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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第三章 大森林の大問題

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死んでしまった勇者様

 魔法薬での回復が間に合うと思いきや、勇者様はすでに死んでいた。

 朝から盛大なため息を吐いてしまう。


「お腹が空いたのでしょうか……」


 行動食は与えていたので、我慢できないのならばそっちを食べてほしかったのに。

 猛毒キノコがおいしそうに見えたのだろう。猛毒キノコは茶色い地味なキノコでいい香りがする。とても毒キノコには見えないビジュアルなのだ。

 魔法学校で毒キノコと食用キノコの見分けを習っていただろうに。きっとその授業は眠っていたのだろう。


 ふと、ここで気付く。私のほうにも、焼いた猛毒キノコが置かれていた。

 まさか、朝食を用意してくれたのか。

 よくよく周囲を確認してみると、近くに生えていた木の根っこに、猛毒キノコがいくつも生えている。

 昨晩は暗かったので気付いていなかったが、この辺りは猛毒キノコが自生する、毒キノコの森だったようだ。


 せっかくここまでやってきたのに、勇者様が死んでしまうなんて。

 教会に戻ろうか、と転移の魔法巻物を出しかけたが、ちょっと待てよ、と思う。

 大森林の地図を広げてみたら、教会が比較的近くにあった。


「ここから一時間くらい歩いた先に、死者蘇生をしてくれる教会があるようですね」


 ちらり、とイッヌやぶーちゃんを見る。

 ふたりとも察しがいいのか、力強くこくりと頷いてくれた。


「イッヌ、勇者様を教会まで運んでくれますか?」

『きゅん!!』

「ぶーちゃんはモンスターがいない道を案内してくれますか?」

『ぴい!』

「ありがとうございます」


 イッヌとぶーちゃんは、確実に勇者様よりも賢いし、パーティーの一員として活躍している。

 感謝の気持ちで心が満たされた。


 死者蘇生させるならば、早いほうがいいだろう。

 ひとまず、ぶーちゃんに朝食を用意してあげなければ。


「ぶーちゃん、朝食は何が食べたいですか?」


 干し果物やスープ、パンなどの携帯食を見せたが、ぶーちゃんは首を横に振る。


「食欲がないのですか?」

『ぴいいいい……』


 ぶーちゃんは白目を剥いて死んでいる勇者様を振り返る。

 たしかに、勇者様の死体の前で何か食べようという気にはならなかった。


「では、先に進みましょうか」

『ぴい!』


 出発する前に、ぶーちゃんは地図に向かって真剣な眼差しを向けていた。

 ぶーちゃんは地図も理解しているらしい。

 蹄で地図を指し示しながら、小さく『ぴい、ぴいい』と確認するように鳴いていた。


 水分補給だけ行い、教会を目指す。

 イッヌは勇者様の足先を咥え、ずるずる引きずり始めた。

 ぶーちゃんは先頭を歩き、私達を誘ってくれる。頼もしい背中を見せてくれた。


 道中は途中まで順調だったが――。


『ギャア! ギャア!』


 上空からモンスターの鳴き声が聞こえた。巨大な鳥系モンスター、ロックである。

 さすがのぶーちゃんも、上空から襲いくるモンスターは避けられなかったのか。


『ギャー!!』


 ロックが向かう先は、勇者様であった。死体漁りをしにきた、というわけなのか。

 鋭いかぎ爪が付いた足が伸ばされる。


「勇者様!!」


 魔法は間に合わない。というか、地面から岩漿マグマを噴き出す大噴火イラプションは、飛行系のモンスターには大きなダメージを与えられないだろう。


 もうダメだ。そう思った瞬間、ぶーちゃんが大きく跳び上がった。

 蹄でロックの嘴を叩く。


『ギャウ!?』


 思いがけない方向からの攻撃に、ロックは驚いたようだ。

 すぐに狙いをぶーちゃんに変え、反撃を試みる。


『ギャッ、ギャッ!』


 ロックは少し飛び上がり、竜巻サイクロンを起こす。

 鎌のように鋭い風が巻き上がった。

 イッヌは勇者様が飛んでいかないように、お腹の上に乗って重石代わりになっていた。あの小さな体で、押さえておくのが可能なのか疑問なのだが……。

 私も飛ばされないようふんばる。


 ぶーちゃんはロック相手に、勇敢な戦いを見せていた。

 ただ、ロックが高く飛ぶとぶーちゃんの攻撃は当たらない。

 そう思っていたが、ぶーちゃんが想定外の行動にでる。


『ぴいいいいいいいいい!!!!』


 上空にいるロックに向かって、ぶーちゃんが高い跳躍を見せる。

 蹄をナイフのように突きだし、ロックの右目を潰した。

 それだけでなく、ロックの背中に回り込み、攻撃を加えているようだ。

 翼をズタズタにすると、ロックは飛行能力を失い、地面に向かって真っ逆様に落ちていく。ぶーちゃんはロックの背中から飛び下り、美しく見事な着地を見せていた。

 驚いたことに、ぶーちゃんは単独でロックを倒してしまったようだ。


「すごい……! さすがぶーちゃん」


 勇者様が死んだままでも、ぶーちゃんさえいたらこの旅は成立するのではないか。

 そんなことまで思ってしまう。


「ぶーちゃん、ケガはありません――」


 言いかけた言葉を途中でヒュッと飲み込む。 

 一瞬、強い風が吹いたのかと思っていたのだが、それは間違いだった。

 胴を強く掴まれ、私の体は宙に浮く。

 ぶーちゃんやイッヌ、勇者様の死体がどんどん遠ざかっていった。


『きゅうううううんん!?』

『ぴいいいいいいいい!?』


 信じがたい話なのだが、私は新たに現れたロックに攫われてしまった。


「ひ、ひいいいいいい!!!!」


 大空を舞い、生きた心地がしない気分を存分に味わう。

 私はどこに運ばれているというのか。

 最終的に行き着いた先は、ロックの巣だった。

 そこにはかわいらしい六羽のロックの幼鳥がいて、ピイピイとかわいらしい声で鳴いている。

 どうやらこのロックは、母鳥だったようだ。

 私は幼鳥達の餌として、捕獲されてしまったのだろう。どうしてこうなった。


『ギャア』


 母鳥のロックは幼鳥達に向かって、優しげな声で鳴いていた。

 もうすぐ食事の時間ですからね、とでも言っているのだろうか。


 私を巣に落とすと、幼鳥達から猛烈に突かれる。


「い、痛い!! いたたたたた!!」


 このまま幼鳥達に突かれて死んでしまうのか。

 そう思っていたが、想像は大きく外れる。


 母鳥のロックは再度飛び上がり、巣に向かって竜巻を放った。


「ちょっ――!?」


 どうやら竜巻を利用し、私を六頭分に切り分けるつもりらしい。

 鋭い風に全身を切り裂かれ、私は息絶えることとなった。

敵:ロック

死因:魔法使い→才能ギフト竜巻サイクロン〟による出血死。

概要:竜巻サイクロン・・・鋭い風で敵を切り裂く、風系中位魔法

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