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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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36/90

迷いの森へ

「じゃあ、さっそくだけれど行きましょうか」

「賢者よ、待て」


 勇者様(本物)はしゃがみ込んで私と視線を同じにし、話しかけてくる。


「魔法使い殿、準備はできているだろうか?」


 問いかけられた瞬間、これから道具屋に行ってアイテムを揃えようと計画を立てていたのを思い出す。


「あ、少し道具を――」


 鞄を確認しながら返事をしようとしたら、ギョッとしてしまう。

 中にはキュア丸薬だけでなく、瀕死状態から回復可能なレイズ点薬、猛毒や大火傷を治す万能薬パナシーアなど、種類豊富な魔法薬が入っていた。


「こ、これは!?」

『ぴい!』


 ぶーちゃんが胸を張って鳴く。

 もしや、私が死んでいる三日間の間に、魔法薬の素材を集め、薬を調合してくれたというのか。

 

「ぶーちゃんが作ってくれたのですね」

『ぴいい』


 私の鞄の中身を賢者が覗き込むと、ギョッとしていた。


「何よ、これ! 私でさえ作れない魔法薬が入っているじゃない!」


 レイズ薬草を材料にして作るレイズ点薬は、難易度の高い魔法薬らしい。

 調薬を得意とするハイエルフでも、薬師ケミスト才能ギフトを持つ者しか作れないようだ。


「すべてぶーちゃんが作ってくれたようです」


 勇者様(本物)と賢者は、ぶーちゃんに尊敬と畏怖が混ざったような視線を向けていた。


「ぶーちゃんはどうして、偽物勇者を主人と認め、旅をしているのよ」

「よくわかりません」


 市場で助けたことに対し、恩を感じているのかもしれない。

 神話に登場する聖猪グリンブルスティは、獰猛で荒い気性を持つ存在として書かれている。実際のぶーちゃんは心優しくて勇ましい、頼りになる仲間だ。

 呪いの影響である可能性もあるが……。


「ああ、そう。ぶーちゃんには呪いがかかっているのですが、賢者様、何かわかりますでしょうか?」

「呪い?」


 ぶーちゃんを抱き上げ、賢者のほうへ差しだす。

 賢者は目を眇め、ぶーちゃんを見つめた。


「……何これ」


 簡単な呪いであれば賢者にも解けるようだが、ぶーちゃんの呪いは複雑らしい。

 呪術師シャーマン才能ギフトがある者にしか詳細はわからないだろう、と言われてしまう。


「命を削るとか、言動を制限するとか、そういう強制力がある呪いではないから、すぐに解かなくても大丈夫なはずよ」


 それを聞いて安心する。呪いがぶーちゃんの負担になっているのではないか、と心配していたのだ。


「えーっと、話は戻りまして、アイテムは問題ありませんので、いつでも旅立てる状態にあります」

「わかった。早速で悪いが、すぐにでも出発しよう」


 勇者様(本物)一行と共に、迷いの森に挑むこととなった。


 歩いているうちに、だんだんと霧が濃くなっていく。

 先頭を歩く勇者様の背中ですら、少し見えにくくなるくらいだ。

 ここが迷いの森らしい。

 周囲の木々は鬱蒼うっそうと生え、昼間だというのに薄暗い。

 風がヒューヒューと不気味な音を鳴らすだけでなく、モンスターの『ギャア! ギャア』という鳴き声も聞こえてくる。

 これまで通ったどのエリアよりも不気味で、心細さを感じる場所だった。

 回復師はこんなところで迷子になるなんて……。気の毒だ、としか言いようがない。


「ねえ、勇者」

「ん? どうかしたのか?」

「先ほどから、同じ場所をぐるぐる回っているわ」


 賢者に指摘され、勇者様(本物)はハッとなる。


「た、たしかに、爪痕があるこの樹は先ほども見たような気がする」

「全部、霧のせいよ」


 なんでもここの霧には、迷いの森に自生する、感覚を鈍らせる毒草の成分が含まれているらしい。歩き回っているうちに、だんだんと意識が朦朧もうろうとし、ボーッとしてしまうようだ。


