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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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37/90

迷いの森を抜けた先に?

 それから先は霧の影響を受けなかったものの、強力なモンスターに遭遇してしまう。

 バジリスクやサラマンダー、コカトリスなど、モンスター図鑑でしか見たことがないようなものばかりである。

 けれども大抵は勇者様(本物)の一撃ワンパンか、賢者の魔法で倒すのだ。

 勇者様(本物)は銀色の美しい剣を持っていて、揮うたびに流れ星のような残像が見える。

 賢者は無詠唱で、上位魔法を連発していた。

 しょっちゅう死ぬ勇者様や、私とは大違いである。

 これが正規の勇者パーティーなんだ、と感動を覚えてしまった。

 先ほども、上空から襲ってきたハーピーの群れを、瞬く間に倒す。

 

「いやはや、みなさん、さすがです!」


 私は事前に大噴火しか使えないと説明していたからか、ハーピーに襲撃された瞬間、勇者様(本物)から「どこが安全な場所に隠れているように!」と指令が飛んできたのだ。

 ほどよい草木の茂みに潜んでおき、戦闘が終わるとのこのこでていく、というのを繰り返していた。


「それにしてもあなた、よく大噴火イラプションのひとつだけでここまで旅してこれたわね」

「運がよかったのでしょう……」


 岩漿マグマを噴き出させる大噴火イラプションは、火が燃え移る心配がない場所でのみ使うらしい。

 今いる自然豊かなエリアでは使わないのが普通だと言われてしまった。


「もしも燃え移ったときは、どうしていたのよ?」

「イッヌがおしっこで消してくれたんです」

「なんですって!?」


 その言葉は聞き返したのではなく、何をバカなことを言っているのか、という強い非難が込められたものだったのだろう。


「魔法の火をそんなもので消すなんて」

「信じられないですよね」

「それよりもあなた達のパーティー、まだ変な生き物がいるの?」

「はい。イッヌという、ミニチュア・フェンリルがいます」

「ミニチュア・フェンリルですって!? そんなの聞いたことがないわ!!」


 私も初めて目にしたのだが、千里眼がミニチュア・フェンリルだと示したのだ。

 この能力がなければ、私もイッヌはフェンリルの仔犬だと思っていただろう。


「勇者様はイッヌのことを仔犬だと信じて疑っていないので、ミニチュア・フェンリルだと言わないでくださいね」

「ああ……なんだか頭が痛くなってきたわ」


 それに関しては、私も完全同意である。

 勇者様と出会ってからというもの、頭が痛くならない日はなかっただろう。


「賢者、魔法使い殿、ぶーちゃん、先へ進もうか」

「ええ」

「わかりました」

『ぴいい』


 ずいぶんと歩いたような気がする。

 ここまで深い所までやってくるのは初めてだ、と勇者様(本物)も話していた。


「地図によれば、あと少しで迷いの森を抜けるそうですよ」

「あなた、地図なんか持っていたの?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「初めて聞いたわ!!」


