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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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生き返った回復師

 イッヌは勇者様の生首と再会したようだが、喜んでいいのか悪いのか、といった様子を見せていた。

 さらに、生首と体、どちらの傍にいるべきか迷っているようで、生首と体がある場所を行ったり来たりを繰り返している。

 遺体の様子から、おそらく死後数時間、といった感じだろう。蘇生も可能なはずだ。たぶん。


 ひとまず、回復師を蘇生させなければ。

 彼女は外傷などまったくないので、すぐに生き返らせることが可能だろう。

 まずは回復師の瞼をこじ開け、白目にレイズ点薬を打ち込んだ。

 すると、瞳に魔法陣が浮かび上がり、ぱちんと弾ける。

 

「うう……」


 回復師はもぞりと身じろぎ、瞼を開いた。


「あ――ここは?」

「世界樹の根元です」

「魔法使いさん!」


 回復師は勢いよく起き上がったが、生き返ったばかりだからか頭が痛んだようだ。


「蘇生後はあまり激しく動かないほうがいいかと」

「蘇生? 私は、死んでいたの?」

「ええ。死んだときの状況を、覚えていないのですか?」

「覚えて……覚えてる」

「ここまで、勇者様と来たのですか?」

「そう。彼と偶然会って、魔法使いさんと落ち合うために、世界樹を目指したんだ」


 やはり、勇者様の中に私を捜すという選択肢はなかったようだ。想像通りである。


「勇者様と会って、行動を共にすることにして、世界樹のもとに辿り着いた、と」


 回復師は神妙な面持ちで頷き、記憶を辿るようになぜ死んでしまったのか口にする。


「最初は世界樹に異変はなかったんだ。けれども彼が世界樹の幹に触れた途端、黒い蔓が現れて――」


 勇者様は瞬く間に蔓に拘束されてしまったという。

 

「守護魔法で蔓を弾き飛ばそうとしたけれど、詠唱が間に合わなかったんだ」


 回復師も蔓に囚われ、身動きが取れなくなってしまう。

 勇者様は暴れたからか、蔓が首を絞め落としてしまった。さらに体はどこかに連れて行かれてしまう。

 勇者様の首のみ隣に並んだ状態で、回復師は命が尽きるまで魔力を奪われてしまったようだ。


「私が魔力を失うたびに蔓がどんどん成長していって、世界樹を締めつけて、怖かった」


 回復師は血の涙を流しながら、世界樹が弱っていく様子を見ていたという。

 蔓は以前からあったものかと思っていたが、違ったようだ。

 おそらく、勇者様と回復師の魔力を利用し、あそこまで成長したのだろう。


 ただ、蔓が自然に発生したものとは思えない。

 誰かがあらかじめ、魔法を仕掛けていたのだろう。


「この蔓は魔王の仕業なのでしょうか?」

「おそらく、そうだと思う。私達の命を利用し、世界樹の魔力を奪うなんて――」


 と、ここで回復師がハッとなる。


「蔓はどうなったの?」

「勇者様(本物)が倒しました」


 そういうことにしておく。勇者様(本物)は死んでいるけれど、まあ、なんとか誤魔化せるだろう。

 勇者様と聞いて、首と体が離ればなれになったほうを見る。


「あの、そっちの勇者様ではなくて――」


 回復師は勇者様の遺体に気付き、血相を変える。


「そ、そうだ! 彼を、早く回復させないと!」


 回復師は勇者様の体のほうへ駆け寄る。状況を察したイッヌが、勇者様の生首を運んできてくれた。


 回復師は手を差し伸べ、回復魔法を唱える。

 けれども勇者様はすでに死んでいるので、効果があるはずがなかった。


「回復師様、勇者様はお亡くなりになっています。普通の回復魔法では、治りませんよ」

「そう、だった」


 ここで、回復師から「私はどうやって生き返ったの?」と聞かれる。


「回復師様にはレイズ点薬を使いました」

「だったら勇者にも――」

「いいえ、使えません。レイズ点薬は損傷が少ない遺体にのみ使えるものですから」


 勇者様を生き返らせるためには、聖司祭が使っているような死者蘇生レイズデットしかない。


「では、教会に連れていかないと」

「いいえ、あなたは勇者様を生き返らせることができます」

「え?」


 彼女は自分が聖なる者セイント唯一の才能ユニーク・ギフトを持っていることに気付いていない。

 おそらく、彼女の才能ギフトを調べた聖司祭も気付いていなかったのだろう。


「死者蘇生なんて、聖司祭しか使えないはずなのに」

「できます。一度でいいので、試してみてください」


 回復師は信じがたい、という表情を浮かべつつ、死者蘇生を試してみる。


「――神よ、迷える者を救い給え」


 自信なさげな表情だったものの、彼女がかざした手の前に白く輝く魔法陣が浮かび上がる。

 勇者様の体は光に包まれていった。

 光が収まると、首と体が離れていたはずの勇者様が、元の姿に戻っていた。

 回復師は勇者様の首筋に手をあてて、きちんとくっついているか確認する。

 さらに、脈も調べているようだ。

 

「う、嘘でしょう!?」


 そんな声に、勇者様が反応を示す。


「うるさいな! 寝ている者の耳元で叫ばないでくれるか?」


 勇者様はカッと目を見開き、起き上がりながら文句を言ってくれる。

 回復師は涙を流しながら、勇者様に抱きついていた。

 イッヌも勇者様に飛びつき、喜びを全身で表す。


「うわ! お前達、何をするんだ!」

「もう、ダメだと思っていたから!」

「何を言っているんだ。この私がダメになるわけがないだろうが!」


 生首を晒し、体が行方不明になっていた者の台詞ではないだろう。

 見事、生き返った勇者様を、私は冷めきった目で見つめていた。

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