「魔法使い殿、すまない。もうずっと、私達は迷いの森でこのようになってしまうのだ」


 感覚が鋭い賢者ですら、迷っていると気付くのが遅れるらしい。


「回復師を捜すどころの状態ではなかったようだ」


 このままでは体力を無駄に消費してしまうだろう。

 ならば、と提案してみる。


「あの、ぶーちゃんに道案内を頼みますか?」


 ぶーちゃんを抱き上げつつ言ってみる。

 任せろ! とばかりにぶーちゃんは『ぴい!!』と力強く鳴いていた。


「これまでも、ぶーちゃんに道案内を頼んだことがあったんです。ロックの巣で死んだ私を回収し、教会まで連れて行ってくれたのもぶーちゃんですし」


 ぶーちゃんの安心安全の実績を、勇者様(本物)と賢者に語って聞かせる。

 彼女達は目を合わせ、同時に頷いた。


「わかった。この先の先頭を、ぶーちゃんに預けよう」

「お願いね」


 ぶーちゃんは元気よく『ぴいー!』と鳴いた。


 それからというもの、ぶーちゃんの先導で迷いの森を進んで行く。

 たまに振り返り、ぼんやりしていないか確認もしてくれた。

 勇者様(本物)がもっとも霧の影響を受けやすいらしい。

 何度かぶーちゃんが、蹄を使って勇者様(本物)の靴をコツコツと叩いていた。


「ああ、またか……すまない」

「集中力が切れているのよ。少し休憩しましょう」

「そうだな」


 賢者が張った結界内に腰を下ろし、ひと息吐く。

 少し気まずい中で、提案してみた。


「あの、よろしければお守りを手に刻んでみませんか?」

「お守り?」

「はい。〝ヘナ〟という、肌に直接刻む魔法です」


 普通の魔法よりも外部からの影響を受けにくく、効果も高い。

 一度試してみないか、と聞いてみた。


「この場でできるものなのか?」

「ええ。たった今、ヘナの材料になる守護薬草を発見しましたので」


 私達が腰を下ろしている草むらに自生しているのが、守護薬草なのだ。


「あら、本当」


 普段、守護薬草は煎じて丸薬にし、防御力を上げるものである。

 ただこの霧の中では、飲むよりもヘナを施したほうが効果があるだろう。


「わかった。頼む」

「お任せください」


 ヘナの作り方はそこまで複雑ではない。

 乳鉢に守護薬草と精油を垂らしてペースト状にし、円錐状に丸めた油紙に入れて、先端を小さくカットする。

 それを肌に直接絞って、魔法陣を描くだけなのだ。


「勇者様(本物)、お手を借りてもいいでしょうか?」

「ああ」


 籠手を外した勇者様(本物)の手を握り、魔除けの魔法陣を描いていく。

 彼女の手はごつごつしていて、手のひらはガサガサで皮膚が厚い。

 女性のものとはとても思えない。

 勇者で在るために、相当な努力を積んだのだろう。


「勇者様(本物)、ヒリヒリしたり、熱くなったり、していませんか?」

「平気だ。続けてくれ」

「わかりました」


 最後に呪文を唱えた。


「――刻め、ヘナよメへンディ!」


 魔法陣が淡く光る。手巾でヘナを拭うと、勇者様(本物)の手の甲にしっかり刻まれていた。


「おお、これはすごいな」

「効果があるといいのですが」


 続いて、賢者も手を差し伸べてくる。


「魔法使い、私にもそれを施してくれる?」

「もちろんです」


 賢者にもヘナの魔法陣を描き、魔法で刻み込んだ。 


「ふうん。すごいじゃない。これ、ここの霧に効果があるわ」

「たしかに。頭がスッキリしたような気がする」

「あなた、よくこんなものを知っていたわね」

「……昔、本で読んだことがありまして」


 すべての薬草に詳しいわけではないことはしっかり伝えておく。

 私の知識は偏っているのだ。

 薬草全般についてならば、魔法学校に通っていた勇者様のほうが詳しいだろう。


 私やぶーちゃんにも、ヘナの魔法陣を書いておいた。

 これで霧の影響を受けなくなるだろう。

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