表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/90

世界樹は間近!

「そういえば、先ほどの大噴火イラプションは見事だった」


 突然勇者様(本物)から褒められ、なんとも言えない気持ちになる。


「さすが、孜孜忽忽ししこつこつ才能ギフトから繰りだされる魔法だ」


 何やら難しい言葉で褒めてくれているようだが、意味はよくわからない。


「あなたの作戦には脱帽したわ。まさか、湖の底で大噴火イラプションを使って、セルキーをやっつけるなんて。私達ではとても考えられないことだったわ。よく、とっさに思いついたわね」

「あれは、焼き石を使った漁から着想されたものなんです」


 石を高温になるまで熱し、魚が泳いでいる川に投げ入れる。

 すると、一瞬で水温が上昇し、魚が死んでぷかぷか浮かんでくる。

 釣りよりも手っ取り早くたくさんの魚を獲る方法だった。


「なるほど。今度水棲系モンスターに遭遇したときは、戦術を参考にしよう」

「そんなのしなくてもいいわ。あなたは一撃必殺の〝隕石撃メテオライト〟があるでしょう?」


 隕石撃――それは勇者様(本物)が一日のうちに一回だけ使える必殺剣らしい。

 そういえば勇者様も、〝彗星撃コメット〟という、生涯に一度だけ使える必殺剣があると話していた。

 勇者様(本物)は隕石撃を使用しても、日を跨いだら再び使えるようになる。

 一方で勇者様の彗星撃コメットはたった一回しか使えない。

 この辺は本物の勇者と補欠の勇者の格の違いなのだろう。

 ちなみに魔王は勇者の才能ギフトでしか倒せないらしい。勇者以外の者達の才能ギフトは、魔王の前だと無力になるようだ。


「魔王との戦いだって、勇者が隕石撃メテオライトを使ったら、一撃で死んじゃうじゃない」

「しかし魔王には、〝星蝕撃エクリプス〟があるだろう」


 星蝕撃エクリプスというのは魔王が使う、いかなる攻撃をも食い尽くし、無効化にする秘技である。

 何回使えるかは謎に包まれているらしい。

 もしも勇者様が隕石撃メテオライトを使い、魔王が星蝕撃エクリプスで攻撃を防いでしまったら、勝つ術がなくなるようだ。


 そんな話をしていると、周囲の空気が変わる。

 私だけでなく、勇者様(本物)や賢者、ぶーちゃんまでも気付いていた。


「ねえ、勇者」

「ああ、わかっている」


 勇者様(本物)は剣を引き抜いたかと思えば、何もない空中に斬りかかる。

 キィン! と音が鳴り、流れ星のようなきらめきが尾を引いた。

 目の前の景色がぐにゃりと歪んだかと思えば、人ひとりが通れるくらいの空間が生まれる。


「あの穴の先に行くと、世界樹がある空間へ行ける。すぐに塞がるから、素早く移動するんだ」


 まずは賢者が通り抜け、勇者様(本物)も続く。

 私はぶーちゃんを抱き、手を差し伸べる勇者様(本物)の指先を掴んだ。

 転移魔法が発動した瞬間に感じるような浮遊感ののちに、地上に着地する。

 下り立った瞬間、全身に鳥肌が立った。


「なっ、こ、これは――!?」


 広がるのは不気味なほどの曇天。

 周囲には木々が枯れ果てた黒い森が広がっていて、天を衝くほどに大きな世界樹には、怪しい黒いつるが巻きついていた。


 世界樹の葉が雨のようにはらはら舞い散り、今にも枯れ果ててしまいそうな弱々しさがある。


「あの黒い蔓はなんなんだ!?」

「闇魔法――枯渇吸引ドレインよ!」

「なんだと!?」


 世界樹の魔力を奪う闇魔法が常時展開されているらしい。

 このままでは、あっという間に世界樹が枯れてしまう。


「急ぎましょう」

「ああ」


 私はぶーちゃんを胸に抱いたまま、世界樹を目指した。

 だが、簡単に世界樹への接近を許してくれない。

 犬系モンスターのガルムの群れが飛びだしてくる。


 通常のガルムは黒い毛並みを持っているのだが、ここに出現するガルムは白い毛を生やしていた。


「あれは、氷属性のガルムよ!」


 スノー・ガルムと呼ばれ、通常は雪国の深い森の中に生息しているらしい。

 空間が歪んでいる大森林だから、出現したのだろうか。


 氷属性となれば、弱点は火である。


「魔法使い、ここでは大噴火イラプションをどんどん打っていいから!」

「わかりました」


 数匹のスノー・ガルムをまとめて岩漿マグマで倒す。

 賢者は勇者様(本物)の動きを見ながら、火系の上位魔法を繰りだしていた。


「――大爆発エクスプロード!!」


 突如として発生した轟発ごうはつに、スノー・ガルムは巻き込まれていく。

 あっという間にかなりの数のスノー・ガルムを一網打尽にやっつけていた。 

 ぶーちゃんは勇者様(本物)のあとに続き、戦闘のサポートをしている。

 鋭い蹄でスノー・ガルムの足の腱を切り、動きを鈍くさせていた。


 スノー・ガルムは群れが危機的な状況に陥ると、遠吠えし始める。

 すると、新たなスノー・ガルムがどこからともなくやってくるのだ。


「もう、キリがないわ!」

「どうにかしてここを切り抜けたい」

「具体的には?」


 賢者が勇者様(本物)を責めるように問いかける。


「すまない。願望を口にしてしまった」


 戦いながら会話ができる勇者様(本物)と賢者はすごい。私なんて意見を述べる余裕なんて欠片もないのに。


 大噴火イラプションを連発したせいで、周囲の温度がぐんぐん上がっていた。

 不思議なことに、黒い木に火は燃え移らない。いったいどういう構造をしているのか。


「魔法使い!!」

「後ろ!!」

「え?」


 背後を振り返る間もなく、ドン!! という衝撃に襲われる。

 飛びかかられるのと同時に、私の体は空中に投げだされる。近くにあった黒い木にぶつかった。

 まるで金属を叩きつけられたようなダメージを負う。

 この黒い木は普通の木ではないらしい。

 なんて、考えている場合ではなかった。

 黒い木に激突した私の体は、ゴロゴロと地面に転がっていく。

 起き上がるよりも先に、鋭い爪で押さえ付けられるほうが早かった。

 白いスノー・ガルムが私の顔を覗き込み、次の瞬間、胸に鋭い一撃が走る。


「かっ――は!!」


 爪で切り裂かれたのだろう。けれども何かがおかしい。全身が硬直し、身動きが取れなくなったのだ。


「魔法使い殿!!」


 すぐに勇者様(本物)がやってきて、スノー・ガルムを切り伏せてくれる。


「すぐに魔法薬を!」


 勇者様(本物)が手を伸ばしたのに、私の腕は意思に反して上がらない。

 パキパキと妙な音が鳴り響く。これはいったいなんなのか。

 視線を下に向けると、私の体が凍り付いていることに気付いた。


「ああ」


 ここで察してしまう。

 どうやら私はスノー・ガルムから氷属性の攻撃を受けてしまったようだ。

 勇者様が万能薬を私の口元へと運んでくれる。

 けれども口に含む前に、私の全身は凍り付いてしまった。  

敵:スノー・ガルム

死因:才能ギフト氷の爪先アイス・クロー〟による凍死

概要:才能ギフト氷の爪先アイス・クロー〟・・・体温を根こそぎ奪い、死に至らしめる妙技

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