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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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食事の時間

 戦闘後、勇者様(本物)は私に向かって深々と頭を下げた。


「魔法使い殿、すまなかった。私が少女を追おうと言ったせいで、危険な目に巻きこんでしまった」

「今回に限っては、セルキーを女の子と見間違った私も悪かったわ」


 まさか、ここまで謝られるとは思わなかった。 

 どこかの勇者様にも、間違ったら素直に認めて謝罪するということを覚えてほしい。


「謝らなくても結構ですよ。どの道セルキーがいたら、騙されて死んでしまう冒険者が増えるだけでしたから」


 行方不明になった者には、こうして誰にも発見されずに死んでいった者もいるのだろう。

 勇者様(本物)は湖のほとりに転がっていた人骨を、地面に穴を掘って埋めていた。

 私とぶーちゃんもお手伝いをする。

 賢者も一緒にやりはじめたので、驚いてしまった。


「何よ、じっと見つめて」

「いえ、こういうの、嫌がるかと思っていました」

「人骨は放っておくと、人骨戦士スケルトンになるの」


 人からモンスター化するきっかけは、この世への未練らしい。

 

「在る一定期間月明かりを浴びて、魔力が満ちると、モンスターになってしまうのよ」

「恐ろしい話です」


 こうして丁寧に弔っておけば、モンスター化も回避できるようだ。

 最後に聖水をかけておけば、魔除けにもなると言う。


 賢者は魔法で水球を作りだし、中に石鹸の欠片を入れる。その水球に風魔法を加えると、渦のようにくるくる回り始めた。

 そんな水球に手を入れると、汚れがきれいに落ちていく。


「おお! 便利な魔法ですね」

「あなたも使う?」

「はい」


 賢者は勇者様(本物)と私の分も水球を作ってくれた。おかげさまで、手がきれいさっぱりになる。


「これ、お風呂とかにも活用できないですか?」

「やったことないけれど、試してみる価値はありそうね」


 体や頭を洗うのは地味に大変なのだ。これがあれば、一瞬できれいになるだろう。

 ぶーちゃんは全身泥だらけだったので、丸洗いしてもらっていた。

 水球からでたあとも、風魔法で体を乾燥してもらったようだ。


『ぴいいいい~~!』

 

 清潔な体になったのを喜んでいるのか、ぶーちゃんは嬉しそうな鳴き声をあげていた。


 ひとまず、元の道に戻り、ひと休みしようと提案する。


「少しお腹も空きましたので」


 食事について口にすると、勇者様(本物)と賢者はズーンと暗い表情になる。


「お腹、空いていませんか?」

「いや、空いている」

「さっきからお腹がぐーぐー鳴っていたわよ」


 それなのになぜ、気が進まない様子を見せていたのか。

 ひとまず敷物を広げる。賢者はモンスター避けの結界を張ってくれた。


「魔法使い殿、その、食事といえばこれしかなくて……」


 勇者様(本物)が申し訳なさそうに取り出したのは、干し肉であった。


「それ、とってもまずいの」

「ただ、持ち歩ける食料といったら、これしかなくて」


 勇者様(本物)ご一行も、回復師がいるときは豪勢な料理を食べていたらしい。


「彼女と出会う前は、ずっとこの干し肉を食べていたんだ」

「でも、あの子の手料理を知ってしまったら、こんな干し肉なんて食べられないって思ってしまったのよね」


 勇者様と同じように、回復師と旅をするようになってから、舌が肥えてしまったようだ。

 その気持ちは大いにわかる。


「あの、私、そこそこおいしい携帯食を持っているんです。よろしかったら一緒に食べませんか?」


 いったい何を持っているのか、と勇者様(本物)や賢者は興味津々な様子でいた。


「こちらは圧縮パン。開封するのと同時に、焼きたてのパンみたいにふかふかになるようです」


 開封した瞬間、紙袋がふんわりと膨らむ。中には丸いパンが四つも入っていた。


「おお、なんだこれは!」

「あんなぺしゃんこだった袋から、ふかふかのパンがでてくるなんて不思議だわ!」


 続けて、湯で溶くスープを紹介する。


「おふた方はカップとかお持ちですか?」

「ええ、あるわ」

「私もだ」


 スープの粉末をカップに注ぎ、賢者が魔法で作ってくれた湯を注ぐ。

 すると、あっという間にスープが完成した。


「す、すごいわ!」

「本当にスープができている!」

「えーっと、そんなわけで、よろしければ召し上がってください」


 勇者様(本物)と賢者は、瞳をキラキラしながら頷いていた。

 さっそく、圧縮パンをいただいてみる。

 紙のような薄さまで押しつぶされていた物だが、いったいどのような食感と味わいなのか。


 一口大に千切ってみると、表面はカリカリ、中はふんわりしていることがわかった。

 食べてみると、小麦の豊かな香りが口の中に広がる。

 とてもおいしいパンだった。


 勇者様(本物)や賢者も、パンを食べて驚いていた。


「これが携帯食だなんて」

「本当に驚いた」


 スープも飲んでみる。

 漉したトウモロコシとミルクを混ぜて作ったポタージュであった。

 スプーンなどはないので、そのままカップを傾けて飲む。

 味わいは濃厚で、高級食堂でだされるものと相違ない。

 

「このスープも絶品だ!」

「どうしてこんなにおいしいの!?」


 どちらもお口に合ったようで、ペロリと完食したようだ。

 ぶーちゃんもパンと乾燥野菜を食べ終え、お皿代わりにしていた葉っぱの端で口を拭っていた。


「こんなにおいしい携帯食があるのね!」

「どこで買ったんだ?」

「貴族御用達の道具屋です」


 さらに値段を言った途端に、勇者様と賢者が表情を曇らせる。


「あの、どうかしたのですか?」

「いや、私達の旅の資金はそこまで多くなくて」

「国王陛下から支給されているんだけれど、旅にお金はつきもので、ぜんぜん足りないのよ」


 魔王から世界を救おうとしている勇者様(本物)ご一行に、満足な支援金を与えていないなんて。


「もっと増やしてくださいとか、言わないんですか?」

「いや、国には困っている者達が大勢いるからな。贅沢な旅をするわけにもいかないのだよ」


 勇者様に百万回は聞かせたい言葉である。

 まあ私も、これでもかと勇者様のご実家のお金で豪遊しているわけだが。

 勇者様(本物)が裕福なお生まれだったらよかったのに……。

 天は二物を与えないのだろう。


「あの、よければこの携帯食、みなさんで召し上がってください」

「いいのか?」

「はい。私は勇者様のお金を使って、いつでも買えるので」

「そうか。感謝する」


 少しでもおいしい物を食べて、強くなってほしい。

 そう願ってしまった。

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