろいのししは?」

「ぶーちゃん、私達の味方です。一緒に蘇生してくれると嬉しいのですが」

「わかった。任せて」


 回復師は勇者様(本物)と賢者、ぶーちゃんのもとへ駆け寄り、死者蘇生を施してくれる。


「おい、魔法使いよ。あの大きな黒猪がぶーちゃんというのは本当か?」

「本当です」

「どうしてああなった?」

「さあ? 大森林の豊富な魔力にさらされて、急成長したのでは?」

「なるほど」


 あっさり納得してくれたので、ホッと胸をなで下ろす。

 聞き分けがいい勇者様で本当によかった。


「それはそうと、回復師が勇者と言って駆け寄っていった女は何者だ?」

「あーー……」


 面倒な事態になってしまった。

 本来ならば、勇者様と勇者様(本物)は、出会ってほしくなかったのだが。


「聞き間違いでは?」

「そうだろうか?」


 納得しかけていたのに、回復師が大きな声で勇者様(本物)に声をかける。


「勇者さん! 今すぐ蘇生させてあげるからね!」


 それをしっかり聞いてしまった勇者様は、私に疑惑の視線を向ける。


「おい、やはり勇者だと言っているぞ! いったいどういうことなんだ?」

「いや……どう、なんでしょうねえ」

「あの女、もしや、勇者の名を騙っていたというのか?」


 勇者を騙っているのは、今のところ勇者様のほうです。

 なんて、口が裂けても言えない。


 蘇生された勇者様(本物)のもとに、勇者様が向かおうとする。

 そんな彼の腕を掴んで妨害した。


「魔法使い、何をする!?」

「ケンカはよくありません!」

「ケンカではない。勇者を騙るあの女の呆れた根性を正そうとしているだけだ!」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ」

「待たない!!」


 勇者様を止める振りをしつつ、私は鞄を探っていた。

 転移の魔法巻物を握り、勇者様の鎧にばちん! と貼り付ける。


「勇者様はお疲れでしょうから、先に聖都に戻っていてください!!」

「は!?」


 勇者様が次なる一言を口にする前に、転移していなくなる。

 これで静かになった。ホッと胸をなで下ろした。

 置いていかれたイッヌは混乱していたようなので、彼にも転移の魔法巻物を貼り付けてあげる。

 一緒に私とぶーちゃんの帰りを待っていてほしい。


 蘇生した勇者様(本物)と賢者は、ぼんやりしていた。

 状況を上手く理解していないようだ。

 ぶーちゃんだけは私のもとにやってきて、嬉しそうにぴいぴい鳴いていた。


「勇者さん、賢者さん、大丈夫?」

「回復師か……」

「なんだか頭がズキズキするわ」


 蔓はどうしたのかと聞かれ、回復師はハキハキと答える。


「勇者さんが倒したと魔法使いさんから聞いたんだけど」

「私が?」

「そんなわけないじゃない」


 皆の視線が私に集まる。

 あらかじめ用意していた言い訳を口にした。


「蔓が勇者様(本物)の魔力を吸収するなり、苦しみようにのたうち回り始めまして、最終的に消えてなくなりました」

「勇者の魔力に拒絶反応を示したってこと?」

「おそらくそうかと」


 苦し紛れのように思っていたものの、追及されずにホッと胸をなで下ろす。


「あの、勇者様は先に聖都に戻られたようなので、私はここで失礼します」

「魔法使い殿、もう少し話を」

「またどこかでお会いできたら、ゆっくり話をしましょう」


 もう二度と、勇者様(本物)に会いませんように。

 そう願いながら、ぶーちゃんと共に魔法巻物を使って転移する。

 

「ちょっと待――」


 勇者様(本物)が私に触れるよりも先に、転移魔法が発動した。

 ぶーちゃんと私は一瞬にして、聖都へ戻ったのだった。


 ◇◇◇


 勇者様は教会で待ち構えていて、私を見るなりズンズンと迫ってくる。


「おい、魔法使い! あの偽物勇者はどこに行った!?」


 本物の勇者様を偽物扱いするなんて、とんでもない男である。

 まあ、知らないというのは幸せなことなのだろう。


「あの女、勇者を騙っているなんて、けしからん奴め! 今すぐにでも止めさせないといけないのに」

「まあまあ」


 ふたりの勇者様には、魔王と対峙するまでどうにか生き残ってもらわなければならない。

 どちらかが旅を諦めるというのも、あってはならないことだろう。


 でないと、私の〝望み〟は叶わないから。

 

「勇者様、絶対に魔王のもとまで行きましょうね」

「当たり前だ」


 この勇者様と共に魔王のもとに行き、私は魔王の唯一の才能ユニーク・ギフトを奪う。

 魔王の力のすべてをこの身に宿らせた私を、勇者様が殺すのだ。

 そうすれば、魔王は二度とこの世界に現れることはなくなる。

 あまり知られてはいないが、これまでの勇者は、魔王を倒していない。封印していただけだったのだ。

 魔王が死んだら、本当の意味で世界は救われるのだ。


 役立たずだと罵られた私が唯一、役に立てることだろう。

 本物の勇者様が魔王に殺されても、補欠の勇者様がいる。

 情なんて欠片もない勇者様は、躊躇うことなく私を殺してくれるだろう。


 それが、私がこの勇者様と一緒に行動を共にする理由だった。

今回の更新で第一部が完となります。次回以降は二部です。

続きが気になる方は、ブックマーク登録いただけたら嬉しいです。

もう一点、お願いがございまして……。

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どうぞよろしくお願いいたします。

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