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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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魔法使い、甦る

 あんたなんか、この世界の誰の役にも立たない。

 そんな暴言が、脳裏にこびりついていた。

 私自身もそうに違いない、と思っていた。

 けれどもそれが間違いであると確信する。私はロックの幼鳥達の餌として選ばれた、名誉ある人間なのだ。

 私の命が、六匹の幼鳥達の血となり肉となる。

 十分すぎるほど、役に立っているだろう。

 自分という存在に自信を持って、天国にいける。

 そう思っていたのだが――。


「――神よ、迷える者を救い給え!!」


 昇天しかけていた意識が、急に呼び戻される。

 ハッと目を覚ますと、私を心配そうに覗き込む聖司祭と目があった。


「生きてる?」

「はい、生きておりますよ」


 起き上がろうとすると、頭がズキズキ痛んだ。


「まだ安静にしていたほうがいいかもしれません。あなた様のご遺体は、バラバラな状態で運び込まれたものですから」

「そ、そうだったのですね。いったいどなたが、私をここに連れてきたのですか?」

「それは――」


 背後の扉が開かれ、修道女に抱かれたぶーちゃんがやってくる。


『ぴいいいい!!』


 ぶーちゃんは嬉しそうな声で鳴くと、私のもとへ一目散に駆けてきた。

 よかった、よかったと言わんばかりに、体をすり寄せてくる。


「えー、そちらの豚様が、あなた様をここまで連れてきたのですよ」

「ぶーちゃんが、ですか!?」


 ぶーちゃんは誇らしげな様子で、『ぴい!』と鳴く。

 ロックに連れ去られ、竜巻でバラバラになった私を回収し、ここまで運んできてくれたようだ。


「ぶーちゃん、ありがとうございます」

『ぴいい』


 気にするな、とばかりに鳴いてくれた。


 それにしても、ロックに攫われて幼鳥達の餌になるところだったなんて。

 もしもぶーちゃんが助けにくるのが遅れて、食べられてしまったら、二度と蘇生なんてできなかっただろう。

 考えただけでもゾッとする。

 それにしても、酷い目に遭った。

 人は一度くらい、大空を飛べたらなんて幸せなんだろう、などと夢見る瞬間があるに違いない。

 けれども実際に味わうと、地獄としか言いようがなかった。

 生きて帰れたことに心から感謝した。


「あの、もうひとり金ぴかの成人男性と、人懐っこい犬は来ませんでしたか?」

「いいえ」


 どうやら私達はイッヌや勇者様よりも先に、教会に行き着いてしまったようだ。


「あなた様が運び込まれてから三日もの間、金の鎧を纏った冒険者はいらっしゃらなかったかと」

「三日?」

「はい。あなた様の体は損傷が激しかったため、蘇生に時間がかかったようです」


 ロックの襲撃を受けた現場から、教会まで徒歩一時間くらいだった。

 それなのにまだ、イッヌと勇者様は教会に着いていないなんて……。


『ぴい、ぴい!』


 ぶーちゃんが私の鞄を探り、地図を取りだす。

 器用に蹄で広げ、現在地をたしたしと踏む。


「あ、ここは!」


 目的地だった教会とは、違う場所だった。

 どうやらぶーちゃんは、攫われた場所に近い教会へ運んでくれたらしい。


「ああ、よかった。イッヌと勇者様に何かあったのかと思っていました」


 はぐれてしまったものの、命があるだけ儲けものなのだろう。


「まずは合流したいところですが――」


  飛んで移動したからか、ずいぶんと先に進んでいた。

 どうやってイッヌや勇者様と落ち合えばいいものか。

 勇者様の行動はまったく想像できない。

 どうしたものか、と考えていたら、ぶーちゃんが地図の最深部を蹄で叩く。


「ここは、世界樹のある場所ですね。世界樹を目指していけば、イッヌや勇者様と合流できるわけですか?」

『ぴい!』


 勇者様のことだ。私がいなくても、探しに行かないだろう。きっと、目的である世界樹を目指すはずだ。

 三日経っているというので、きちんと生きているのか怪しいところだが……。


「それにしても勇者様は、食事はどうしているんでしょうか?」


 携帯食は私がすべて持ち歩いている。勇者様が所持しているのは、行動食が十本だけだ。

 私抜きで、旅が成立しているとは思えないのだが。


「もしかしたら、すでにどこかで死んでいて、放置された状態かも……」

『ぴい、ぴいい!』


 ぶーちゃんが魔法陣を展開し、私に見せてくれた。

 それは、勇者様とぶーちゃんの間に交わされた契約である。


「これがあるということは、勇者様は生きている、ということですね」

『ぴい!』


 私とぶーちゃんのみで最深部まで行けるのか、心配だった。

 けれどもやるしかないのだろう。


「ぶーちゃん、頑張りましょう」

『ぴい!』


 ちなみに死者蘇生用の寄付は、ぶーちゃんが稀少なアイテムと引き換えてくれたようだ。

 なんてできる子なのか。

 これから先はうっかり死なないよう、これまで以上にしっかりしていないといけない。


 教会をでる前に、修道女が引き留めてくる。


「こちらの教会へ転移する魔法巻物を、特別にご紹介しているんです」

「ええ……。でも、お高いんでしょう?」

「一枚、金貨十枚の寄付金となっております」


 ロックに攫われたときも、魔法巻物を使って転移すればよかったのだ。今になって気付く。

 大森林内の教会へ繋がる魔法巻物があれば、もしものときに役立つだろう。

 勇者様のご実家にツケる形で、入手したのだった。


 教会の外には、宿泊施設や道具屋などがあるようだ。

 でてみると、ちょっとした村のようになっている。いくつか露店が出店されていて、食べ物や珍しいアイテムを販売しているようだ。

 行き交う冒険者達は、仲間の復活を待っているのだろう。手持ち無沙汰な様子でいた。

 ひとまず持ち歩くアイテムを見直したい。

 道具屋でも勇者様のご実家のツケは効くだろうか。なんて考えていたら、背後より覚えのある声が聞こえた。


「――まったく、あの子ったらドジなんだから!!」

「まあまあ、彼女も人間なんだから、失敗もあるだろう」

「もう! 勇者は甘いんだから!」


 振り返った先にいたのは、麗しのハイエルフ。

 そして、銀色の板金鎧をまとう美しき勇者様(本物)であった。

 

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