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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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39/90

謎の少女を追って

 迷いの森を抜けると、澄んだ晴天が広がっていた。

 これまでどんよりとした不気味な森だったのに、爽やかな雰囲気に変化している。


「これは、世界樹がある最深部が近い、ということなのでしょうか?」

「おそらく、そうなのでしょうね。でも――」

「でも?」

「なんだかおかしいわ」


 どこがおかしいというのか。心地よい暖かな風が吹き、小鳥のさえずりも聞こえてくる森の中だと言うのに。


「大森林に入ってからずっと思っていたんだけれど、ここには〝メルヴ〟の気配がないわ」

「メルヴって、有名な薬草のメルヴですか?」


 薬剤師の才能ギフトを持つ者が口を揃えて世界一の薬草だ、と絶賛するメルヴ草は、実在するかもわからない幻だとも言われている。

 大森林内に自生している、という話を修道女がしていたような。


「メルヴは薬草じゃないわ。大森林を守護する大精霊よ。一般的に知れ渡っているメルヴ草は、メルヴから引っこ抜いたものなの」

「そ、そうだったのですね!」


 通常、世界樹の近くにはメルヴがいて、悪しき者から守護していると言う。

 そんなメルヴの気配を、大森林の中ではまったく感じないようだ。


「世界樹を見たことがあるお祖父様の話だと、メルヴの気配は暖かな陽だまりのようで、大森林に入っただけで感じることができるだろう、って言っていたの」


 世界樹が枯れかけ、大森林内に多くの冒険者が入っていたため、メルヴの気配を感じられないのではないか。賢者はそういうふうに考えていたらしい。


「でも、これだけ近付いているのに感じないというのは、おかしいことだわ」


 勇者様(本物)は顎に手を当てて、物憂げな様子でいる。


「世界樹だけでなく、メルヴの身にも何かあった、ということなのだろうか?」

「そうだとしか思えないわ」


 メルヴが不在の世界樹は、あっという間に脅威にさらされてしまう。

 早く世界樹のもとに行き、確認しなければならないのだろう。


「先を進みま――あら?」

「賢者よ、どうかしたのか?」

「いえ、あっちの木の陰から女の子が顔を覗かせていたの」

「なんだと?」


 身長は私と同じくらいで、年頃は十二、三歳くらいだと言う。

 賢者と目が合うと、回れ右をして逃げて行ってしまったようだ。


「魔法使いみたいに幼い子がどうしてひとりでいるのかしら?」

「あの、私、十八歳なんですけれど」

「あら、ごめんなさい。思っていた以上に大人だったのね」


 勇者様(本物)は明後日の方向を見ていた。おそらく彼女も私を十代前半くらいに思っていたのだろう。


「どこかのパーティーメンバーかもしれないな。少し前に耳にした、大森林で行方不明になった少女かもしれない」

「追いかけてみましょう」


 そんなことをしている場合か。なんて内心思ったものの、仮メンバーの身なのであれこれ言える身分ではないのだ。

 話に聞いたところ、大森林内では仲間とはぐれたまま、発見されていない冒険者が大勢いるらしい。

 教会はそれらの責任は取らず、放置しているようだ。

 冒険者のパーティーに、年若い少女がいるというのも実は珍しくない。

 貴重な才能ギフトを持っていたら、年齢に関係なくスカウトされるのだ。

 ひとまずぶーちゃんと共に、勇者様(本物)と賢者のあとに続く。


 なんというか、ふたりの背中を見ながら思う。

 勇者様に比べて、善良な人達だ。これまで旅をしていて、悪い人達に騙されなかったか心配になるくらいに。

 これが勇者様だったら、森の中で少女を発見しても、「おそらく見間違いだな」とか言ってスルーしそうだ。


 少女が走って逃げた先を辿ってみたら、湖に行き着く。

 ぼんやり霧がかっていて、少し不気味だった。


『ぴいい!!』


 ぶーちゃんが驚いたように飛び上がる。

 どうしたのかと思えば、湖のほとりにたくさんの人骨が転がっていた。

 剣や盾などの装備も散らばっている。

 いったいどういうことなのか。


「いないな」

「見間違いだったのかしら?」

「そうですよ、きっと」


 大森林に入ってからというもの、一度も食事をしていない。元の場所に戻って、何か食べよう。そう提案しようとした瞬間、静かだった湖に水紋が浮かび上がった。

 続けて水柱が上がり、中から女性のシルエットが浮かび上がる。


『ぴ、ぴいいい!』

「え、何?」

「これは――!」


 上半身は美しい少女、下半身はアザラシ――マーメイドではなく、あれはセルキーだ。


『キイイイイイイン!!』


 耳をつんざくような鳴き声をあげる。思わず耳を塞いだ。


「どうやらセルキーを少女と見間違えたようだな」

「さ、最悪!!」


 どうやら私達は騙されたらしい。

 少女の姿で冒険者を引きつけ、襲いかかるという手口を使っていたのだろう。

 転がっていた人骨は騙された冒険者達に違いない。


 勇者様(本物)は銀色の剣を引き抜き、セルキーに斬りかかる。

 セルキーは湖の水を操り、盾のようなものを作った。


 勇者様(本物)は空中で体を捻り、湖のほとりに着地する。

 水面にいるセルキーとは戦いにくそうだ。


「勇者、私が氷魔法で足場を作るわ」

「賢者、頼む」


 彼女はこういうサポートもできるのか。さすが賢者である。


「――凍れフリーレン!」


 賢者が手をかざすと、湖全体がみるみるうちに凍っていく。

 まさかの状況に、セルキーも驚いたようだ。

 尾で氷を割り、湖の中へ逃げてしまう。


「逃がしたか」


 勇者様(本物)は剣を構えたまま、警戒する。


「どうする? このまま見逃すこともできるけれど」

「いや、私達がここで倒さなかったら、新たな被害者がでてしまうだろう」


 ここで、私は遠慮がちに挙手した。


「あのー、私のバカのひとつ覚えを披露してもいいでしょうか?」


 その言葉に、賢者がハッとなる。


「いいわ。やってしまいなさい」

「わかりました」


 私にも活躍の場が与えられ、セルキーには感謝の気持ちしかない。

 思う存分、揮わせていただく。


「――噴きでよ、大噴火イラプション!」


 魔法陣は湖の底にでたようで、ほのかに凍った水面が輝く。

 次の瞬間、岩漿マグマが噴きでてきた。

 水面の氷は一瞬で溶け、湖全体が沸騰したようにボコボコ泡立つ。

 湖の中を泳いでいたセルキーは、慌てた様子で水面から飛びだしてくる。

 それを、勇者様(本物)は見逃さなかった。

 素早い一撃が、セルキーを襲う。


『キイイイイイイン!!!!』


 セルキーは息絶え、湖に沈んでいく。 

 不意打ちの戦闘だったものの、なんとか勝利できた。

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