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死んで尚学習しない勇者

 勇者様の蘇生を待つ間、私は魔法薬作りに挑戦してみた。

 先ほど勇者様が摘んでいたポイズン草に似たものがヒール草なのだろう。

 残念なことに私の千里眼は、生き物や人の手が加わった物しか見抜けない。こういった自生している植物には使えないのだ。


 念のため革袋を嵌め、魔法薬作りに挑戦してみた。

 草をすり潰し、教会の水と共に練り、丸めていく。

 全部で六つの魔法薬が完成した。

 早速、千里眼で上手くできたか確認してみる。


 その一:ポイズン丸薬

 その二:ポイズン丸薬

 その三:ポイズン丸薬

 その四:ポイズン丸薬

 その五:ポイズン丸薬

 その六:ポイズン丸薬


 どうやらこの辺りにはポイズン草しか自生していないらしい。

 神聖な教会の敷地内だというのに、毒草だらけとはどういうことなのか。

 まあ、いい。何かに使えるかもしれないので、道具袋に入れておく。


 それから一時間ほどで勇者様が戻ってきた。


「おい、私はまた死んだのか!」

「ポイズン丸薬を作ってお亡くなりになりました」

「クソ! この私がポイズン草とヒール草を間違うとはな!」


 もう一度魔法薬作りに挑戦しようとしていたが、やんわり阻止した。


「勇者様、ここに自生しているのはポイズン草ばかりです」

「なんだと、本当なのか!?」

「ええ」

「知っていたのならば、なぜ言わなかった!」

「聖司祭から聞いたんです。私も知りませんでした」

「そ、そうだったのか」


 ひとまず、足の裏にある傷は蘇生してもらったときに治ったらしい。

 金貨五枚もかかったが、結果的にケガが治ったというわけだ。


 それよりも、最低限の服と木製の剣を持っていたので驚く。

 物語の序盤に登場する勇者に憧れる村の少年、といった装いだが、全裸に聖布を纏った状態よりはるかにマシだろう。


「勇者様、そのお召し物はどうしたのですか?」

「後日、この教会に寄付するよう、父に伝えておくと約束し、用意させたものだ」

「なるほど」


 勇者様はこう見えて、この国で一番の名家の生まれだ。

 各商店で名前を口にするだけで買い物ができてしまうという、真なるお金持ちなのだ。

 街に立ち寄るたびに、高級宿とごちそうを用意してもらえる。

 勇者様のお人柄は最悪の一言で、うっかり死んでしまったものの、街での贅沢を味わっているので、パーティーを抜けられないのだ。


 勇者様はしっかり革製のブーツも履いているので、草で足の裏を切って騒ぐこともないだろう。


「魔法使い、私のあとをしっかりついて来いよ」

「はあ」


 嫌な予感しかしない、新たな出発である。

 このままモンスターと出会いませんように。そう願っていたものの、人生はそのように甘くはなかった。


 モンスターとの遭遇が多くなる夜までには街に行きたい。

 なんて考えている中、突如として草むらからモンスターが飛び出してきた。

 棍棒ではなく、短杖ロッドを手にしたゴブリンである。私達を見つけるなり、ぶつぶつ詠唱を始めた。ゴブリンの周囲には魔法陣が浮かぶ。

 知能が低いゴブリンが魔法を扱うなんてありえない。確実に才能ギフト持ちだろう。


「勇者様、逃げましょう」

「何を言っている! 勇者たるもの、モンスターに背を向けるわけにはいかない!」


 勇者様は木の剣を振り上げ、ゴブリンへ斬りかかる。

 ただひと息遅かったようで、魔法が完成してしまった。


『ギギッ!!』


 ゴブリンが短杖を振り上げると、鋭い風が勇者様に向かって斬りかかってくる。

 あれは風属性の中位魔法〝風の刃エアブレイド〟だ。

 勇者様の体は料理に使う豚肉のようにスパスパ切り刻まれる。

 悲鳴を上げる間もなく、絶命したようだ。


「あ――!」


 勇者様の死体に気を取られている間に、私の体も〝風の刃エアブレイド〟で切り裂かれてしまう。


 そんなわけで、本日二度目の死を迎えてしまったのだった。


 ◇◇◇

 

 私達のバラバラ死体は近くの街の教会に運ばれたらしい。

 略奪者は私が作ったポイズン丸薬六つと引き換えに、命を助けてくれたようだ。

 またしても、勇者様は身ぐるみを剥がされて全裸だった。

 幸いにも私の装備品や服は無事である。

 勇者様はここでも父親に寄付させることを約束し、服を譲り受けた。

 しかしながら、ただの服ではなく――。


「なぜ、修道女シスターの装いしかないのか! おかしいだろうが!」


 顔立ちが整っているからか、修道女の服装が妙に似合っている。

 すれ違う修道士モンク達から熱い視線を受けていたが、すべてに舌打ちを返していた。   


「ひとまず、今日は二回も死んでしまったので疲れました」

「私は三回も死んだ!」


 勇者様はなぜか、勝ち誇ったような顔で私を見る。死んだ回数でマウントを取らないでほしい。


 連れてこられた街はそこそこ大きい街だった。遠くに大きな時計塔が見える。

 さらに夜だと言うのに、人通りが多い。


「さて、貴族街のほうに移動するか」


 この辺りは下町に部類するような区画らしい。こういう場所は勇者様が得意とするツケがまったく使えず、すべて現金のみでの支払いを命じられるのだ。


 周囲には道ばたに敷物を広げただけの商店が並んでいる。

 怪しい壺や偽物の宝石などが販売されているようだ。


「この辺りは下品な物しか売っていないな」

「ええ。あの金ぴかの鎧とか、まさにその通りかと」

「ああ、そうそう、あのように下品な物が――――――いや、あれは、私の鎧ではないか!!!!」


 私の鼓膜を破るような声で勇者様は叫ぶ。

 必死の形相で、金ぴかの鎧のほうへ走って行った。はぐれてしまわないように、あとに続く。


 勇者様の金ぴかの鎧は大安売りの赤札が貼られた状態で売られていた。


「おい、店主、これは私の鎧だ!!」


 勇者様の訴えに、店主と呼ばれた男性は「はあ?」という顔で見返してきた。


「この鎧は死した私から、略奪者が奪った品だ! 返してくれ!」

「いやいやいや、それはできないよ。これはうちが買い取った品なのだから!」


 店主の言い分は正しい。

 勇者様は金ぴかの鎧と引き換えに、命を助けてもらったのだから。

 よくよく見たら金ぴかの鎧だけでなく、金ぴかの剣や長靴などの一式がすべて赤札価格で売られていた。


「というか、私の鎧がたった銀貨一枚だと?」

「これは不良品なんだ」

「なんだと!?」

「誰も着ることはできないし、金も溶けない。利用価値がない鎧なんだよ」

「当たり前だ! それは勇者である私専用の装備なのだから!」


 このままでは埒が明かない。

 勇者様をどーどーとなだめ、お金を用意して戻ってくることを店主に約束する。

敵:マジシャン・ゴブリン

死因:〝風の刃エアブレイド〟によるぶつ切り死

概要:〝風の刃エアブレイド〟・・・鎌のような風の刃で敵を切り裂く中位魔法 

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