 大森林全体をざっくり書いただけの地図なので、迷いの森では役に立たないと思い、鞄の中にしまっていたのだ。

 勇者様(本物)と賢者に現在地を指し示すと、少しホッとしたような表情を見せていた。


「もうちょっとだけ、頑張ろう」

「ええ」


 勇者様(本物)や賢者と出会えてよかった。私とぶーちゃんだけだったら、戦闘で苦戦していただろう。


 それから少しだけ歩くと、開けた場所にでてきた。


「やっと迷いの森を抜けてきたのね」


 賢者は地面にナイフで何かを刻み、血を一滴垂らしていた。


「あの、賢者様、それは何ですか?」

「転移陣よ。この先で何かあったら、ここに戻ってこられるようにしているの」

「なるほど」


 賢者ともなれば、このようなことができるのだ。

 毎回、金の力で転移の魔法巻物を買っている私達とは大違いである。


「さあ、勇者、先に進みましょう」

「いや、待て」

『ぴいいいいい……!』


 勇者様(本物)とぶーちゃんが、警戒していた。

 どうやら〝何か〟がいるらしい。


「モンスターなの?」

『ぴいっ!!』

「下だ!!」


 地面がボコッと大きく突起し、手や足が生えてくる。

 草木を生やした巨大なモンスターは、フォレスト・ゴーレムだ。


『グオオオオオオオ!!』


 雄叫びをあげると、地面が揺れる。


「なっ――森のゴーレムなんて初めて見たわ」

「戦闘態勢を取れ!」


 勇者様(本物)は銀色の剣を引き抜き、フォレスト・ゴーレムに斬りかかる。

 けれども体に生やした草を刈ることしかできなかった。


 ぶーちゃんも蹄で一撃入れたようだが、ガコン! と手応えのないような物理音を鳴らすばかりであった。


「勇者、ぶーちゃん、下がりなさい」

「ああ」

『ぴいい』


 勇者様(本物)とぶーちゃんがが後退するのと同時に、賢者が魔法を放つ。


「――炎の嵐ファイアストーム!!」


 賢者は火属性の中位魔法を、詠唱もなく発現させる。フォレスト・ゴーレムの周囲に炎の嵐が渦巻いたが、これも草木を焼くばかりだった。

 フォレスト・ゴーレムは炎をまとった状態になったまま、襲いかかってくる。


「ちょっと! 草属性のモンスターは火に弱いのがお約束でしょう!」


 私もそう思っていたが、このフォレスト・ゴーレムも強化されているのかもしれない。

 千里眼を使って見てみる。


 名前:アイアン・ゴーレム

 才能ギフト:猛烈パンチ 


「こ、これは! 大変です。このモンスターはフォレスト・ゴーレムではありません。アイアン・ゴーレムです!」


 地中深くに埋められ、体の隙間から草木を生やしてしまったのだろう。


「待って! 鉄だったら、火属性はそこまで効果がないはず」


 物理攻撃にも、強い耐性を持っているだろう。

 炎の嵐ファイアストームと同じ大噴火イラプション程度の熱では、アイアン・ゴーレムには効果がない。


「賢者、私とぶーちゃんがアイアン・ゴーレムを引きつけておくから、何か魔法で止めを刺してくれ!」

「え、ええ、わかったわ。でも、鉄のモンスターなんて初めてで……」

『グオオオオオ!!』


 勇者様(本物)とぶーちゃんの攻撃の連続攻撃を受けていたアイアン・ゴーレムは、突然地中に潜る。

 足の裏にドリルのようなものを持っていて、あっという間に姿を消した。


 アイアン・ゴーレムが掘った地面を覗き込んだが、深く長い穴になっているようだ。

 穴は垂直に伸びていて、あとを追えるようなものではない。


「どこだ!? どこにいる!?」


 勇者様(本物)の声に応えるように、アイアン・ゴーレムが地中から飛びだしてきた。

 ただし、勇者様(本物)の前でなく、賢者のすぐ目の前に這いでてくる。


「きゃあ!!」


 アイアン・ゴーレムは拳を挙げ、勢いよく賢者へ突き出す。


「賢者!!」

「賢者様!!」

「あ――」


 危ない! 

 そう思った瞬間には、アイアン・ゴーレムと賢者の前に飛びだしていた。


「なっ!?」


 アイアン・ゴーレムの才能スキル、猛烈パンチが私の頬にめり込む。

 言わずもがな、一撃必殺ワンパンキルだった。


「きゃああああ!!」

「魔法使い殿!!」

『ぴいいいいい!!』


 皆の悲鳴を聞きながら、意識が遠のいていく。

 口の中には血の味が広がっていった。

 勇者様(本物)と旅する中で初めての死である。

敵:アイアン・ゴーレム

死因:魔法使い→才能ギフト:猛烈パンチによる撲殺。 

概要:才能ギフト:猛烈パンチ。成功率は低いものの、当たると必ず死ぬ。

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