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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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お久しぶりな勇者様(本物)

「おや、君は――!」

「偽勇者と旅をしている魔法使いじゃないの」


 まさか、こんなところで本物の勇者様ご一行と遭遇するなんて。

 ただ、彼女らの中に回復師の姿がなかった。

 まさか、回復師は死んでしまったのか。用心深く、回復術を得意とする彼女が?

 ありえないだろう。

 もしかしたら、どこかへ行っているのかもしれない。

 私が探るような視線を向けていたのを、勇者様(本物)はすぐに気付く。


「回復師はいない。途中ではぐれてしまったんだよ」

「え!?」


 なんでもここから先は迷いの森と呼ばれているエリアらしい。

 時空が酷く歪んでいて、行方不明になる人達が多いようだ。


「回復師は時空の歪みを、うっかり踏んでしまったようなんだ」


 勇者様(本物)と賢者の目の前で、回復師は忽然こつぜんと姿を消してしまったと言う。


「彼女と別れて、もう三日になる。捜索しているのだが、迷いの森は深入りすると私達も帰れなくなるゆえ、満足に捜せていないというのが現状だ」

「なるほど」


 行方不明になった仲間を見捨てず、一生懸命捜すなんて勇者様(本物)のお人柄はすばらしい。

 うちの勇者様だったら、私のことなんてあっさり見捨てるだろう。


 それよりも、優秀な者達の集まりである勇者様(本物)ご一行のことだから、すでに世界樹のもとに行き着いているものだと思っていたのだが。

 まさか、最深部に近付くにつれて、そのような仕掛けがあるなんて。

 迷いの森があるので、教会側も冒険者を入れても大丈夫だと判断したのだろう。


「ところで、魔法使い殿はひとりなのか?」

「いえ、ぶーちゃんがいますが」


 ぶーちゃんは勇者様(本物)を前に、優雅な会釈を見せる。

 その一方で、勇者様(本物)はぶーちゃんを見て驚いた表情を見せていた。


「これは!?」


 勇者様(本物)は片膝を突き、ぶーちゃん相手に丁重な挨拶を返していた。

 賢者も緊張の面持ちで、勇者様(本物)に続く。

 おそらく彼女達の目には、ぶーちゃんが普通の黒豚には見えなかったのだろう。


「魔法使い殿、こちらのその、ぶーちゃんとやらとは、いったいどこで出会ったというのか?」

「見つけたのは勇者様です。精肉店で売られているところを、非常食として購入しました」

「非常食……」


 勇者様(本物)から信じがたい、という目で見られる。

 賢者は「本物の大馬鹿者ね」と辛辣な言葉を吐いていた。


「して、その、例の勇者とやらはどこにいる? 一度、会って話をしてみたいのだが」

「ああ、勇者様もいないんです。先に死んでしまって、教会に運ぶ途中にロックの襲撃を受けて――」


 これまでの経緯を話すと、憐憫れんびんの視線を向けられた。


「私、一度も死んだことがないんだけれど、とっても痛いんでしょう?」

「ええ、痛いですね」

「どうしてそんなに平然としているの?」

「慣れと言えばいいのでしょうか……」


 母親は出産の痛みを乗り越え、次の子どもを産むと言う。

 それと同じで、私にとっての死はかろうじて耐えられるものなのだ。


「魔法使い殿はこれからどうするんだ?」

「世界樹を目指して、先に進もうと思っています」

「勇者とは合流しないのか?」

「はい。勇者様はきっと、私を見捨てて世界樹のもとへ行っているでしょうから」


 世界樹を目指していたら、勇者様に出会えるだろう。


「ねえ、勇者。私達もそうしない? 回復師ももしかしたら、世界樹を目指している可能性があるわ」

「たしかに。これ以上、彼女の捜索に時間をかけるわけにもいかないからな」


 回復師の捜索は一時的に中断し、世界樹を目指すことにしたようだ。


「魔法使い殿、目的地は一緒だから、共に行かないか?」

「え?」


 ありがたいお誘いだったが、賢者の視線が槍のようにグサグサ突き刺さっている。


「ちょっと勇者! あなたはどうして、困っている人を見たら、見境なく声をかけるのよ」

「賢者、今回の場合は、私達も困っている側だ。もしかしたら、彼女に助けてもらえるかもしれない」

「このちんちくりん魔法使いに!? 私達が助けられるですって!?」

「そうだ。今しがただって、魔法使い殿の意見を聞かなければ、私はまだ回復師を捜しに行っていたかもしれない」


 勇者様(本物)のまっすぐな視線を受けた賢者は、意見を曲げないと察したのだろう。

 私をビシッと指差し、宣言してくれる。


「あなた、私達の邪魔だけはしないでね!!」

「はあ」


 賢者がいるパーティーに同行して、役に立つとは思えないのだが。

 かと言って、迷いの森と呼ばれているエリアを挑戦しようとは思わなかった。


「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」

「こちらのほうこそ、どうぞよろしく」


 勇者様(本物)が差しだした手をそっと握る。

 そんなわけで、私とぶーちゃんは勇者様(本物)のパーティーに同行することとなった。

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