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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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アイアン・ゴーレム

 すんすん、すんすんと誰かがすすり泣きしているような声で目を覚ます。


「ううん……」

「ああ、目が覚めたか」


 勇者様(本物)の声で、意識が完全に覚醒した。

 瞼をそっと開くと、涙をポロポロ流す賢者と目があった。


「あ――」

「あなた、大丈夫なの!?」

「ええ、まあ」


 ぶーちゃんが私に近づき、頬ずりしてくれる。

 のろのろとした動きで起き上がったら、賢者が私を抱きしめた。


「あなた、大バカ者よ! なんで私なんかを庇ったの!?」

「いえ……ご説明できるような他意はないのですが」

「そういうの、二度としないで!!」


 抱きしめながら怒られるという、これまで感じたことのない感情をぶつけられる。

 離れようとしたら、小さな声で「ありがとう」と囁いてきた。

 賢者を庇ったのは私が勝手にやったことで、お礼を言われるとは思わなかった。


 ここでやっと、周囲を見渡す。

 辺りは霧がかっていて、迷いの森に戻ってきたことがわかった。


「あの、アイアン・ゴーレムは?」

「倒していない。ここまで逃げてきたんだ」

「なるほど」


 勇者様(本物)が私の遺体を担ぎ上げ、全力疾走したらしい。

 あとを追いかけられたようだが、なんとか逃走に成功したようだ。


「一度教会で死者蘇生をしたほうがいいだろうと思ったのだが、ぶーちゃんがレイズ点薬を使うように言ってきて」


 守護薬草を使ったヘナを施していたおかげで、私の遺体は損傷が激しくなかったらしい。そのため、レイズ点薬での蘇生で間に合ったようだ。


 勇者様(本物)は私の肩を掴み、まっすぐな瞳を向けながら言った。


「今後は、誰かを庇う、という行動は取らないでほしい。自分のせいで仲間が死ぬというのは、胸が引き裂かれるほど辛いものだから」

「はい、わかりました」


 賢者をここまで泣かせてしまったのは、私が愚かな行動を取ったせいである。

 本当に申し訳ないことをした。


「それにしても、迷いの森はあのアイアン・ゴーレムを倒さないと先に進めないのだろうな」

「ええ、そうね」


 いったいどうやって勝てばいいものか。

 ゴーレムはたいてい、体内に魔力のコアを持ち、それを生命の源としている。

 核さえ破壊すれば倒せるのに、強固な体を持つアイアン・ゴーレムはそれが難しい。


「アイアン・ゴーレムに弱点なんてあるのかしら?」

「そうだな……」


 熱に耐性があり、物理攻撃にも強いアイアン・ゴーレムに弱点があるようには思えなかった。

 どうしたものかと考えていたら、ぶーちゃんが私の鞄を探り始める。


「ぶーちゃん、どうかしたのですか?」

『ぴい、ぴいい!』


 ぶーちゃんはナイフを咥えてきた。


「それは――」


 以前勇者様に貸して、数日後に切れなくなったと言って返されたものである。

 ナイフの状態を見てみると、錆びていたのだ。

 なんでも水に浸けたまま一晩放置し、拭わずにそのまま鞘に入れたらしい。

 おかげで、切れないナイフになってしまったわけである。

 それを見た賢者がハッとなった。


「錆び……そうよ、錆びよ!」

「錆びがどうかしたのですか?」

「アイアン・ゴーレムを魔法で錆びさせるの。そうすれば、動きも鈍くなるし、鉄の強度も下がるはず」

「ああ、なるほど!」


 ぶーちゃんのおかげで、アイアン・ゴーレムと戦う術を思いついた。

 とてつもなく賢く、偉いと褒めると、ぶーちゃんは誇らしげな様子で「ぴい」と鳴いた。


 先ほど賢者が描いた魔法陣を通じて転移したら、アイアン・ゴーレムがいる場所まで戻れるらしい。


「皆、準備はいいか?」

「もちろん」

「はい」

『ぴい!』


 賢者が転移魔法を唱えると、一瞬にして景色が変わっていった。

 私達が現れるなり、アイアン・ゴーレムが地面から這いでてくる。


『グオオオオオオオオ!!』


 すぐに勇者様(本物)とぶーちゃんが気を引きつける。

 賢者はすぐに魔法を繰りだした。


「――高波よタイダルウェイブ!!」


 海水の波がアイアン・ゴーレムを襲う。

 錆びやすいように、ただの水ではなく海水の水魔法を選んだようだ。

 賢者は続けて魔法を繰りだす。


「――竜巻サイクロン!!」


 風が巻き上がり、アイアン・ゴーレムの全身が乾燥されていく。


『オオオオオオ!!』


 連続攻撃を受けたので、アイアン・ゴーレムは地面に潜ろうとした。

 けれどもぶーちゃんがスライディングをして妨害する。

 アイアン・ゴーレムはその場にバタンと音を立てて転んだ。


 間髪入れずに、賢者は魔法を繰りだしていく。

 しだいに、アイアン・ゴーレムの体が錆びて茶色く変色していった。

 そんなアイアン・ゴーレムに、勇者様(本物)が一撃入れる。

 すると、腕がポッキリ折れてしまった。


『グオオオオオオ!!!!』


 やはり、錆びというのはアイアン・ゴーレムにとって大敵だったらしい。

 あんなに硬かった体に、ダメージを与えることができるようになった。


 ぶーちゃんが跳び蹴りを入れると、アイアン・ゴーレムの体がバラバラになる。

 勇者様(本物)が核を剣で突き刺すと、動かなくなってしまった。


「やったか……」

「ええ、そのようね」


 なんとかアイアン・ゴーレムに勝利することができた。

 賢者はその場にぺたんと座り込む。

 勇者様(本物)も天を仰ぎ、ため息を吐いていた。

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